第449話 壁の魔法騎士と死霊の軍勢
【前回のあらすじ】
紺色だろうが、白色だろうが、スク水はアラスリエルフにはきつかった。
「なんでこの作品は、私にウワキツな格好をさせようとするのか……」
やだなぁ、モーラさん。そんなのタイトルの時点でお察しでしょう。
今更、言わせないでくださいよもうそんなこと。
「……絶対にこれ作者の趣味よね」
ソンナコトナイデスヨー。
ババアキャラガキツメノカッコウスルノニコウフンスルトカ。
ソウイウンジャナイデスヨー。
「絶対にそうだ!! というか、誰がババアよ誰が!! わしゃまだピッチピッチじゃい!! ぴっちぴっちのアラスリエルフじゃい!!」
若い子はピッチピッチとか言わない。
とまぁ、そんなやり取りはともかく。
はてさて今週末もやって来ました、シリアスパート、壁の魔法騎士編。
満を持してゼクスタントが展開した戦略魔法、
◇ ◇ ◇ ◇
突如として現れた土の壁にぶつかって、次々に絶命していく暗黒大陸の兵たち。勢いに任せた突撃を行おうとしていた彼ら。規律ある軍隊ならばいざ知らず、烏合の衆でしかない暗黒大陸の兵たちは、転身は元より勢いを殺すこともできずにそのまま壁へと吸い込まれるようにして向かっていく。
仲間の屍を押しつぶし、その骨に身を貫かれ、武器により肉を裂かれ、死屍累々と死肉を重ねる。それは防波堤に寄せる波のように、何度も何度も繰り返す。
そう、仲間の死肉を砕いて、何度も何度も。
凄惨たる光景がそこにはあった。
所詮は傭兵。金で雇われた者たちによる急仕立ての軍隊である。
そんな者たちにまともな集団戦闘力を求める方がおかしい。故に、これは必然である。暗黒大陸の兵の性質を突いた必殺の策であった。
立てたのは女軍師。もちろん、騎士団長である壁の魔法騎士がこの魔法を使えることを知ってのこと。
過去何度となく、この魔法を使って、壁の魔法騎士は多くの敵兵を屠って来た。
故に、その手際には少しの遅れも惑いもない。
しかし、悲しいかな――これは常の戦であれば戦略単位の魔法ではあるが、この場においては戦術の域を出ない一手でしかなかった。
そう。
「……あらぁ。予想外に早く駒が揃ってくれたわね」
「敵方の将にこれほどの使い手が居たとは。嬉しい誤算という奴ですな」
暗黒大陸の巫女と外交ゴブリン僧がほくそ笑む。
開戦の火ぶたを切った二人は、振り返ると――その背後に控えている黒衣の騎士に視線を向けた。暗黒の鎧に暗黒のマント、そして、黒い艶やかな長髪をなびかせた白い顔の騎士は、その視線に応えて静かに鞘から剣を抜き放つ。
その刀身もまた黒い。
黒々とした刃先は白昼の下であっても煌めくことなく、すべてを吸い込むような黒い闇を湛えていた。魔性が宿りしその刃が、眼前の死屍累々の山に向かって捧げられる。
くるか、と、壁の魔法騎士が城壁の上で静かに呟いた。
これこそまさしく、彼と、彼の部下である女軍師が、最後の最後まで解決することのできなかった、暗黒大陸の切り札。そして、男戦士たちの帰還を待たねばならない最大の理由。この、戦略級の
そう――暗黒剣の存在であった。
「吼えよ!! 暗黒大陸の戦士の霊よ!! 天に還ることもかなわず、地を這い揺蕩う死霊たちの群れよ!! 我が暗黒剣がそなたらに血を与えん、肉を与えん、今ひとたび暴虐を尽くす時を与えん!!」
ぞっとするような闇を放って暗黒剣が唸る。その刀身から放たれた尋常ならざる瘴気が戦場を駆け巡ったかと思えば。
もぞりと土壁の中に蠢く、青白い光が見えた。
死肉の中より立ち昇るのは、オーク、オーガ、ゴブリン、人、リザードマン、ミノタウロス。数多の悪霊たち。それらは肉塊の海より産まれ、暗黒騎士の呪詛の如き呪文に応えて咆哮を晴天へと轟かせた。
白い雲を引き裂くような声が響く。
今、ここに暗黒剣による、戦略魔法が行使された。
「いざゆかん!! 暗黒大陸の兵たちよ!! その報われぬ魂を我が戦場へと導こう――
暗黒騎士の暗黒剣が紡ぎ出したるそれは死霊魔法。
死した暗黒大陸の兵たちの魂を呼び起こし、この世に顕現させる大魔術。そして、決して死なない兵たちによる、一方的な蹂躙であった。
元より、兵が死に絶えるのは計算の内。
暗黒大陸の傭兵たちは、死して尚、戦い続ける宿命を負ってこの地に来ていた。
それほどの才気。
あるいは武威。
おそるべし、暗黒騎士と、壁の魔法騎士が静かに眼下の彼を睨みつける。
微かに視線が交差した瞬間、彼は再び剣で空を薙いだ。
行け。
その号令と共に、青白い死霊の兵たちがうごめき始める。肉体という枷から解放された暗黒大陸のケダモノたちは、厚くしつらえたゼクスタントの土壁と、自らの死肉の壁をすり抜けて、再び中央大陸連邦共和国首都リーンカーンに向かって走り出す。
まさしく、死霊の行軍。
「……圧巻だな」
「えぇ」
「……しかし、こちらもここまでは織り込み済み」
押し寄せてくる青白い悪霊の群れを前にして、顔色を崩さない壁の魔法騎士。
そう、これもまた、既に女軍師が建てた策の中の一つとして考えられていた。
壁の魔法騎士が視線を向ける。
西南の門の上。
城壁の縁に立っているのは十人からなる聖職者たち。
その中央に立っている女性は、短い黒髪を風になびかせて、荘厳たる杖を手にして静かに目を瞑っていた。
その小さな瞳と唇が開かれる。
「すべての母なる神――海母神マーチよ!! 人と神とを繋ぐ楔たる我が
怨嗟の声で裂かれた空から強烈な聖光が降り注ぐ。
それは大規模な浄化魔法。一定の範囲の悪霊を焼き切り、この世から葬り去る、浄化の光であった。
規模こそ
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