第458話 どエルフさんと星辰の正しき刻

【前回のあらすじ】


「オラ、どエルフになります!!」


「ならんでよろしい!!」


 とそんな感じで、いつものアホアホパロディをかましていて油断していた女エルフたち。

 しかしそんな所に突然と、女エルフは海の果てに存在する巨大な神聖を感じた。そう、外宇宙から飛来したそれこそは、この世界に存在してはいけないモノ。

 偉大なる旧支配者。それが眠る海の底――。


 パロディを始めた時、既にこの路線は見えていた。

 そう、今年のF〇O夏イベパロをやり始めた時に、この展開は見えていた。

 相手が復讐者アヴェンジャーから狂戦士ガッ〇崎しげるになった時点で気が付くべきだった。


 そして、魔界天使白スク水には触手がつきもの。


 そう、すべてはこのパロディのため。

 どエルフさん、五章。魔法少女一番勝負、いよいよクライマックスです。


「……ィァィァ」


◇ ◇ ◇ ◇


「どうしたんだモーラさん!! そんなトロンとした顔をして、呆けている場合じゃないぞ!! 敵の攻撃はまだ続いているんだ!!」


「だぞ、モーラ!! しっかりするんだぞ!!」


「待ってください!! これは、この雰囲気は!!」


 狼狽えて声を上げたのは女修道士シスター。彼女は顔を青ざめさせて、女エルフが見つめる水平線の果て、海の向こうに輝く星を見ていた。

 その水平に、緑色をした不知火が立ち昇る。

 かと思えば波の音が一斉に止んだ。


 あり得ぬことがその場で起こった。


 奇跡、神秘、それよりも彼らを襲ったのは――宇宙的恐怖コズミックホラー

 今、男戦士たちは、異世界ファンタジーという枠を飛び出して、ホラーの世界に足を突っ込もうとしていた。そう、それこそは、今やサブカルチャーの域を飛び出して、ホラージャンルのメインストリームとして猛威を振るっているモノ。


 知らぬならばもはや現代人とは言えない。

 恐怖の神話。おそるべき宇宙の神々。その暴虐と葛藤と狂気。


 あぁ、それこそは音もなく我々の日常に迫りくる、這い寄る混沌――。


「なんてこった!! モーラの奴は、大変なモノと接続しちまったみたいだね!!」


「ミッチー!!」


 現れたのは何かと頼れる土の精霊王。

 数ある精霊王の中でも、類まれなる頼りっぷりを発揮する肝っ玉精霊王ことミッチーであった。


 彼女が契約している女エルフ。

 その危機を感じ取って、呼んでもいないのにわざわざ姿を現したのだ。

 そして彼女はそのまま、海の果てを見つめる女修道士シスターを見つめ返した。


「どうするんだい、アレはあんたらの管轄だろう」


「……はい。けれど、モーラさんと交信するとは、正直に言って予想外でした」


「だろうねぇ。エルフの娘を気に入るとは。あるいは、アイツなりに、シリコーンがこの世界に介入していることに危惧しているのかもしれない。なにせ、邪神と対を成す存在だからね……」


 訳知り顔の二人の間で会話が進んでいく。


 男戦士、店主、第一王女、隊長、ヨシヲ。隊長を除いて、知力の低い面々は、その言葉から何も汲み取ることができずにきょとんした顔をする。

 そん中、ただ一人、ワンコ教授だけが――。


「だぞ!! もしかしてなんだぞ!!」


 知能判定のロールに成功した。

 いや、彼ら二人が語っている、女エルフに交信した高次存在について思い至った。


「分かったのか、ケティ!!」


「どういうことなんだ、プリティーケティちゃん!!」


「どういうことなんです、ワンコちゃん!!」


 分からないバカたちがワンコ教授に視線を向ける。いつもの劇画調の顔になった、ワンコ教授は、うむと頷くと揺らめく緑の陽炎に視線を向けた。


 海より来る、その狂気の緑の光の正体を彼女は知っている。

 考古学者の彼女は知っている。


 各地で信奉されていた神々。

 その影に隠れて暗躍する、それよりも強大な力を持った存在。

 神話の中の黒子。真に神代の世界を這いずり回っていたもの。


 ――などではない。


「あの緑の漁火は間違いないんだぞ!! 今日は正しき星辰の日にして刻!!」


「正しき星辰の日にして刻!?」


「そう、それこそは、我が教会が信奉する神の御業!!」


「神の御業!?」


「そうそれこそは、古より言われる存在――!!」


【キーワード 這い寄る月曜日: だいたい午後六時半くらいからやってくるどうしようもない寂寞感。それに囚われてしまうと、なんていうか、もうこのまま世界のどこからも消えたくなってしまう、透明な存在になりたい感情に囚われてしまう。山下〇郎、あるいは、村上〇樹がよく似合う日曜日の夕方のことである。けれども、やっぱり一番よく似合うのはこれであろう】


 曜日は日曜、刻は午後の六時半。

 そう、それこそは、正しき星辰の刻。

 正しきアニメの刻である。


 その時、海鳴りが戻ったかと思うと、大きな波が押し寄せる。


 人の身長の倍はあるかという波の中から現れたのは巨大な岩陰。ついさっき、波が押し寄せるより前には、そこに確かにそれは存在しなかった。緑色のコケにまみれた岩は、天に向かって起立する、さながら芸術的なオブジェである。


 それが――静かに発光する。

 それは海の果てに見える緑の漁火と同じ色味であった。


「サザ〇でございまーす!!」


 サザ〇。

 そう、サザ〇である。


 浜辺に漂着した、その大きな岩はまさしくサザ〇。巨大な人の身長の倍はある、そして人語を喋る海産物、ビックサザ〇であった。


 そう、這い寄る月曜日である。

 サザ〇さんシンドロームである。


 そして、それこそは、女エルフが思わず接続してしまった神の眷属。

 うすうす気づいていたかもしれないが、海を司る神にして、人々の営みを守護する海母神マーチの使者に間違いなかった。


 そう、今、女エルフが接続したのは、クトゥ〇フでもなんでもない。


「海母神マーチ!! まさか、貴方が力を貸してくれると言うのですか!!」


 女修道士シスターが叫んだ。


 彼女たち教会があがめるこの世界の女神。

 その力が、今、女エルフへと流れ込んでいた。

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