第456話 ど戦士さんとどエルフ墓場

【前回のあらすじ】


 一方的な異世界漂流者ドリフターの少女の攻撃。翻弄され蹂躙される女エルフ。

 キャストオフしてイベント限定グラスク水になることすらできない一方的な消耗戦の中、少女が唐突に女エルフに対して侮りと驕りを見せたかと思うとその手を止めた。


 勝負を諦めるように諭す異世界漂流者ドリフターの少女。

 そんな彼女に、久しぶりにブチキレて、魔界天使白スク水にキャストオフする女エルフ。しかし、変身してなお彼女にその拳は届かない。その純白の腹に重い拳を沈められて、白目を剥いたのだった。


「……そ、そんな。せっかく、恥ずかしい格好になったのに。なんで、力が、湧いてこないのよ」


「しっかりするんだモーラさん!!」


「……これは、いったい」


 困惑する女エルフ。

 そんな彼女たちに叱咤激励するような声をかける者があった。

 そうそれこそは、紺色の桃尻鮫肌スク水に三度笠を被った男。


 ザ・店主。


「火事場のどエルフ力が、どエルフ墓場に封印されたのだ!!」


 言葉の意味は分からんが、とにかくすごい展開だ。

 そんな感じのことを、奴は姿を現すやいきなり言い出すのだった。


 何を言っているのかわからないだろうが、作者もよくわかってねーぜ。


「じゃぁやめなさいよ!! こんな意味の分からない展開!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「火事場のどエルフ力!?」


「どエルフ墓場!?」


 店主の口から飛び出したパワーワードに反応する女エルフたち。

 どういうことなんだと店主に食って掛かったのは、リングから降りられない女エルフに替わって男戦士だった。

 彼は揺れると危ない店主の体を、これでもかと激しく揺すって尋ねる。


「なんなんだ火事場のどエルフ力とは!!」


「その名のとおりだ。火事場において発揮される、モーラさんが持つ、どエルフパワー。奇跡を起こす逆転ドスケベ。それが――火事場のどエルフパワー!!」


「火事場のどエルフパワー!!」


「持っとらんわ!!」


 すかさず、立ち上がったのは女エルフだ。

 さっき白目を剥くような、強烈な一撃を異世界漂流者ドリフターの少女から貰ったにもかかわらず、これは別腹、あるいは例外という感じに、彼女はすかさず立ち上がると、店主たちに食ってかかったのだた。


 火事場も何もない。

 いつものどエルフ展開であった。


「また私が恥ずかしい目にあって、流石だなどエルフさん、さすがだな――って、言われる流れの奴でしょ!! そうはいかないわよ!!」


「馬鹿野郎!! モーラ!! その流れが狂っちまったから、今こうしてピンチに陥っているんじゃないか!!」


「うぇっ!?」


「普通ならここで――結局、魔界天使白スク水着ちゃうのか。嫌よ嫌よと言いながら、なんだかんだで最後に着ちゃう辺り、流石だなどエルフさん、さすがだ、となる所だろう!!」


 言われて、確かに気がついた。


 いつもだったらそんな感じで、自分が罵られる感じのパターンに入る。

 しかし実際はどうだっただろう。

 怒りに任せてのシリアスモード。そう、まるでバトル物のように、キャストオフして、そして、それが通じないという感じに隙を突かれて意識を失った。


 つまるところ――。


お約束どエルフ力が封じられている!?」


「そういうことだ!!」


 そう。この作品は元をただせばギャグ小説。

 そして火事場のどエルフ力の元ネタも、元は読み切りギャグマンガ。

 どちらも境遇はよく似ている。だからこそ分かって貰えるだろう。ギャグ特有の、お約束の力という奴を。お約束展開の便利さという奴を。


 ギャグに始まった作品は、時に、理論的におかしい話、科学的におかしい理論、そして、過去の設定を無視した話をしても、なんかこうギリギリ許されるのだ。

 そういうメリットがギャグ作品には存在するのだ。

 そしてそれは、編集部の意向や作者の意思により百八十度作品の趣が転換し、立派なストーリー漫画や小説になったとしても、効果を発揮することができるのだ。


 一時的にギャグだった頃に戻り――まぁ、〇〇だからな、と、なんか許されてしまうパワーを発揮することができるのだ。


 俗に、これを世の人は『ご都合主義ゆで理論』と言う。


 そして、火事場のどエルフ力は、そんな『ご都合主義ゆで理論』により構築された、なんかこう、物語の展開がどうしようもなくなった時に発揮される、救済処置的な、そして、どうかこれで勘弁してください、作者もいっぱいいっぱいでやっているんです、的な、ギャグ的にしてメタ的な切り札なのであった。


 そう、どエルフ力。

 流石だなどエルフさん、さすがだ。

 それが、使える力が、今、彼らには足りない。


 具体的には、作者が疲れ切っていた。

 公募原稿をかれこれ一ヶ月で三十万字くらい書いて、疲れ切っていた。そこに並行して、毎週このどエルフさんを書いているから疲れていた。

 さらに職業訓練通ったり、就職活動したり、いろいろ忙しかった。


 どエルフ力の低下は――モーラさんのせいではなかった。

 どうあがいても作者の力不足であった。


 そして、就職先――訓練校卒業後に就職予定――は無事に決まったのであった。

 社会復帰成功なのであった。


 しかし、そんなことは、物語の登場人物である彼らの知る所ではない。


「それで――お約束どエルフ力が、どエルフ墓場に封じられたというのは!?」


「どエルフ墓場とは、死したどエルフたちの魂がたどり着く場所。そこには、古今東西のどエルフたちの魂を封印し、決して現世に戻らぬように、封印するための祠がある」


「まさかそこにモーラさんのお約束どエルフ力が!?」


 あぁ、その通りだと力強く頷いて肯定する店主。

 そしてそれに驚く女エルフ。


 割と、いつものどエルフさんのノリだと思うのだが、どうなのだろうと、女エルフはロープにその身をかけながら、店主と男戦士を眺めて思うのであった。


 さきほどまで追い詰められていたのも忘れて。

 冷静にというか、むしろ冷ややかな感じで。

 更に、あ、やっぱりこいつら、平常運転だなぁこんな時でもという感じで。


「封印されたどエルフ力を、どエルフ墓場から取り戻すのに方法は一つしかない」


「なんだって!?」


「誰かが仮死状態になり、どエルフ墓場に潜り込み、封印されているモーラさんのどエルフ力を解放するんだ!!」


「しかし、どエルフ墓場は死んだどエルフが向かう場所。そんな場所に、いったい誰が入ることが――はっ、まさか!!」


「そうだ、ティト!! お前だ!! いや、違うな、エルフィンガーティト子!!」


「俺が、どエルフ!! 男で、エルフでもない、この俺が!!」


「ティト!! 幾たびにもわたるエルフィンガーティト子化により、その魂は既にどエルフになる資格を得ている!! 今こそなるんだ、真のどエルフに!!」


「オラ……オラ、なってみせる!! 立派などエルフに!!」


「やるかティト!!」


「オラ、どエルフになります!!」


「やめんかバカどもーッ!!」


 完全に破綻した理論で、四方八方に迷惑をかけつつ、勝手に盛り上がる男戦士と店主。そんな二人に向かって、先ほどまでやられていたはずの、女エルフが飛び蹴りをかました。それはもう、綺麗な感じに二人まとめて同時に蹴り飛ばした。


 ゆではいいとして、カドカワさんでよそ様のヒット作のタイトルネタはあかん。

 そしてジェロ〇モ混ぜるな。FG〇的にも危険。ジェロ〇モはすごいぞー。Busterと、Artsと、Quickをバフできるんだー。自分で自分をバフできるんだー。(弟談)


 その時。


「――えっ!?」


 女エルフが目を見開く。

 リングを降りた彼女はそうその時――確かに何かの声を聞いた。


 海の彼方――今や宇宙の暗黒と星辰のまたたきを映す鏡と化した、大海原を見つめて女エルフが瞼を広げた。その瞳には、緑の光が宿っている。


 そう、彼女はその時覗き込んだ。


 確かに、深淵を覗き込んだ。


 お察しいただけただろうか。

 今年のFG〇パロはまだ終わっていないということを。

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