第418話 ど男戦士さんとリザードマンの王

【前回のあらすじ】


 久しぶりのガチバトル。

 ドリルで地面を掘り進み竜の王国を目指していたどエルフさんは、不運かな狂暴なモンスターオラァモグラの巣を掘り当ててしまう。

 しかしそこは男戦士と大剣使い。熟練冒険者二人の手にかかれば、たちまち女エルフを襲ったオラァモグラは真っ二つ。


 かくしてほの暗い洞窟の中で、久しぶりのバトルが繰り広げられるのだった。


 それはそうと。

 先週作中のドリルネタで、勘違いからゲッ〇ー3と言ってしまったことを、ここにお詫び申し上げます。うん、ゲッ〇ー2だ。ありがとう軽見さん。しかし、何故か3というとドリルのイメージがあったのですが、なんででしょうかね。

 とりあえず。ゲッ〇ー見てないのにネタにしたらあかんですね。


「……夏休みに新ゲッター見てたじゃない」


 あれ、めっちゃ怖くって、それ以来なんか苦手意識があるのですよ。


「……知らんがなぁ」


 という訳で――熱くなれ!!

 今週は激熱バトルからどエルフさん始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


「はぁっ!!」


 気合一閃――ではない。

 大剣使いの太刀が円軌道を描いてオラァモグラを切り上げ切り下げ、圧倒して押しつぶす。その爪先も、その鼻先も、鋭い口も、一切寄せ付けずに繰り出される矢継ぎ早の斬撃。さらに、刃の重さが加わったそれは――オラァモグラの頭を徐々にただの肉塊へと変えていく。

 それは足運びと剣の重力を利用して繰り出される剣技であった。この狭い洞窟内であっても、止まることなくその剣戟を繰り出せるのは、まさしく大剣使いの戦士技能と経験があってこそ。間違いなく、彼は歴戦の冒険者であった。


 一方で、男戦士も負けてはいない。

 繰り出されるオラァモグラの爪による攻撃を剣で確実に受け止める。爪と爪の間にそれを滑り込ませて、そこから柄の根元まで剣を食い込ませる。柄の部分を力点にして斜めに傾ければ――彼はオラァモグラの爪をへし折る。

 梃子の原理により、鋼製の柄は簡単にオラァモグラの爪を破壊した。

 武器を破壊され、丸裸になったオラァモグラの指先。しかし、それでも目の見えぬバケモノは、彼我の実力はもとより自分の不利を計れないのか、男戦士に無謀にも爪が折れた腕を繰り出すのだった。


「……哀れ。しかし、こちらも急ぐ身、容赦はせん!!」


 バイ・スラッシュ。

 男戦士の必殺の太刀が、もはや防ぐ手段を失ったオラァモグラの腕を二つに裂く。ケダモノの特有の言葉にならない悲鳴を上げるとと共に――。


「……逆・バイ・スラッシュ!!」


 剥き出しになったオラァモグラの顎先を、男戦士の切り上げの一撃が割いた。

 体重をかけて押し切る西洋剣の定石にない、切り上げからの強烈な斬撃。これを成しえたのは、柔らかい粘土層の土だった。男戦士はそこに自分の剣を突き刺し、抜ける際の摩擦力を利用し、抜刀術の原理で刀身を加速、切り上げ時にかかる重力に勝る剣速を生み出して、オラァモグラに致命の一撃を繰り出したのだ。

 顎骨を両断され、舌を断たれ、歯をまき散らすオラァモグラ。


 男戦士もまた――歴戦の冒険者。

 その太刀筋は、ほのぐらい洞窟の中と言えども、いささかも曇らない。


「やるなティト!!」


「ふっ、舐めてもらっては困る」


 いつものアホアホなノリからは考えられない手際で、オラァモグラを制圧していく男戦士たち。一方的ともいえる、猛攻の前にモンスターたちはなすすべもない。しかし、彼我の戦力を推し量れるような頭脳があれば、彼らもモンスターなどと呼ばれてはいない。

 なまじ、自分たちの巣を強襲されたのだ。オラァモグラたちが、簡単に攻撃を諦めるはずもなかった。


「ギュィイイイ!!!!」


 絶命とは違う、低い唸り声が洞窟の中に響いた。

 その音に反応したのは――賢者技能に長けたワンコ教授だ。

 彼女はそのオラァモグラの鳴き声がどういうものか知っていた。


「だぞ!! ティト、ハンス!! オラァモグラが仲間を呼んだんだぞ!!」


「――むぅ」


「その前に倒すつもりだったんだが、難しかったか」


 オラァモグラは、基本的に家族単位で生活をしている。しかしながら、暗い洞窟の中で外敵に襲われた際に、互助的に助け合えるよう、彼らは仲間を呼ぶための地中によく響く特別な鳴き声を持っている。

 先程の、絶命のそれとは違う鳴き声がそれだ。


 一たびそれが鳴れば、辺り一帯のオラァモグラが、悲鳴を上げた場所に向かって駆け付ける。そうなれば、一度に十体二十体を同時に相手にしなくてはなくなる。

 いささか分が悪い、そう男戦士も大剣使いも判断した。


「ハンス!! それとモーラさんたち!! 一旦、ここから離脱する!!」


「そうだな。流石に桁が違ってはオラァモグラの相手はやっかいだ。洞窟を崩落させてここから段階的に離れるとしよう。モーラ、準備はいいか」


「えっ……えぇ、任せて!!」


 土の精霊王が変形したドリルを手にしたままの女エルフ。そんな彼女が手を振りかざした時だ――。

 それよりも早く、オラァモグラたちがたむろする巣の壁が壊れた。


 まずいと、男戦士たちの額を汗が走ったその時――。


「ぐははっ!! オラオラァ!! モグラどものアジトはここかぁ!!」


 そこから現れたのは、オラァモグラの茶色い肌とは全く違う、緑色の鱗に覆われた巨躯のオオトカゲであった。


 いや、巨躯のリザードマン。


 土色のズボンを穿いて、腰に銀色の装飾が施されたベルトを巻いた、逆三角形の体形をしたそのリザードマンは、そのハンマーのような大腕を振り回して、男戦士たちの相手にしていたオラァモグラたちの背後に回りこんだ。

 そしてそこから――有無を言わさぬ大立ち回り。


 その大腕を振り回し、オラァモグラの頭蓋を粉砕、顎を粉砕、背骨を粉砕。めしゃり、ごきりと、まるで果物でも潰すような勢いで倒していく。


 女エルフはもちろん男戦士たちも――突然現れたその巨大なリザードマンの姿に、ぽかんと口を開いて言葉を失くしたのだった。


 しかし、ただ一人、その中で表情を変えなかった者がいる。


「……やれやれ。相変わらず力に任せた無茶苦茶な戦い方だな。裏技能――喧嘩技能6は健在か」


「……あぁん!? 誰だ、今、俺様の技能をどうこういいやがった奴は!! 戦士技能だか、野伏技能だか、そんな人間が決めた技能に縛られねえのが俺様よ!! というか、俺様に意見するなんて百年早え!! 俺様にどうこうと言っていいのは、俺が認めた男だけ――兄貴だけだぜ!!」


 そう言った矢先、ぴたりと巨躯のリザードマンの動きが止まる。

 何かに気がついた。だが、それが何なのか、自分でも分からないという感じに。


 なんだ、この違和感は、なんだこの妙な感じはと、首を傾げるリザードマン。

 そんな彼に迫ったオラァモグラを。


「ツァッ!!」


 一刀両断。

 男戦士の得意技――唐竹割で倒すと、緑の大剣使いはリザードマンを見上げた。

 おぉ、と、リザードマンの顔つきが喜色に染まる。


「ハンスの兄貴!! ハンスの兄貴じゃないか!!」


「……久しぶりだなフリード」


 どうやら、その巨躯のリザードマンは、大剣使いの義兄弟らしかった。

 そして大剣使いの義兄弟ということは――。


「「「竜騎王!! どうしてここに!!」」」


 リザードマンたちの王、竜騎王その人らしかった。

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