第477話 壁の魔法騎士とダークエルフ
【前回のあらすじ】
女エルフが立ち向かうのは、幼き日々の出来事。
彼女の母。大英雄セレヴィが、彼の悪名高き魔女ペペロペにその精神を支配される、その瞬間に立ち向かうということであった。
つまり、ベッドの下の暴れん棒にまつわる話、それである――。
しかし今はしばし、久しぶりの家族の再会に、そんな下世話な話をするのはやめておこうと思う。
「お
「もう、どうしちゃったのモーラ。私のことを探していたのね。よしよし、心配しなくても大丈夫よ。お
女エルフはこの時、本当に掛け値なしに心の底から、母と再び巡り合えたことを喜んでいたのだから。
さてさて、そんな彼女と本編はさておいて。
今週末もリーナス自由騎士団パートでございます。
◇ ◇ ◇ ◇
壁の魔法騎士を直撃したかに思えた紙でできた使い魔。
鋭いその嘴が貫いたと思ったその時。
「舐め、るなぁっ!!」
大気中を待っている砂塵をかき集めて、壁の魔法騎士は自分の頭部に壁を展開した。二重三重――五層からなるその壁に突き刺さって、紙の使い魔はつぶれる。
それでもその嘴の先を、あと少しという所まで、壁の魔法騎士にまで近づけたのだから、その魔力はすさまじいものであった。
団長、と、すぐに彼の隣にいた女軍師が、近くに落ちていた槍で紙の鳥を打ち払う。それから数秒、おそらく爆破の魔法も織り込まれていたのだろう、その身を拘束している壁と共に、使い魔は爆発四散して戦場の塵と化した。
「……バトフィルド!!」
「すみません!! 現状の戦線を維持するのに手いっぱいで、第三騎士団に手が回せませんでした!! 交戦中の第二騎士団の横面に激突する形になります!!」
「……くっ!! まだ、回復は不十分だが!!」
自分が出るしかないか、そう、壁の魔法騎士が手袋をはめなおした時。その眼前に茶色い肌に銀髪をした妖艶な女性が突如として姿を現した。黒いローブに身を包んだ彼女は、にこりとも笑わず、壁の魔法騎士を睨んでいる。
その耳は、人間にあらず。鋭く、長く、尖っていた。
ダークエルフの女である。
同じく魔道に足を踏み入れた者として分かる。
目の前に現れたその者が、魔法使いとしてどれほどの実力を有しているか。
そしてもう一つ、分かることがあった。
「あの紙の鳥を仕向けたのは、貴様だな――ダークエルフの女!!」
「お初にお目にかかります、リーナス自由騎士団団長ゼクスタントどの。私は、暗黒大陸の魔法使いアリエス。災厄の魔女、ペペロペの名を継ぐ者」
「ペペロペの名を継ぐ者だと」
「魔神シリコーンさまから力を分け与えられし次代の魔神の巫女。とだけ、申せば察していただけますでしょうか。もちろん、勇者スコティと魔女ペペロペの争いについて、貴方も通暁しているのでしょう。この世界の守護者であるリーナス自由騎士団、その団長を務めている貴方なら」
それ以上の説明は不要という感じに、女ダークエルフが杖を向ける。
魔女ペペロペが持っていた、仰々しい杖と比べて、飾り気のない樫の木のその杖。しかしながら、よほどの霊樹から削り出したものなのだろう。彼女が握る先から、杖の先まで、まるで雷が落ちるように、激しい魔力が走るのが壁の魔法騎士には分かった。
伊達に、暗黒大陸の巫女の後継者を名乗るだけはある。
「虚構魔法!!
そして飛び出す虚構魔法。
四族魔法に縛られず、摩訶不思議な力を発揮するその魔法を使いこなすその姿に、壁の魔法騎士は瞬きも忘れて見入った。そんな彼を、ギリギリのところで、大きな紫の手が引き留める。
ずたずたに引き裂かれるのは、彼の顔から零れ落ちた眼鏡。
同時に――。
「ゲト!! なぜ、ここに!!」
「父さんが後方待機させていたんじゃないか」
「勝手に前線に出てくるなと言っただろう。お前の出番は」
「そう言って、また僕を出撃させないつもりでしょう。やめてよ。僕はもう、リーナス自由騎士団の立派な騎士だよ」
そう喋ったのは紫色をした鬼。
一角、男戦士がその身に宿している、アンガ・ユイヌとよく似た姿をしたその鬼は、穏やかな声色で、腕の中に抱いているリーナス自由騎士団団長に言った。
ほう、と、女ダークエルフが眉をひそめる。
「鬼を飼っているのですか。ふむ、リーナス自由騎士団ともあろうものが堕ちたものですね。まさか、鬼の力に頼ろうとは。かつて中央大陸から、鬼を駆逐したのは貴方たちではなかったのですか、壁の魔法騎士ゼクスタント」
「……黙れ!!」
殺気が、城壁の上にたちまちに満ちた。
何か、地雷を踏んだと、女ダークエルフが気づいた時にはもう遅い。
壁、壁、壁。長大なる中央大陸連邦共和国首都リィンカーンを囲っている煉瓦の壁。その一部が、ばらばらと、まるで積み木を崩すように崩れたかと思うと、礫の嵐となってダークエルフに襲い掛かったのだ。
たまらず、顔を歪ませて、ダークエルフが後ろに下がる。しかしながら、その猛追は止まることはない。そして、鬼の腕の中に抱かれている、リーナス自由騎士団団長、ゼクスタントの怒りの形相も、収まることはなかった。
「何者も!! 俺の家族を!! 俺の妻を!! 俺の息子を!! 侮辱することは許さない!! 女ダークエルフ、貴様は今、俺の大切なモノに触れたぞ!!」
「……おぉ、怖い」
凄んで見せる一方で、冷徹に壁の魔法騎士は状況を分析する。
第三部隊を止めている場合ではない。
この目の前の魔法使いは、おそらく、自分や女軍師たちが、束になってかかってもようやく止められるかという相手だろう。
このまま、みすみす、いいように第三騎士団にさせるのか。
そう思った時。
「セクシー!! エルフ!!」
一陣の風、そして、ふんどし、そして、奇声と共に、そいつは突然現れた。
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