第448話 どエルフさんとこの秋のトレンド水着

【前回のあらすじ】


「道具屋の店主!! エルフの危機と聞いて、中央大陸の沿岸を泳いで参った!!」


 かっこいい台詞と思いきや、スク水姿でのたまう店主。

 ここ最近、めっきりと出番がなかった彼の久々の再登場は――。


「「へ、変態だぁーーーーっ!!」」


 最高に変態クールであった。


◇ ◇ ◇ ◇


「店主!! なぜこんな所に!! 店主!!」


「というか、中央大陸沿岸を泳いできたって!? どういうこと!?」


「そのまま言った通りだ!! 陸路を行くよりも、海路を行く方が早いと思ったのでな――おっともちろん、この身に付けている商品があったからこそできたことだがな!!」


 身に付けている商品と聞いて男戦士と女エルフが目を剥く。

 そう、いつもの道具屋の店主とは違うその恰好、パンツとタンクトップをつなぎ合わせたようなその衣服は間違いなく――男が着ると危ない何かであった。


 というか、男でも女でも、着ていると危ない何かであった。


 港町に夜でもないのに冷たい海風が吹き付ける。

 男戦士も女エルフも、隊長もそしてタナカの呪いを受けているヨシヲさえも、言葉を失ってしばしその場に凍りついたように固まった。


 そんな彼らの前で、ふっふっふと笑って店主は腕を組む。

 白い布地に「てんしゅ」と書かれたその装備の胸につく名札。それが野太い彼の手で覆われことにより、幾らか犯罪臭が消えたような気がしないでもなかった。


「さぁ、今日おすすめする商品はこちら!! 超高速超軽量超フィット感!! 貴方の体にジャストフィット!! そのフィジカルを最大限に引き出すことのできる選ばれしスーパー水着!! その名も、鮫肌桃尻ピンクシャーク!!」


「「ぴ、鮫肌桃尻ピンクシャーク!?」」


【アイテム 鮫肌桃尻ピンクシャーク : なんかずいぶん昔に浅野〇信が主演でやってた映画っぽいような、なんかそういう危険バイオレンスな感じとはまた違ったテイストの危うさがある水着。というか、いきなりパロから入ったけれども――当方、名前は知っていても、内容は一切知らぬでござる!! なんか原作が漫画っぽいということしか分からないでござる!! そういうパロってどうなのと思いつつ、浅野〇信のなんか危険バイオレンスな男の感じを出したかったというか――タイトルの響きがホントエロいよね!! うん、なんか字面だけで、セック〇&バイオレ〇スな感じがするよ!! こんな感じのタイトルの作品を書けるようになりたいですわほんと!! え? オチ!! そんなもんネーヨ(なげやり)!! 俺たちは自由気ままな我がままスペースボーイズ!! そう、今までもこれからも、心の赴くままにパロり続けるだけなのSA(新文芸コンで仲良い人たちの作品がずらずらと残った中、自作がかすりもしなかったのでけっこう落ち込んでいる様子です)!!】


 とまぁ、そんな訳で、ピンチの女エルフのために、道具屋の店主、起死回生の逸品を手に――というより身に纏って颯爽と駆け付けたという訳である。

 これには流石にいつも道具屋の店主を邪険に扱う女エルフも――。


「いやじゃぁ!! そんな明らかに小恥ずかしい衣装!! 誰が着れるか!!」


 ごねた。

 ここで感謝するかと思いきや、女エルフは羞恥心を発揮して、鮫肌桃尻ピンクシャークを拒否した。

 顔を真っ赤にしてそんなもん着れるかと叫んだ。


 魔法少女になるだけでウワキツだというのにである。

 というか、本当に今更である。


 そして、それに対して今更かよというツッコミを周りも入れるのを憚った。

 ビキニの水着ならばまだしも、その鮫肌桃尻スク水はちょっと。

 そんな感じに言葉を失くして、男戦士たちは店主から視線を逸らした。


 というか、別にビキニだろうがスク水だろうが関係なく、脛毛と胸毛が溢れかえらんばかりの、もっさぁとした店主の水着姿は――目のやり場に困った。


 何故だと店主の声が港町の青空に響く。

 ただ一人、この危機に真面目に応えようとした男の嘆きが、虚しく響く。


「こっちは魔法少女なんていう際どいものを、際どい年齢でやらなくちゃいけなくていっぱいいっぱいなのよ!! そこに加えて――そんなもん着れるか!!」


「際どいところに際どいものを重ねて際どくすることで、キワキワのパワーを貯めるんじゃないか!! ウワキツ力を高めるんだろう、モーラさん!?」


「そんなもん高めるつもりなんぞないわい!! とにかく、恥の上塗りじゃないけれど、これ以上のウワキツ衣装は御免こうむる!!」


 もっとまともな水着を持ってきてくれ。

 そう叫ぶ女エルフの顔は、もうなんというか、必死であった。


 必死だな、どエルフさん、必死だ。


 しかし、ここで店主。

 やれやれという感じに、彼は静かに首を振った。


「……しかたない。では、もう一つ持ってきた必殺の衣装をそなたに授けよう」


「なんですって!?」


「まぁね、モーラさんのことだからね、きっとこれ以上ウワキツな衣装は無理と、そう言うんじゃないかと俺も思っておりましたよ。そこで、二段構えで今回は商品を用意させていただきました」


 流石は商人抜け目がない。

 彼はごそごそと――股と腹の隙間にある水抜きに手を突っ込むと、そこから、まるで某青色のネコ型ロ〇ットのように、その商品を取り出した。


 天高くかかげられたそれこそはそう、純白が眩しい、一つなぎの水着。


「テレレン!! 魔界天使白スク水!!」


「尚のこと性質が悪いわ!!」


 悪いわ、悪いわ、悪いわと、エコーがかかって女エルフの声が空に木霊する。


 今日はよくよく声が通る日であった。

 そして、マニアックなネタが飛び出す日であった。

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