第470話 どエルフさんと美エルフ三百歳エルフザップ

【前回のあらすじ】


「美エルフ三百歳エルフザップ!!」


 大剣使いと金髪少女が中央大陸連邦共和国リィンカーンで殺人メイドと激突する中、そんなまた厄介なイベントを発生させる女エルフたち。イベントが発生するのは近代ゲームのお約束だけれど、ちょっとそのイベントはないのではないのか。真面目にやったらどうなのか。流石だなどエルフさん、さすがだと言わざるを得ない。


「はいはい、流石だな、さすがだな」


 え、ちょっと、モーラさん。

 もう少しこう、色々とあってもいいじゃないですか。

 なんでそんな冷めた反応するんですか。


「いや、マッチポンプでイベント発生させといて、そういうこと言いますかね?」


 ククク。

 そう、すべては作者の掌の上。


 という感じで、ご都合主義に拍車がかかるかかる。

 今週も、というか、今年も、リーナス自由騎士団側の進みの具合で、時間稼ぎか新イベント、美エルフ三百歳エルフザップ編はじまります。


「ほんと、いつになったら、大陸の方に帰れるのよ」


 ☆ 読者さんごめんなさい――!!(最近週初めはこればっかり)


 ☆ そして、新年あけましておめでとうございまーす!!(今年もよろしく)


◇ ◇ ◇ ◇


「しゃーっ!! おらぁーっ!! やったろうじゃないのよ、美エルフ三百歳エルフザップ!! 私がただのエルフだと思ったら大間違いだ、やる時はやるエルフ、それが、このモーラさんだということを、思い知らせてくれるわー!!」


「うぅむ、なんということだ、美エルフ三百歳エルフザップの意味は分からんが、とにかくすごいやる気だ」


「すごいやる気ですね」


「だぞ。こんなに燃えてるモーラはなんだか久しぶりに見るんだぞ」


 モーラは燃えていた。

 美エルフ三百歳エルフザップという、無理難題を押し付けられたにも関わらず。彼女は今、猛烈にエルフザップに燃えていた。


 なぜか。

 理由は簡単である。


 思い知ったのだ。

 今回、ウワキツ水着――魔界天使白スク水を着用して思い知ったのだ。

 自分のだらしなくなってしまった体に。そう、三百歳だから仕方ない。なんていうか、エルフ年齢的にもそろそろお肌も下降線、肉体の方もちょっと緩くなってくる。それが当たり前と思っていた自分の醜い姿に直面してしたからだ。


 前回のビキニの時は、逆に普通の水着であるから助かった。それこそ、三十代の人間女性が着ていたら、なにこの肉ぅちょっと運動した方がいいんじゃないのー、で、済まされる程度のダメージであった。


 そう、女友達と海に行って、からかわれる程度のダメージで済んだのだ。


 普通のビキニだったから。


 しかし、今回着た魔界天使白スク水は言い訳のきかない水着であった。

 お肌ぴちぴち、若くてプロポーションのいい娘でないと着てはいけない、諸刃の水着であった。


 布面積の大きさは明らかに魔界天使白スク水の方が多い。

 しかし、多いからこそ、ラインが余計に強調される。

 肌が出ていれば、なんというか、その体のエロティクスさ、ナチュラルさで、ある程度ごまかしが効くもの。だが、そこに布による強調が入ることで嫌でも体形の歪さが浮き出てしまう。


 ウワキツウワキツと散々ネタにしたが、正直、冗談抜きにキツかった。

 いや、男としては――男戦士のようにそんな君も素敵だと、言える感じのマニアックなよさみがあったが、女としては許せない肉体の衰えを感じさせるものだった。

 故に、女エルフは決意したのだ。


 痩せようと。

 割とガチで本気で、痩せてこの魔界天使白スク水が似合う、美貌を取り戻そうと。


 だいたい、三百歳エルフだからと諦めていたのが間違いだった。エルフは、千歳を超えるまで生涯現役。パーフェクトな美しさを維持しなくてはいけない。だというのに、自分は後衛職だから、冒険職しているから、ちょっとくらいだらしないのは仕方ない。むしろ仕事に一生懸命な自分偉い。自分を犠牲にして、仕事を頑張る私偉い、などという、ごまかしをして過ごしてきたのに今気が付いたのだ。


 そう、暗黒大陸の危機が今そこに迫っているというのに、今更気が付いたのだ。


「痩せたるわーい!! んでもって、ティト!! モーラなのかって聞いてきて、モーラよって返すくらいの美人になってやるわーい!!」


「モーラさん、そのネタ、どこかでやったけど、微妙に上の世代にも伝わらなかったからやめた方がいいぞ!!」


「なんでや、エステCMの先駆けやろ!! エルフとエステ似てるやろが!!」


「頭文字しかあってません!! まだ、赤いモンスターの方が似てますよ!!」


「HAHAHA!! やぁ、私、エル〇!!」


「誰か、エル……モーラさんを止めろ!!」


 そう、そして、割と今回の一件。

 いまさらながらにモーラは深い傷を負っていた。

 ウワキツウワキツ言われすぎて、割と臨界点を突破していた。


 人間の心というのは脆い。壊れてしまうとなんとやらである。

 とにかく、そんな精神的な脆弱さも、肉体的な脆弱さも克服しないことには、暗黒大陸の巫女と化した彼女の養母と戦うことはできない。


 養母――大英雄スコティの仲間であった女魔法使いセレヴィは、もっと際どい衣装を身に付けているのだ。そして、割とそこそこ似合っているのだ。彼女が知る限りで、五百歳は超えているはずなのに、ぴっちぴっちの美エルフなのだ。


 母に負ける女エルフがあっていいものか。


 胸は仕方ない。

 顔も仕方ない。

 性格の悪さも仕方ない。


 しかし、年齢で負けてはならぬ。


 ならぬ。

 ならぬのだ。


「お養母かあさんに負ける訳にはいかないのよ!! 私も腹を括ったわ!!」


「括ると余計にきつくなるんじゃないのか、モーラさん!!」


「いらんこと言わんでよろしい!! とにかく、その美エルフ三百歳エルフザップ、絶対にやり遂げてみせる!! エリィ!! 何をすればいいのかしら!! 遠慮せず言いなさい!!」


 分かりました、と、第一王女が腕を組んで目を瞑る。

 もったいつけたその素振りに、早くしなさいよと食いつく女エルフ。

 もはや、一切の余裕もなかった。それくらい彼女にとって、プロポーションの復元は一大事だったのだ。

 絶対に、絶対に痩せてみせる。


 決意の焔が彼女の瞳を焦がしている。

 あぁ、その瞳に、男戦士たちが、再び、すごいやる気だと息を呑む。

 そんな彼女に向かって、その義妹である第一王女は――。


「まずは基礎代謝力を高めましょう。背筋、腹筋、それから足回りの筋肉ですね。ベンチプレスやバックエクステンションなんかの機器を使うのが効率的ですが、自重でトレーニングすることもできます。筋肉を育成すのになにより大切なのは環境ではありません。継続する強い心です。そう、継続は筋肉なり。もっとも、筋疲労を忘れてはいけません。トレーニングは二日おきに。でないと疲労で筋肉が壊れてしまいます。それに加えて、運動量を増やしましょう。ランニングなど無理してする必要はありませんが、理想的には一日一時間程度、ジョギングやランニングなどをすると効果的です。水泳なんかもいいですね。一時間のエネルギー消費量は300キロカロリーとたかがしれていますがこの積み重ねは馬鹿になりません。基礎代謝と消費カロリーをあげて、健康的で、効率的なダイエット、そしてプロポーションづくりこそ、美エルフ三百歳エルフザップの」


「ごめん、エリィ、もうちょっと、現実的なのにしてちょうだい」


 ダイエットとしては現実的。

 だが中央大陸の危機が迫っている現状では現実的ではない。

 そんなダイエット案を第一王女は提示してきたのだった。


「なんでですか!! ダイエットに近道はないんですよ!! 弛まぬ鍛錬、日々の積み重ねが、心と体に現れるんです!! 忍耐と信念ですよ、お姉さま!!」


「いや、そうなんだけれど!! そうなんだけれども!! 考えてエリィ!!」


「楽して痩せたいとか、なんて都合のいい奴。流石だなどエルフさん、さすがだ」


「口ばっかり達者で、実態を伴わない典型例ですね。エルフのクズです。流石ですねどエルフさん、さすがです」


「おうこらティトにコーネリア!! 時間がないっちゅう話をしとるんやろうが!! お前、今がどういう状況かちゃんとわかっとんのか!!」

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