第405話 逃がし屋さんと凶戦士の刃
【前回のあらすじ】
驚愕の展開。
キングエルフは女エルフの実の兄だった!?
今、彼女のどエルフのルーツがあきらかになる!!
「一族レベルでどエルフなのか。流石だなどエルフさん、さすがだ」
「ほら、言い逃れできなくなるぅー!!」
もはや彼女がどエルフなのは、覆しようのない事実であった。
それはそうと、今週末も真面目にファンタジー「逃がし屋」パートはじまりです。
はたしてダブルスパイを引き受けた逃がし屋は、第二部隊団長の凶戦士を探ることができるのか――。
「もういや、私もそっちの住人がいい!!」
無茶言わないでくださいよ、モーラさん。
あんたがいなくちゃ、始まらないでしょ。
というわで、「逃がし屋カロッヂ」はじまります。
◇ ◇ ◇ ◇
「バイ・パイツァー!!」
熱気を放ち赤く煌めく刃が闇を切り裂いた。
それをギリギリの所で後ろに飛びのいて避ける。
躱した太刀を流し目で確認しながら、逃がし屋は顎先の汗を拭った。
下手を打った。
逃がし屋が苦虫をかみつぶした顔をする。
草木も眠る夜の首都リィンカーンは第二部隊の砦。
その屋上で、突然凶戦士は抜刀すると、逃がし屋に斬りかかった。
「僕のことを嗅ぎまわるのはいいけれど、もう少しスマートにやったらどうだい。正直、ちらちらちらちらと視界に入って少しもお洒落じゃなかったよ」
「マジかい……俺の野伏技能が見切られていたってのか?」
「僕はこれでも流れを読むのは巧いんだ。ふふっ、世の中の流れを読まないと、お洒落なリーダーは務まらないからね」
赤熱する剣を八艘に構えて微笑む――マッシュルームヘアーの男。
夜陰の中にそそり立つその姿は卑猥。そう、彼こそ凶戦士、ヨハネ・クレンザーⅡ世こと、凶戦士であった。
鎧はつけていない。
あらかじめ、逃がし屋が第一部隊の団長から聞いていた暗示用ヘルメット――
敵わない。
彼我の実力を咄嗟に把握したのは、諜報任務をこなしてきた経験からくるものだ。しかしながら、逃げ出すことは難しそうだった。
やれやれと嘆息する逃がし屋に――。
「ほら、休んでいる暇はないよ!!」
「ちっくしょう!! こいつはとんだ地雷を踏んじまったぜ!!」
息つく間も与えずに、凶戦士は刃を振り下ろした。
老騎士より情報提供を受けてすぐ。逃がし屋はすぐに第二部隊に紛れ込んだ。とはいえ、今度は交渉して衣服を揃えている暇はない。
もし連邦騎士団内随一の戦闘能力を持つ第二部隊が裏切るのであれば、戦闘の初端が開かれるまでだろう。彼らは第三部隊と違って、武力はあるが機動力を持たない。幾ら最強の部隊と言っても、単身、戦場の中で裏切れば、集中砲火を受けて甚大な被害を受けることは必定だ。
つまり、決戦前夜にあたる今夜、裏切るつもりならば動くはず。逃がし屋はそう予想して、あえて隊内に紛れ込むことなく、第二部隊の行動を監視した。
そしてもし――裏切るのであれば真っ先に動くだろう、第二部隊の団長に張り付いていたのだ。
その結果がこれである。
勘づかれて返り討ち――にこそかろうじてなってはいないが、絶体絶命の状況に追い込まれていた。
凶戦士。
凶という名に相反して、頭の切れる男である。
逃がし屋が迂闊だったという訳ではない。むしろ、彼の仕事は完璧だった。事実、凶戦士以外の第二部隊の人員が、彼の存在に気付いてはいなかったのだ。
ただ一人、凶戦士だけが彼の視線に気がついた。
それはもはや彼の戦士として研ぎ澄まされた勘――。
普段の軽い言動と、凶戦士の肩書に侮った。
この男もまた、やはり食わせ物である。
「というか、食わせ者しかいないのかよ、この連邦騎士団は!!」
「君は逃がし屋のカロッヂ君だね。うぅむ、どうして僕の素性を探ったのか、なぜ、隠密のような行動をしているのか分からないが――とりあえず、暗黒大陸との決戦を前に怪しい行動をされてはこちらとしても困る」
「しかもこっちの素性までばれてるし!!」
「連邦騎士団の勝利のためにも――ここで倒れていただこうか、逃がし屋カロッヂ!! 大丈夫、君の死は僕の手によって、お洒落に演出してあげるよ!!」
その言葉が、偵察した結論となっていた。
いや、そもそも、こんな深夜になるまでこの首都リンカーンにとどまっている時点で、彼の裏切りはあり得ないだろう。
彼が率いる部隊にしてもそうだ。とっくに、裏切るのであれば動き出していなければ間に合わない時刻だ。
こいつもまたシロだ。
やれやれ、会戦前までに、裏切者を探るといった手前もあるのに。
逃がし屋は仕事の不首尾に力なく肩を落とした。
「待ってくれ、そうとなったら、もう俺とアンタが争う理由はどこにもない」
「あるさ!! 君は同盟者である僕に対して、不審を見せた!! それだけで、切り捨てる理由としては十分だよ!!」
「狂ってんのか? 少しはこっちの言い分も聞いてくれよ!!」
「
凶戦士の剣閃が雨あられと降り注ぐ。
剣の集中豪雨か。振り下ろしたかと思った太刀筋が、気づいたときにはまた上から襲い来る。地面を打って跳ね返ったように、返す刃が激しく顎先を狙う。
恐ろしくおぞましい剣の
ともすると、
そんな予感に逃がし屋は戦慄いた。
「となると、もうこっちには選ぶ手段は一つだけ……」
「へぇ、この状況で、選ぶ手段があるのかい? 絶対絶命だと思うんだけど?」
「忘れて貰ったらら困るぜ。俺は逃がし屋だ」
三十六計、逃げるに如かずだ。
言うや、逃がし屋は城郭の縁へと向かって走り出し――。
「あばよ、第二部隊の団長さん!! 明日はよろしく!!」
そういって、漆黒の闇が満ちる空にその身を投げ出した。
その下には狙いすましたように――帆布の張られた水場があった。
「……逃走経路を確保していたのか。なるほどすごいね、流石は逃がし屋」
帆布に落ち、跳ね、もう一度、地面を転がって着地する逃がし屋。
城壁の上で剣を構えてたたずむ凶戦士。彼に向かってあばよとばかりに手を振ると、彼は闇の中を駆けだした。
「しかし、第一部隊もシロ、第二部隊もシロとなると、最終的には第三部隊がクロって話になるんだが……」
本当にそうなのか。
そんな感じに逃がし屋は走りながら顎先を掻いた。
彼の中で何かが――そう、何かが胸の中でひっかかっていた。
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