第六章 ビクター&ヨシヲ 二人は腐れ縁

第427話 どエルフさんといざ南の港町

【前回のあらすじ】


 リザードマンの王国から戻れば、既に辺りは真っ暗闇。すっかりと夜のとばりが落ちていた。明日に迫った暗黒大陸との決戦。それを目の当たりにして取り乱す女エルフ。しかしながらそんな彼女を、男戦士はいつにない貫禄で説得するのだった。

 流石だな、ど男戦士さん、さすがだ。


「も、モーラさん!! その、まだ、ちょっと、乗物から降りたばかりで、その、お腹の調子があまり!!」


「ぎゃぁっ!! もうっ!! なんでアンタはいつも肝心な所で締まらないのよ!!」


 という、オチはついたが。

 とにもかくにも、大剣使い捜索に一日を費やしてしまった男戦士たち。彼らは急ぎ教会へと向かうと、次の目的地――南の港町に向かって転移するのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 西の王国、南の港町。

 南の国との交流から、大陸西側の島々との交易をおこなっている、一大貿易港である。かつて外伝――俺の名はブルーディスティニーヨシヲ(☆6 18/09/01時点)――で、ヨシヲと商隊隊長が、南の国へと渡った港町である。


 その教会の入り口に、男戦士たちはたむろしていた。


「ふむ、ほのかにだが、吹く風に潮の臭いが混じっている典型的な港町だな」


「白百合女王国はそういう感じはしなかったけれど、ここは小さい街だからかしら」


「もう結構な時間だというのに、街にも賑わいがありますね」


 水夫たちの歌う声が聞こえる。

 娼婦たちが男を甘い声で呼び止める声がする。

 流石はさまざまな欲望が渦巻く港町。教会の周辺こそ夜に相応しく静まり返っていたが、少し離れれば、そんな喧騒が聞こえてくる不夜の街であった。


 だぞ、と、言いながらあくびをかみ殺すワンコ教授。そして、それにつられるように、口元を隠してお上品に第一王女があくびをした。

 二人とも、今は冒険者であるが、あまり体力のある方ではない。怒涛の強行軍により体は疲れていたし、それでなくても、よい子はもう寝る時間だった。


 どうしようかしらねと、女エルフと男戦士が顔を見合わせる。

 すると、女修道士シスターが任せてくれとばかりに、寝ぼけ眼の二人の前に出た。


「お二人とも、ちょっとお疲れのようですね。私が先に宿屋に案内しましょう」


「コーネリア」


 つまるところ、二人の面倒は自分に任せろということだ。

 何かとワンコ教授など幼い者――とはいえ一応は成人している――の世話には慣れている彼女。そんな彼女は、二人の若年冒険者の状態を察して、フォローを申し出たのだった。


 流石は女修道士シスター。パーティの状態ステータスをよく見ているという所か。

 更には、男戦士と女エルフに向かって気遣いの視線を向ける。

 彼女は胸の中にワンコ教授を、そして、第一王女の手を握りしめながら、夜の闇の中でその輝くしいたけお目目を伏せて、男戦士たちに頭を下げた。


「すみません、ティトさん、モーラさん。肝心なところでいつもいつも戦線離脱してしまって」


「そんなことないわよ」


「コーネリアさんのおかげで、俺たちは随分と助かっている。コーネリアさんがフォローしてくれるから、俺たちも効率よく動くことができるんだ」


「……そう言ってくれると、少し気が楽です」


 とは言いながらも、どこか申し訳なさそうに、伏し目がちに顔をしかめる女修道士シスター。いつもは何かと弄られる彼女のしおらしい態度に、思わず女エルフも、今日はどうしたと面を喰らってしまった。


 そんなちょっと、彼女たちにしては湿っぽい空気の中に――。

 突然、そいつはやって来た――。


「わーわー!! ちょっと、そんな所に突っ立たないでよ!!」


 どたどたと、なにやら騒がしい女がいきなりなだれ込んでくる。

 猪突猛進。男戦士にぶつかった彼女は、その大樹のようにがっしりとした、大戦士の背筋とプレートメイルに弾かれて、その場に尻餅をついた。


 こいつはいったいどういうことか。

 まったく意表を突かれた男戦士たちがまた顔をしかめる。

 あいたたと尻をさする少女は、この手のにぎやかな街によくいるひったくりか、あるいは、性質の悪いあたりやまがいの乞食か。そんなことをいぶかしんだ男戦士と女エルフだったが――どうにも珍妙な服を彼女は着ている。


 この辺りどころか、今まで一度も見たことのないその服装。

 真っ白の袖アリの服に、ピンク色をした大きな襟。胸には純白のスカーフ。下はズボンではなくひらひらとした末広がりの筒状のモノになっており、これまたピンクと白色が、格子状に交互に並んでいた。

 そして、脚を覆っている――見事なハイサイソックス。


 年の頃は十の後半くらいだろうか。それにしては、豊かに育った体つきが妙だ。温室育ち、食うに困らない第一王女よりも豊かなその体つきに、思わず、男戦士も守備範囲外にも関わらず喉を鳴らした。


 一言で形容すると、そのぶつかってきた少女は――美少女という奴だった

 冷たい月明かりがそのピンク色のショートヘアーを揺らす中、くりくりとした茶色い瞳が男戦士を見上げる。


「……やぁもう!! 叫んだのになんで避けてくれないのよ!! アンタ、木偶の棒か何かなの!?」


「あ、いや、それは……すまない」


「謝らなくていいわよティト!! ぶつかってきたこの娘が悪いんじゃない!! ちょっと、何を急いでいるのか知らないけれど、ぶつかってきたのはそっちよね!! 言いがかりはよしてくれる!!」


 女エルフが庇った通りだ。

 いきなりぶつかって来たのは少女の方。

 しかも完全に向こうの前方不注意である。急いでいるとはいえ、別に道を全部男戦士たちが塞いでいる訳ではない。男戦士を避けるルートはいくらでもあった。


 この手のことには厳しいというか口うるさい女エルフ。

 すぐさまぶつかってきた少女に噛みついた。


 そんな女エルフに少女もまた反論するかと思いきや――。


「って!! そんなこと言ってる場合じゃない――!!」


 とても構っていられないという感じに、彼女はすぐさまその場に立ち上がった。

 とうという掛け声と共に、背筋を使ってしなやかに跳躍して立ち上がるその姿に、ほうと、男戦士が少しばかり感心する。


 その時――。


「待つでありまーす!! 拙者の運命の女ディスティニーヒロインどのー!! このヨシヲと清く正しい異世界転生をやろうではありませんかー!! デュフフフ!!」


「げぇっ!? 追いつかれた!!」


 聞いたことはあるが、聞いたことのない口調が夜の闇に木霊した。

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