第455話 どエルフさんとどエルフ力
【前回のあらすじ】
厨二病全開、背中の黒炎を放出して、さっそく飛び道具攻撃を仕掛けてくる彼女。どうも以前の魔法少女とは勝手が違うと肌を粟立たせる女エルフ。
跳躍してその黒炎を避けた彼女だったが――その先に待ち構えていたのは、
腰をしたたかに蹴り上げられる女エルフ。
番狂わせ。
「というか、魔法少女に打撃系とか関節系とかありますぅ!?」
◇ ◇ ◇ ◇
死闘。
二人の打撃系魔法少女による戦いはまさしくそれであった。
しかしながら一方は、その激しい肉の打ち合いを、心の底から楽しんでいるようだった。もう一方は、その息吐く間もなく繰り出される拳の雨を躱すのに、ただただその神経を尖らせ、摩耗しているようだった。
一方的な攻勢と守勢。
もちろん、前者は
後者は女エルフであった。
「モーラさん!! はやく!! はやくキャストオフするんだ!! モーラさんの中のウワキツ力を高めないと、その少女には敵わない!!」
「……そんなこと分かってるわよ!!」
「お姉さま!! ウワキツ、ウワキツ力を爆発させるんです!! そのセーラー服の中に着こんだ水着で!! ウワキツエクスプロージョンするんです!!」
「だぞ!! ウワキツセンシズを感じるんだぞ、モーラ!!」
「モーラさん!! 何を恥ずかしがっているというのです!! 貧乳で三百歳の暴力ヒロイン、いいとこどこにも何にもありゃしない、そんな人生ズンドコツルペタエルフの癖に、何を恥ずかしがっているというのですか!!」
「うっさい!! ウワキツウワキツ余計なお世話なのよ!! ウワキツなのは自分が一番よく分かってるんだから!! そんな連呼しなくてもいいでしょう!!」
一方的な守勢なのには理由がある。そう、彼女は未だ、奥の手を解放することなく、初期の魔法少女服のまま戦っていた。
なぜか。
機を見計らっているのか。
この期に及んで、ウワキツウワキツ言われて臆してしまったのか。
それとも何か他に秘策があるのか。
そのどれでもない。
「ほらほらほらァッ!! どうしたのよ!! 一方的じゃない!! 勝負を持ちかけて来たのはそっちでしょう!! もうちょっと楽しませなさいよ!!」
「……くっそ!! 離脱する隙も与えてくれない!!」
「動きがのろいわお婆ちゃん!! 三百歳だっけ!! 見た目は若いのに、やっぱり体は年相応ね!! 無理しちゃって!!」
「……そしてこの言いたい放題!! あぁもう、腹が立つ!!」
彼女の繰り出す攻撃が、あまりに激しかったのだ。
一方的に嬲られる女エルフには、離脱してキャストオフする時間も与えられない。そこに加えて打撃攻撃である。
場は完全に、
「いやぁ、防戦一方ですねケティさん」
「だぞ。まさかの打撃系×打撃系の展開を、モーラも予想していなかったんだぞ。前回の魔法少女勝負の展開から、勝手に相手が関節系で攻めてくると、決めてかかったモーラの失策と言っていいんだぞ」
「手厳しい解説です」
「だぞ。けど、モーラにも勝ち目はあるんだぞ。なんとかキャストオフして、ウワキツ力を解放し、瞬間的に打撃力を高めれば、相手を上回ることは可能なんだぞ」
その後ろで、お姉さま頑張れと、第一王女が力いっぱいの歓声を上げた。
しかしながら、そんなもので形成が変わる訳もない。
戦っているのは彼女たちではなく女エルフだ。
じり貧。若さに任せて強引に押し切ってくる
そんな時――。
「はぁー、なにこの一方的な戦い。マジつまんない」
ぴたりと
それは間違いなく、驕り、慢心、侮りからくる挑発行為。
いや、もはや挑発ですらない。
勝利を確信した目には、いまやその熱い滾りとは真反対の、退屈が立ち込めていた。絶対的な力。圧倒的な優利。覆らない状況。埋められない差。
それを確信した少女は――途端に目の前に立ちふさがる女エルフに対して、そのような屈辱的な瞳を向けた。
「おばさん。もう諦めなよ。アンタじゃ私にどうやっても勝ち目ないよ」
「……なんですって?」
「ていうか、純粋な殴り合いで勝てるとか本気で思ってる訳? 体力差考えようよ? それでなくても、アンタ普段は後衛職でしょ? 私、これでもこっちに来る前は、格闘技をやってたんだから」
互いの誇りと尊厳をかけた真剣勝負である。
それを、諦めろと言ってのける。
判定勝ち、KO勝ち、反則勝ち。勝ちにもいろいろな形がある。
だが、勝負を初めてからの棄権による勝ちほど屈辱的なものはない。
ドクターストップがかかったならば仕方がない。
しかし――。
退屈だから勝負を投げ出せ。
そんな申し出は、勝負に対する侮辱以外の何物でもなかった。
女エルフの額に青筋が走る。
「ていうかさ、つまんないのよ!! アンタと戦ってても!! 時間の無駄って言うか!! なんかキャンキャン鳴いてくるから、構ってあげたけれども――大したことなさ過ぎて笑えるっていうか!! もう興味も失せたわ!!」
「……なん、ですって!!」
「なんだったら私が負けてあげてもいいよ。そうね、我慢ならないものね、こんなポッと出の小娘に、自分から勝負を挑んでおいてまったく歯が立ちませんでしたなんて――人に聞かれたらおそまつすぎるものね!!」
もう一回言ってみなさいよ。
女エルフの場の空気を切り裂くような怒声が響く。
それと共に、彼女はようやく――この僅かな隙を逃さず、黒セーラー服、少女鉄仮面の衣装を脱ぎ捨てたのだった。
露になるその
白い生地に広めのデリケートゾーンの角度、そして、縦に入ったライン。
胸には「もーら(30)」と、ウワキツ力高めな文字が描かれていた。
「もう一回!! 言ってみなさいよ!! 調子に乗ってんじゃないわよ!! 小娘!!」
久しぶりにブチギレる女エルフ。
しかし――。
「だから、遅いってーの」
肉薄。
気が付いたときにはその懐に入り込んでいた
胃から漏れ出す空気。
飛び交う汗と血と涙。
ぐりんと白目を剥く女エルフ。
「……そんな!!」
「だぞ、キャストオフしたというのにこれはどういうことなんだぞ!?」
「お姉さま!? 水着になれば、ウワキツ力マシマシの、ルーラーにジョブチェンジして、私、強ぇええええええするんじゃなかったんですか!?」
女エルフ。
ようやく意を決して
そして、そんな彼女に絶対的強者の
「だから言ったじゃない。もう諦めなって」
その瞳には暗い感情がたゆたっていた。
「……そ、そんな。せっかく、恥ずかしい格好になったのに。なんで、力が、湧いてこないのよ」
「しっかりするんだモーラさん!!」
「……これは、いったい」
「火事場のどエルフ力が封印されたのだ!!」
その時、贋流島に野太い男の声が木霊する。
誰だ誰だと皆がその声の主を探す。三度笠を着て波間に立ったその声の主は――紺色をした
ザ・店主。
「火事場のどエルフ力が、どエルフ墓場に封印されたのだ!!」
彼はたいそう真面目な声色で、意味の分からない単語を並べて力説した。
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