第426話 どエルフさんと一日経ってた

【前回のあらすじ】


 地下にあるリザードマンの王国。

 その王である、竜騎王の助力を取り付けた男戦士たち。彼らは竜騎王が手ずから飼っていたオラァモグラの馬車に乗って、急いで地上へと戻るのであった。


「あっ、あっ、もっと優しく、モーラさん!! もっと、優しくしてくれないと、そんな激しくされたら、で、で、出ちゃう!!」


「出すために背中摩ってんだろうが!! というかゲロ吐く台詞じゃねぇ!!」


 そして男戦士は悪ノリに加えて悪酔いしているのであった。

 とまぁ、そんな感じで、今週もどエルフさん始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


「……到着!!」


 竜騎王の咆哮のような一声。それと共に土が盛り上がった。

 すぐに開いた穴の中からオラァモグラの馬車が飛び出す。最初に入った穴とはまったく違う見覚えのない場所。男戦士たちは、はてここはどこだろうかと視線をさ迷わせる――より早く、辺りの暗さに目をしばたたかせた。


「……え、ちょっと、もう夜?」


「もうそんな時間ですか」


「だぞ、いろいろとやってたから仕方ないんだぞ」


 穴を飛び出してみると、そこは既に夕日も沈み、月と北辰が輝く夜闇の中であった。暗い穴の中をひたすらに駆けてきた女エルフたちは、太陽の光にやられると思って瞼を降ろしていたが、それは結局無用の心配に終わった。


 夜闇の帳により目を傷めずに済んだ女エルフたち。

 だが、その心境は第一声の通り複雑なものだった。


 刻一刻を争う暗黒大陸との激突。

 にもかかわらず、転移の失敗から始まり、風の精霊王との意味の分からぬやり取り、そして、トカゲ人間たちの襲撃に、ここに来て竜騎王への謁見とイベントと、あれよこれよとてんこもりである。


 一日の冒険量としてもいささか多い。それだけやっていれば、普通、疲れ果てるものだし、日も暮れるのも仕方ないというモノだろう。


 誰が責められるものでもない。

 しかし女エルフは、時間の経過につんざくような悲鳴を上げた。


「どうしよう!! 暗黒大陸との決戦まで残り一日なのに!! 明日にも暗黒大陸が攻めてくるというのに!!」


「落ち着けモーラさん」


「落ち着けって方が無理でしょうティト!! 本当だったら、今日中には南の港を巡って、すぐにでもリィンカーンに戻る予定だったのに――」


「こうして竜騎王を仲間にできたんだ。エルフキングも、風の精霊王も仲間にすることができた。確かに時間的には余裕がないが、戦力的には大幅増強だ。何も心配するようなことはない」


「けど!! 暗黒大陸との決戦は明日よ!!」


 竜騎王を仲間にしようと言い出したのは、女エルフじゃないか。

 そんな視線が彼女の背中に突き刺さったが、とうの女エルフは混乱の中にあって、そんな視線に少しも気がついていない。

 どうしたものかなと、いつになく取り乱す彼女の扱いに男戦士が苦い顔をする。


 竜騎王も、大剣使いとその相棒である金髪少女も、それまでのほのぼのとした感じから一転しての彼女の狼狽えぶりに少し身構える。

 女エルフの取り扱いを一番知っている男戦士。彼は不安そうに月明かりにその顔を青ざめさせる女エルフに近づくと、大丈夫だと微笑んで彼女の肩に手をかけた。


「とにかく、過ぎてしまった時間をとやかく言っても仕方ない。まずは教会に戻ろう。すぐに南の港町に向かって、それから夜を徹して捜索すれば、ヨシヲたちを見つけることができるかもしれない」


「けど」


「やる前から諦めたら何も成せない。モーラさん、俺たちは確かに時間はかかったが、確実に成果を上げてきている。ハンスを見つけて、そして、彼と同じくらいに頼りになる新たな仲間も見つけることができた。大丈夫だ、焦ることはない」


「そうですよモーラさん!! それに、少しくらいなら、連邦騎士団やリーナス自由騎士団、リーケットたちが時間を稼いでくれます!!」


「だぞ!! 仲間を信じるんだぞ!! 僕たちは僕たちだけじゃないんだぞ!!」


「そうですお姉さま!!」


「みんな……ごめん、取り乱したわ」


 ありがとうと男戦士に言って、その手を握りしめる女エルフ。

 そうして、少しだけ彼に近づいて、甘えるようにその胸板に体重を預けた――。


 ロマンティックなその構図に、思わず、おぉと誰もが息を呑む中。


 うぷっ、と、一人男戦士だけが、酸っぱい息を吐いた。


「も、モーラさん!! その、まだ、ちょっと、乗物から降りたばかりで、その、お腹の調子があまり!!」


「ぎゃぁっ!! もうっ!! なんでアンタはいつも肝心な所で締まらないのよ!!」


 青い顔をして女エルフから離れる男戦士。

 そして、すぐさま彼は、おぺろおぺぺと、胃の中身を吐き出したのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「という訳で、ハンス、そしてヤミ。一足先にリィンカーンで待っていてくれ。すぐにビクターとヨシヲをと合流して戻ると、ゼクスタントには伝えてくれ」


「あぁ、その依頼、確かに請け負った。貸しにしておいてやる」


「にょほほ、ほんに世話の焼ける奴らじゃのう。まぁよい、わらわの大法力、久しぶりに発揮してやりたいと思っておったところじゃからのう。暗黒大陸なにするものぞ」


 場所は移って、西の王国の首都オッパイオの教会。

 魔法陣の上に乗った大剣使いと金髪少女は、残る男戦士たちを前にして、任せろと余裕の表情を見せた。


 そんな彼らの頼りになる顔を眺めていると、神官たちが魔法を詠唱する。

 青白い光が床に走ったかと思うと、彼らの姿は既に教会にはなかった。


 残されたのは、男戦士たちパーティと、大きなリザードマン――竜騎王のみ。


「人数的に転移魔法は無理ってことだから、俺はオラァモグラでの移動だな。近くの街で、頼りになりそうな奴は拾っていく。少し遅れるかもしれねえが、なんとかできるだけ早く駆け付けるぜ」


「頼んだ、フリード」


「おう!! 兄貴が見込んだ男の願いだ、きっちり応えてみせるぜ!! 任せておきな!!」


 力こぶを造ってそこを叩くリザードマンの王。人間の頭くらいある力こぶは、見た目以上に頼りがいがあり、男戦士たちを安堵させた。

 そんなリザードマンの王を残して、男戦士たちは促されるまま、先ほど大剣使いと金髪少女が消えた、魔法陣の上へと移動するのだった。


「では、皆さん準備はよろしいですか――?」


「いつでも」


「お願いするわ」


「お手数をおかけします」


「だぞ!! 大丈夫なんだぞ!!」


「……お姉さまと一緒なら、エリィは怖いモノなどありません!!」


 教会所属の魔法使いたちが杖を掲げる。床の魔法陣が再び輝き始めて、そして、青白い光が夜の教会の中に溢れかえった。


「【転移魔法パタヤ・ビーチへようこそ】!!」


「「「「「ピピピッドゥ!!」」」」」


 かくして、男戦士たちは首都オッパイオから南の港町へと飛んだ――。

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