第419話 ど男戦士さんと裏技能
【前回のあらすじ】
オラァモグラの巣を掘り当ててしまった女エルフ。
久しぶりの激しい戦闘のさ中、オラァモグラが仲間を呼んだ。
これは敵わぬと男戦士と大剣使いが撤退を決意する中――。
「ぐははっ!! オラオラァ!! モグラどものアジトはここかぁ!!」
現れたのは巨躯のリザードマン。
逆三角形の体型に、緑の肌をした大トカゲだった。
そんな彼の正体は――。
「ハンスの兄貴!! ハンスの兄貴じゃないか!!」
「……久しぶりだなフリード」
大剣使いの義兄弟にして、リザードマンたちの王。
竜騎王であった。
あれ、なんか、ここ数日、どエルフさんらしくないですね。
「いいじゃないのよ、たまにはこういう王道ファンタジー的な展開も」
弄られなくて欲求不満ですかモーラさん。
流石だなどエルフさん、さすがだ。
「どこにも流石の要素なかったでしょ!! いいから、きびきび行くわよ!!」
◇ ◇ ◇ ◇
多勢に無勢とはよく言ったもの。次々に押し寄せてくる、オラァモグラの群れは、まさしくその多勢に分類される猛威であった。しかしながら、それを無勢が押し通す。いや、より、正確には――たった一体の緑の嵐がそれを圧倒する。
「オラオラオラオラ!! 俺たちの縄張りをぶち壊しておいて、てめえら覚悟はできてんだろうな!! 臭い肉は要らねえ!! 毛皮と脂をこそぎ落として、交易商に売り飛ばしてやるから覚悟しやがれモグラども!!」
次々に、呼び寄せられるオラァモグラたち。狂暴な彼らを、それ以上の狂暴さで、蹴って殴って放り飛ばして、潰して砕いて引きちぎる。
竜騎王。
騎という言葉が少しも似合わぬ暴威の王は、男戦士たちをも圧倒する凶悪な戦いぶりで、次々にオラァモグラを駆逐していくのだった。
思わず、女エルフたち女性陣はおろか、男戦士も閉口する。
気がつくと、百体はいようかというオラァモグラたちの群れが、いつの間にか屍に変わっていた。脳漿をぶちまけ、ピンク色をした脂肪を晒し、土色をした骨が剥き出しになったそれは、明らかにもう売り物にならない程度に損壊していた。
うぷっとえづく女エルフと第一王女。
ワンコ教授の眼はいつものように
それを厳しい眼差しで見守るのは男戦士と大剣使い。
そして、竜騎王の臣民たるリザードマン。
その圧倒的な膂力と戦闘力を前に、歴戦の兵たちもただただ言葉を失くして黙り込んだ。特に、男戦士などは、自分などまだまだだとばかりに、悔しそうに顔を歪ませた。
「凄いな。こんな力任せの戦い方」
「裏技能。聞いたことはないかティト?」
「冒険者をしていれば噂程度は。しかし、そうか。あれが、裏技能の力か」
【キーワード 裏技能: 戦士技能、魔法技能、野伏技能、盗賊技能、賢者技能、僧侶技能。この世界には六つの冒険者の力を示す技能レベルが存在している。この技能の数値により、その人物がどれほどその技能に習熟しているかが分かるのだが――その別枠として裏技能というものが存在する。六つの技能レベルとは別、そして、より限定的かつ専門的な場面で発揮される技能であり、一定の条件下で上記六技能と同等あるいはそれ以上の力を発揮することができる。まさにスペシャルな技能である。なお、本作品にこれまで登場した人物の中でこの裏技能を持っているのは、軍師技能:カツラギ(7)、ビクター(8)、諜報技能:カロッヂ(8)、ゼクスタント(6)、指揮技能:ハンス(8)、ゼクスタント(6)、謀略技能:ゼクスタント(9)、そして、喧嘩技能:フリード(8)である】
一般的な冒険者技能については、レベル妖精が囁くことで把握できる。しかしながら、裏技能についてはそれを知る方法がない。
なので、おそらくそうなのだろうという判断を、自分でするしかない。
事実、男戦士はリーナス自由騎士団に籍を置き、同期の壁の魔法騎士、弟子の女軍師、逃がし屋が裏技能を持っているのにかかわらず、そうだと知らなかった。
そして彼ら自身も、それが自分の技能だとは理解していなかった。
それくらいに、裏技能とは無自覚に発揮されるものであり、把握するのが難しいものなのだ。
しかし、竜騎王がそれを正確に把握しているのは――どういうことか。
それは裏技能の存在について、男戦士に確認した大剣使いがカギを握っていた。
「昔、アイツと一緒に冒険をしていたことがあってな」
「そうなのか、ハンス?」
どこか懐かしそうに、暴れまわる竜騎王を眺める大剣使い。
既に愛剣を背中に負ぶった彼は、義弟の暴れっぷりを腕を組んで眺めている。
「……モンスターに襲われているところを、竜族の王子とは知らずに助けたんだ。最初はまったく頼りなかったんだが、乱戦の中で、剣を捨てた途端に覚醒してな。徒手空拳。武器を持たない状態での戦いで、アイツは並みの冒険者を上回る」
「なんと」
「当時、戦士技能レベル5だった俺と、肩を並べて戦えるようになったのを機に、冒険者を止めてリザードマンの国に帰ったが――まさか他の王子たちを屈服させて王になるとは思わなかった。いやはや、分からないものだな」
オラオラオラオラと、オラァモグラを叩き潰す竜騎王。
そんな感じで、武力で他の王子たちを屈服させたのだろうか。
だとすればあまり話のできる相手ではなさそうだ。
眉をしかめる男戦士に、ふっと大剣使いが微笑みかける。
「安心しろティト。どこぞの馬鹿と同じで、あいつもあまり知能が高い方ではない」
「……む?」
暗に自分のことを言われているのだが、それと気がつかない男戦士。
とどのつまり、純粋な奴だよと付け加えると大剣使いは再び義弟の方を向いた。
単純だからこそ、そこまで極めきることができたのか。
それとも、単純だからこそ、神がその力を与えたのか。
いやはや、世の中、上手くできているものである。
当の本人たちはその幸運に、少しも気がついていないようだったが。
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