第469話 大剣使いとメイド地獄

【前回のあらすじ】


 ドゥダァ、ドゥ、ドゥ♪ ドゥダァ、ドゥ、ドゥ♪(あの音)


「あの、三百歳で後衛職、そこに加えて運動不足、魔界天使白スク水にお腹のお肉が浮いて見えてはずかしいモーラさんも」


 パーパラッパ、パーラララ♪ パーパラッパ、パー♪(あの音)


「一ヶ月で、この美貌!! 結果にコミットするエルフダイエット!! それが――」


「美エルフ三百歳エルフザップ!!」


 なんのこっちゃ。

 そんな感じで、モーラさんがダイエットを始めるみたいです。

 大変ですね。


「おい!! 始めさせておいておい!! お前が話の流れを造っとるんやろうが!!」


 キャラがね。勝手にね。動きよるんですわ。


「おい!! 動いとらんわい!! 冤罪!! 冤罪だから!!」


 という感じで、どエルフパートが散々な感じでキマって行く中(ウワキツ)、今週も中央大陸連邦の死闘編です。さぁ、殺人メイドと、大剣使い、どちらの技が上回るのか。

 こういうのを王道ファンタジーって言うんですよね(ウワキツ)。


「ウワキツウワキツ弄るのやめろ!! お前、ほんと、ヒロインをもっと丁寧に扱え!!」


 ――ヒロイン(ウワキツ)。


「おい!! しばくぞ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 戦場に現れた殺人メイドキサラ。

 対して、それに立ち向かうのは大剣使いと、役に立つのか立たないのか怪しいラインの金髪少女。今回ばかりは口八丁手八丁、言葉でやりこめる金髪少女の出番はどうにもないように思われた。


 それでも大剣使いの隣に立つのは、パートナーとしてのプライドからだろうか。

 下がっていろと大剣使いは目で制したが、彼女は下がろうとはしなかった。

 ため息と共に大剣使いが視線を戻す。


「足を引っ張ることだけはやめろよ」


「分かっておるのじゃ」


 分かっているならさっさと後ろに隠れてくれ。

 そんな空気を醸し出しながらも、大剣使いがその巨大な刃を正眼に構える。身の丈と同じくらい、幅は彼の顔を隠す程度。

 まさしく剣と言うには大きすぎる。 


 鋼の塊を握り締めて、大剣使いは裂帛の気合を肩から昇らせた。

 ただ構えを取っただけだというのに、身を裂くような感覚が周りの兵を襲う。暗黒大陸の兵たちは、寄らば斬るという彼の雰囲気にのまれて、その足を止めた。


 しかし。

 将たる者――殺人メイドはその限りではない。


 仮面の将よろしく、彼女も暗黒大陸の将たちの中では武闘派なのだ。


「んふー!! いいですねぇ、いいですねぇ!! そういういかにも戦士でございますという感じ、キサラ、とっても好きですよ!! 何事もまずは形から!!」


「その通りだ。型を修め、修羅場をくぐり、己の血肉として初めて戦士は戦士足りえる。力任せの一刀など要らぬ。理詰めに突き詰めたただ一振り、それだけよ」


「ますます気に入りましたぁ!! それでこそ、この――対殺人用途に極めし技、メイド殺法を披露するのにふさわしい相手!! ささっ、それでは存分に、殺しあいましょうか名もなき戦士!! 変幻万華のメイド殺法、目にもつかぬ早業慣れど、きっと貴方ならついてこれましょう――さぁ、ご覧そうじろ!!」


 メイド殺法――唱えるが早いか彼女の体が宙を舞う。

 まるで弾丸のように回転して、頭から飛んできた黒いメイドは、その広く開いたフリルスカートの中から、両手いっぱいにナイフを握り締めていた。

 左右、手に四本ずつ。合わせて計八本。


 回転する黒い華はその花弁をきらめかせると、大剣使いに向かって投げつける。全てそれは一筋で繋ぐことのできない、計算しつくされた乱れ撃ち――その大剣を使って払いのけるのは難しいことのように思えた。

 しかし――。


「ふんっ!!」


 振り抜いた大剣が地面を抉る。

 飛び散る赤土と石が、ナイフに当たって軌道を逸らす。

 まるでそれが定石とばかり、粉塵の壁を作りだして大剣使いは、一歩、回転する殺人メイドに踏み込んだ。土を穿った大剣は、既に構えなおして下段にある。


 切り上げの一撃――。


 だが、それをメイドの脚が止めた。

 いや、脚というには、その脚は、あまりに狂気に満ちていた。


 思わず、鉄面皮の大剣使いの顔に汗が走る。


「あらあらご主人さまいけません。そのように、淑女のスカートの中をみだりに覗いたりしては。乙女のスカートの中には、秘密がいっぱいでしてよ」


 ロングスカートの中に隠れていたのは、ナイフナイフにまたナイフ。ストッキングのようになったホルスターに収納された、百本は優にあるのではないかという、恐ろしい数のナイフであった。これを抜き去り、乱れ撃ち、相手を仕留めるのだろうが、それにしても多すぎる。


 大剣使いの頭の中を過る戸惑い。

 それを濃厚な死の気配が、一瞬にしてかき消した。

 繰り出されたのは、そうその脚。ナイフで満たされたメイド殺法使いキサラの脚による蹴り上げ。幾つかの刃先がホルスターからでているそれは、まさしく、狂気の一撃と言って差し支えなかった。


「ですからご主人様、おいたはいけませんYO☆」


 そう言って、バックステップで大剣使いから離れると、ひょいとスカートの先を摘まむ殺人メイド。彼女の不敵な笑いに、大剣使いは眉間に皺を寄せる。


 この道化。ただの道化ではない。

 やもすると自分より強いかもしれぬ。

 彼は剣を構えなおすと、正中線を隠した。


「なんの捻りもない戦い方。癖もなく、驕りもなく、独自性もない。ただただ、基本に忠実に、そして、己の体躯に素直に鍛えたその一刀。素晴らしいですね。その仕事人ぶりには、プロメイドのキサラもきゅんときちゃいます」


「褒められたのか、貶されたのか、よく分からんが――」


 とりあえず、斬る。

 二人の戦士が再び激突した。


 その後ろで。


「むむむむっ!! なんと手ごわい相手よ!! わらわの大法力を寄せ付けぬとは!! すまぬハンスよ!! 一人で頑張ってくれ!!」


 スプーンを手に大法力のヤミは、ペテンをしかける相手もいないというのに、必死な顔をしてその力を披露しているのであった。

 そんな彼女を歯牙にもかけず、二人の戦鬼は咆哮と共に、己の持つ剣技でもって相対した。

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