第404話 ど男戦士さんと残酷な真実

【前回のあらすじ】


「ふっ、天国で詫びるのだな」


「富野、河森、そして鳥海に――」


「鳥海監督以外全員生きてるわよ!!」


 完全勝利エクソダス!!

 男戦士たちはトカゲ男たちを、合体攻撃――光る体当たり――により倒した。


「ルビ!! あと、謝るのはあんただ!!」


 ごめんちゃーい。テヘペロ☆


「あぁもうっ!! この三十一歳馬鹿ニートに社会の常識を教えてあげてよ!!」


 ……常識を知りたい。


「敗北を知りたいみたいに言うな!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「ゲロォ……完敗だゲロォ」


「ふむ。大人しくす巻きにされるとは殊勝な心掛け。長いものに巻かれるのは得意ということか、爬虫類だけに」


「いや、あんな大乱痴気見せられたら、流石に反撃する気も失せるでしょ」


 五匹のトカゲ人間をす巻きにして正座させる男戦士たち。

 完全に戦意を喪失した暗黒大陸の刺客は、ははぁと男戦士たちを敬うようにその頭を下げた。どうか、これ以上は逆らいませんので、命ばかりはご勘弁をと、そういう感じの態度である。


 戦う気がなくなったのなら仕方ない。

 これ以上、とっちめるのはやめようと男戦士は剣を収めた。

 そしてズボンを穿いて鎧を着こんだ。


 す巻きに結わえられた荒縄を握りしめるのは――キングエルフ。


 プリッ!!

 褌を引き締めて粋にキメると、彼は男戦士たちに微笑んだ。


「なんにせよ、先ほどの合体攻撃で実感した。本当に風の精霊王の力を借りることに成功したんだなティトよ」


「あぁ、キングエルフ。お前のおかげだ、ありがとう」


「いや君たちの実力だ。私はただ、風の精霊王についての情報を教えただけ」


「そんな謙遜しなくてもいいじゃない。こうして戦闘にも力を貸してくれたし――ちょっとくらいは役にたってくれたわよ」


 なんにしても、事後処理は任せてくれというキングエルフ。

 彼は自分に構わず、早く西の王国へと向かうよう、男戦士たちに勧めた。


 ふざけた格好に、ふざけた体術、ふざけたやり取りに辟易とさせられたが、なんやかんやで男戦士たちに優しい男である。感謝に少し、男戦士の目元が緩んだ。

 悪い奴じゃなかったわねと、女エルフまで絆される始末である。


 まぁ、実際、キングエルフはキングの名に違わぬ立派なエルフであった。


「こいつらを石牢にぶち込んだら、私も仲間を率いてすぐに中央大陸に向かおう」


「向かわれても、間に合うかどうか」


「なに、移動はどうとでもなる。なんとか――二日も持ちこたえてくれば、エルフの民が助勢しよう。そのためにも、まずは暗黒大陸に対抗するための要である【漢祭】の益荒男を集めるのを優先されよ」


 頼んだぞ。そう言って男戦士の肩に手をかけるキングエルフ。

 任せてくれと力強く頷く彼を見て――。


 プリッ!!

 安心したようにキングエルフは褌を締めなおしたのだった。


「ほんと、最後の最後まで締まらない男よね」


「まぁまぁモーラさん」


「だぞ、褌一丁でなければ、立派な男なんだぞ。残念さんなんだぞ」


「そうですか? むしろ褌だから、肉体を堪能できるというか――ぐへへ」


「そうだ、ティト。もしよければなのだが、この暗黒大陸の危難が去ったら、お前に頼みたいことがあるんだ」


 そんな中、突然、キングエルフが話題をそらした。


 頼みたいこと。

 なんだろうそれはと、男戦士はもちろん女エルフも首をかしげる。


 彼が人に頼まなければ、ならないことなどあるのだろうか。

 先程の戦闘でみせた意味の分からないバイタリティの高さで、たいていのことは尻で解決しそうなキングエルフである。

 それだけに、その頼み事に少し興味がひかれた。


 静まり返る男戦士パーティ。


 プリッ!!

 よほど、真面目な話なのだろう。先ほど締めたばかりだというのに、エルフキングは再び尻の褌を締めあげた。そして、きりりとした凛々しい顔を男戦士に向ける。


「探して欲しい人が居るんだ」


「探して欲しい人?」


「いや、正確にはエルフだな……」


 エルフの里のことを覚えているかと、キングエルフは男戦士たちに尋ねた。

 滞在時間が少なかったこともあり、はっきりとは覚えていないが、どこかよそよそしい――人間を敵視するような空気があったことを、彼らは思い出す。


 彼らがその空気を思い出したのを確認して、キングエルフは言葉を続けた。


「あの里が、人間を敵視するのには理由がある」


「理由?」


「三百年ほど前のことだ。里に奴隷狩りの無法者たちが侵入してな。何人かのエルフが彼らの手により里から連れ去らわれたのだ」


「……そんな!!」


「ひどい話なんだぞ!!」


「許せません!! エルフをさらうだなんて、そんな不敬なこと!! エルフへの敬意が感じられません!! 横暴です!! 暴挙です!!」


 口々に声を荒げる男戦士パーティの女性陣。

 対して、男戦士の声色は穏やかだった。


 この世界で、人さらいやエルフさらいは、冒険者稼業をしていれば嫌というほど目にする。幸いにしてそんな仕事に関わったことがない男戦士だが、ギルドによっては、そういう依頼を受け付けているところもある。

 可哀そうとは思うが、あまり驚くような話でもなかった。


 しかし、女エルフは違う。

 彼女はこういうことには今さら言うまでもないが、敏感に反応するタイプだ。

 エルフの権利について、何かとうるさい女なのだ。


 そんな彼女が、なぜか黙り込んでいる。

 いつもだったら真っ先に怒る彼女がだ。

 しかもどうしたことか――彼女は顔を硬直させていた。

 更にその顔がさっと青くなる。


 何か嫌な予感がする、そういう感じの顔だ。

 そして――。


「連れ去らわれたエルフのうち、当時それなりの年齢だったものは、なんだかんだで村に帰ってきたんだ。しかし、ただ一人、まだ幼かった娘が帰ってきていない」


「帰還していない、その娘を探せと?」


「あぁ――頼めるだろうか? お前を信頼できる男と見込んでの願いだ」


 それは砂漠で砂金を探せというほど、難しい話のように思えた。

 エルフはなんだかんだで人間社会に恐ろしいほど馴染んでいる。なんの特徴もないのに、見つけ出すというのは容易ではないだろう。


 表情を曇らせる男戦士。

 そんな彼に、大丈夫だと、キングエルフは振り返って言った。


「彼女にはとても分かりやすい身体的な特徴がある」


「身体的な特徴?」


「――そうだ。この村の長。代々、キングエルフの名を継ぐ我が一族の者には、首の後ろにハート形の痣があるのだ」


「ハート形の痣だって?」


「我が妹にも同じように痣があった。この痣と同じものをもつ娘を探してくれればいい」


 そう言って、少し、キングエルフが頭を前にかがめて首筋を見せた。

 そこには彼が言った通り、黒色をしたハートの痣が浮き上がっている。


 途端。


「どうしたんですか、モーラさん」


「だぞ? いきなり首筋を隠して、どうかしたんだぞ?」


「お姉さま? もしかして何かお疲れですか?」


「なんでもない、なんでもないの!! ほほっ、ちょっと首が凝っちゃって!!」


 そう言いながら、キングエルフと男戦士から視線を逸らす女エルフ。


 しかし――もう、遅かった。


 女エルフの体については、まぁ、それなりに熟知している男戦士である。

 同様に、こういうことになにかと気が回るキングエルフである。


「ハート形の痣――もしかして?」


「まさか、君が、そうなのか? 我が妹――フェラリア!!」


「そんな卑猥な名前の娘は知らん!!」


 知らんといいつつ全力でツッコんでしまった女エルフ。

 思わず、振り下ろした手。それが外れた首筋には――キングエルフと同じ血族であることを示す、ハート形の痣が確かにあった。


 そう。

 変態の兄の妹もまた変態。

 それは世の理なのである。


「あ、会いたかったぞ、妹よ!!」


「いや!! 違う!! 何かの間違い!! 何かの間違いよ、これは!!」


 間違いであって欲しかった。

 だって、こんな変態が兄ならば――。


「なるほど。どエルフだどエルフだと思っていましたが、それは血だったんですね」


「一族レベルでどエルフなのか。流石だなどエルフさん、さすがだ」


「ほら、言い逃れできなくなるぅー!!」


 もはや、言い逃れできなくなってしまうからだった。

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