第400話 どトカゲ戦士さんとイブの構え

【前回のあらすじ】


 説明しよう。エルフリアン柔術とは。


 かつて東方の島国で興った柔術。それが海を越えて中央大陸に伝わり、やがて西の王国はエルフの森へと伝わり独自の進化を遂げたものである。

 柔よく剛を制す。柔の技は非力なエルフたちにとてもマッチした武術であった。かくして、西の王国はエルフの森に住まう者たちは、すべからくこの技を収めた。そして、より非力なエルフの体に適した技をいくつか編み出した。


 そうそしてこの、ケツ出し両手広げ――またの名を鳳凰飛翔の構えもまた、そんな彼らが編み出した独自の技の一つであった。


 さぁ、皆もはじめよう、エルフリアン柔術。

 非力でモヤシなボウイの僕も、エルフリアン柔術のおかげで今ではこんなモッテモッテに。エルフリアン柔術は人生を変えてくれました。

 ビバ、エルフルアン柔術。

 信じよ、エルフリアン柔術。


 エルフでも柔術を極めれば竜さえ締め落とすことが――できる、できるのだ!!


「できんわ!! あほーっ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 かくして、男戦士とキングエルフがトカゲ人間たちに向かう。男戦士はともかくとして、間抜けな格好のキングエルフ。しかし、その背中――というより尻に宿った気迫だけは本物であった。


 しばし、静寂が辺りを支配した。


 息をするのにも神経を削るようなそんな空気。

 剣を構える男戦士も、尻を突き出すキングエルフも顔色は崩さない。逆に、地の利に勝るはずのトカゲ男たちは、その冷血動物特有の熱を感じさせない顔をよりいっそう白ませて、ぎょろぎょろと目を忙しそうに動かしていた。


 形勢はもはや語るまでもないだろう。

 役者が違う。


「……げ、ゲロォ!! この程度のことで、ひるむケロン特選隊と思ったか!!」


「こちらは五匹!! そちらは二人!! 数にして二倍の差がある!!」


「負けるはずがねえDEATH!! やってやるDEATH!!」


「しかし、奴らのあの落ち着き――正直、こっちもただでは済まない」


「五匹のうち誰かが犠牲になるかもしれぬ」


 ごちゃごちゃと戦いを前にしてやかましいことを言い出すトカゲ人間たち。

 ふむ、来ないのならばこちらからと、男戦士が踏み込もうとした時だ。


「仕方ない――イブの構えを使うぞ!!」


「隊長!!」


「我らの必殺――五匹一体の必殺技をここで使うというのか」


「たしかに、出し惜しみのできる相手じゃない」


「仕方あるまい」


 イブの構えとはなんぞや。

 切りかかろうとした男戦士だがトカゲ男の言葉に機先を制される。

 そんな僅かな戸惑いの隙をついて、彼らは――ずらり男戦士たちに向かい一列になって整列した。


 まるで電車ごっこでもしているような状況だ。

 しかし――。


「なるほど。一列になることで、後方の者の動きを隠すという訳か」


「先頭の兵を捨て駒にして、多段攻撃で確実にしとめる。戦士の技ではない、暗殺者、あるいは兵の技だな――面白い」


「ゲロゲロゲロ!! それだけだと思ったか!! この技の恐ろしさは、それだけではないぞ!!」


「なにっ!?」


「どういうことだ!?」


 鼠の列車よろしく整列したトカゲ人間たち。彼らが一斉に襲い掛かってくる攻撃かと思いきや、どうやらそれだけではないらしい。


 不敵に笑う先頭に立つトカゲ人間。

 いやらしく真一文字に結ばれた目。


 その端が怪しく光った。


「ゲロっ!! よく耳を澄ましてみるゲロ!!」


「耳を澄ましてみろだと……」


「いったい何を言って……こ、これは!!」


 その時だ。

 再び訪れた森の静寂の中、そっと耳を澄ましてみれば――木々のざわめきの中からにじみ出るように、厳かな抑揚のある男の声が聞こえてきた。

 その声は、同じ言葉をつぶやいている。


『……〇ェットストリーム』


『……〇ェットストリーム!』


『……〇ェットストリーム!!』


 離陸していく飛行機のように、優雅なその声色に、男戦士たちが戦慄する。聞こえないはずの男の声に、得も言われぬ威圧感。いったいこの技はなんなのだと、戸惑ったその隙に――トカゲ男たちは男戦士に躍りかかっていた。


 完全に先手は取られてしまった。


「ゲロゲロッ!! これぞ必殺、イブの構えジェットストリームアタック!!」


「またの名をイブ・マサトゥスネークマンショー!!」


「どこからともなく聞こえてくる渋い声」


「そしてそれとなくエロティックな声」


「それに気を取られたがお前たちの最後よ」


 くそっ、と、舌打ちをして、襲い来るトカゲ男ちに剣と尻を合わせる男戦士たち。いつもなら遅れを取らない男戦士だが、今回ばかりは虚を突かれた。


 仕方ないだろう。


「なんということだ……あまりに魅惑的、デスでラーな感じのする声色!!」


「それにしてもいいい声ねという感じ!! やられた!! くそっ、迂闊!!」


「なんでひっかかるのよこのアンポンタン!!」


 ゲロッゲロゲロとトカゲ男たちが飛び交いその口から伸びたピンクの舌が、しなり、うなり、とぐろを巻いて男戦士たちを襲う。


 カエルの小隊がパロ元なのにトカゲな上にまさかのスネークマ〇ショー。

 もはや、読者さえも翻弄する、変幻自在のパロディ乱気流。そんな怒涛の攻撃に、男戦士たちはなすすべもなく巻き込まれた。


「ぐぁああああっ!!」


「ティトォ―――ッ!!」


「ヨシダサァ――――ン!!」


「なんだその叫び声は!? エルフキ――――ングッ!!」


 いや、スネークもやったらフロッグのショーもやらんといかんでしょう世代的に。


 とにかく、男戦士たち。

 ここにきてまさかの絶対絶命であった。


 このトカゲ人間たち――強敵である。

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