第四章 フェラリア~いもうと~(名作感)

第406話 どエルフさんと生き別れの兄

【前回のあらすじ】


 逃がし屋VS凶戦士。

 凶戦士の必殺技「バイ・パイツァー」が闇を焼いて煌めく。

 絶対絶命。逃がし屋に勝ち目はないかと思われたが――。


「忘れて貰ったらら困るぜ。俺は逃がし屋だ」


 流石は二つ名、逃がし屋を持つ男。

 他人も、自分も、逃がすことには自信がある。


 かくして、逃がし屋カロッヂは、城壁から飛び降りると、張ってあった帆布の上に落下し、凶戦士の手を逃れたのだった――。


 はてさて、盛り上がってきた逃がし屋パート。

 一方で男戦士たちはといえば――。


「まさか、君が、そうなのか? 我が妹――フェラリア!!」


「そんな卑猥な名前の娘は知らん!!」


 キングエルフと女エルフ。

 二人が実の兄妹であるという驚愕の事実が判明した。


 身体的な特徴――首裏のハートの痣――が、それを否定することを許さない。


 残念、女エルフは逃げられない――状態であった。


「いやじゃー!! こんな変態が実の兄とか!!」


 という感じに、いい感じに女エルフが泣いたところで、今週もどエルフさん始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


「フェラリア!! フェラリアなんだろう!! 言われてみれば、どことなく死んだ母上に面影がある!! 間違いない、お前は私の妹だ!!」


「人違いですから!! 違います、貴方のような変態と兄妹とか、ありえませんから!!」


「じゃぁ、この首の後ろの痣はどう説明するんだ!!」


「ちょっと形が似ているだけです――ねぇ、コーネリア!?」


 女エルフは女修道士シスターにそれの鑑定を依頼した。

 女の柔肌と男の粗肌(?)である。箱入り娘の第一王女には判断させられないし、ワンコ教授には刺激が強すぎる。

 それは妥当な人選であった。


 はたして女修道士シスターが女エルフととエルフキングの首筋を見比べる。

 両者をじっくりと、そして、じっとりと見る彼女。


 しばらくして、女修道士シスターは顔を上げると、女エルフに優しい視線を送った。



「――完全にエッチ


「うぉおいっ!! ここでそういう色ボケ必要ないから!?」


「フェラリアぁあああああっ!!」


 その判定と共に、キングエルフが女エルフに抱き着いた。


 まるで会えなかった時間をいつくしむように、妹――らしい女エルフにまとわりつくキングエルフ。


 対して、暑苦しい顔をする女エルフ。

 そして、どうしていいか分からない一同。


「家族愛って素晴らしいですね」


 ほろり一人泣く第一王女。

 そんな中――ついに耐えかねたのか、女エルフ、自分の杖を手に握ると、暑苦しい兄の顔に向かって魔法を放った。

 得意の火炎魔法である。


 顔面直撃。

 汚い火花が散ったかと思うと、キングエルフは顔だけダークエルフになってその場に仰向けになったのだった。


「クボタァ!!」


 チリチリのアフロヘアーになって倒れたキングエルフ。

 そんな彼を助けたのは――共にケロンたちと戦った男戦士であった。


「大丈夫か――義兄おにいさん!!」


「お、義弟おとうとよ!!」


 不穏な響きにまた女エルフが杖を構える。

 今度は男戦士の顔面に汚い花火が炸裂した。


 あぁ、夏の風物詩。

 エルフの森の顔面花火。


「コスモ!!」


「何が、誰の、義兄おにいさんで、義弟おとうとか!!」


「――違うんだモーラさん!! 別に深い意味などない!!」


「俺たち二人は、さきほどの戦いを通して、お互いに認め合う中――義兄弟の関係になったのだ!! フェラリア!! 断じてお前が思っているような意味ではない!!」


「それならそれで紛らわしい表現を使うな!!」


「「タナカ!!」」


 二人揃って見事なアフロヘアーになる男戦士とキングエルフ。

 ある意味、血のつながっている兄妹より、よっぽど兄弟らしい格好になった彼らは、白目を剥いてその場に仰向けになった。


 白い雲がもくもくとその口から立ち上る。

 ついでに、魂も一緒に昇っていきそう――。

 お仕置きにはしてはちょっときつい。

 そんな塩梅であった。


「やり過ぎではありませんか、モーラさん」


「……馬鹿は焼かなきゃ治らないのよ」


「だぞ。けど、遺伝の件についてはそうかもしれないんだぞ」


「普通そんなにくっきりと、同じ形の痣が現れるなんて――そうそうありませんからね」


「よく見ると顔立ちも似ていますし。お姉さま、素直に受け入れるべきでは?」


 さんざん暴れたおかげでようやく落ち着いたのだろう。

 現実をようやく受け止める覚悟ができたらしい女エルフは、はぁと深いため息を吐き出した。そして、燃やした兄と相棒を見つめて、困った顔をした。


「……確かに、私は昔、エルフの集落からさらわれたエルフよ」


「……モーラさん」


「……フェラリア」


「物心もつかないころに、奴隷市場で売られていた所をお養母セレヴィさんに助けられて、それであの人に養育された。だから、自分がどこの生まれかなんて当然知らなかったし、知りたいとも思わなかった」


 けど、と、女エルフは言葉を止める。

 そして無言のまま辺りを見回すと、彼女はそっと目を閉じた。


 森を吹き抜ける風。

 風が立てる木々の揺れる音。

 木々の上や下に住まう獣たちの気配。

 そして、森全体が発している、生命の息吹。


 それらを全て感じ取った彼女は、目を開くと――実の兄、キングエルフに向かってはじめて笑顔を見せた。


「けど、分かるの。ここに私は居たことがある。このエルフの森を懐かしいと感じる心が、確かに私の中にあることを実感しているの」


「……フェラリア!!」


「……ここに飛ばされた時に感じた既視感の正体はこれだったのね、きっと」


 女エルフは、キングエルフのことを――そして自分の出自を、しぶしぶながら受け入れたのだった。


「兄さん、で、いいのかしら。まさか、この歳になって兄ができるなんてね」


「おぉ、おぉ、フェラリア!! 私は、再びお前と出会えたことがうれしい!! この世にたった二人の兄妹!! もはや今生で出会うことはできないだろうと、諦めていたお前と再び出会えた――なんという奇跡だろうか!!」


「そうね」


 その喜びを分かち合おう。

 そんな感じに女エルフに抱き着こうとしたキングエルフ。


 しかし――。


「火炎魔法」


「ポップスター!!」


 またしてもキングエルフは、女エルフに火炎魔法をくらわされた。再会を喜ぶ、そんな感じの空気だったにもかかわらずに――。


「それはそれとして、まずは服を着なさいよ!! この馬鹿兄貴!!」


 どうやらこの妹エルフは、典型的なツンデレエルフらしかった。

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