第382話 どエルフさんと大河ファンタジー

【前回のあらすじ】


 男戦士の弟子カロッヂ。

 まるで真面目な小説の主人公らしく騎士団の内情を探る彼は、思いがけず第七部隊の団長であるアレインから裏切り者の相談を受けるのだった。

 はたして、連邦騎士団を裏切っているのはいったい誰なのか――。


 なんて感じで弟子がシリアスしている一方。

 男戦士たちは今週もラブコメしないと出られない部屋の中なのであった。


 はたして、このラブコメ試練はいつまで続くのだろうか。

 実は手抜きなのではなかろうか。


 いや、結構個人的には面白いと思って力入れて書いていますよ。


「弄られるこっちは面白くないんだけれど!!」


 どエルフの癖に今更なことを気にするんですねモーラさん。


「自分の性癖を世間に晒されるのはなかなかしんどいものがあるな」


 アホで結構性癖だだ漏れの癖に今更ですねティトさん。


 死んだ魚の目をして性癖暴露合戦に参加する主人公二人。

 読者と作者が面白い反面、彼らの精神値は――ガンガン削られていくわよ。


 とまぁ、そんな感じで今週もどエルフさんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


 ――エルフ流奇譚MORA。


 前回のあらすじ。

 砂の都「サヴィアン」の革命に参加したエルフの娘モーラ。彼は死んだ兄――エルフの希望の子ドエルフの名を語り革命軍を率い鼓舞していた。最初は兄の変わり身でしかなかったモーラだったが、革命軍の参謀にして謎の隻眼半ケツの男キングエルフに導かれて、指導者としての才覚を徐々に覚醒させていった。

 かくして彼女の智謀と名声、キングエルフの指揮、そして仲間たち――頼りになる姉貴分のコーネリア、小さき賢者ケティ、亡国の姫エリィ――の助力により、革命は成功したように思われた。


 しかし、砂の都の領主ヨーシオは、軍師ヴィクターの策を聞き入れ、隣国の獅子王メチャデッカーとその軍勢を呼びよせたのだった。


 迫る獅子王メチャデッカーの軍。

 一転して窮地に追い込まれたモーラたち革命軍。

 仲間たちを逃がすために、モーラは一人砂漠のオアシスでメチャデッカーの軍に奇襲をしかけたのだった。


 しかし、圧倒的な力の差はいかんともしがたい。

 善戦虚しくもモーラは囚われの身となってしまうのだった。


 強大な軍事力と当人のカリスマにより、覇道を持って乱世を終わらせようとするメチャデッカー。

 あくまで人々の想いにより、和を持って乱世を終わらせようとするモーラ。

 二人の英雄がついに相まみえる。


 しかし――。


「君は……モーラ?」


「どうしてなの……ティト?」


 獅子王メチャデッカーは、ドエルフの幼馴染であるティトであった。

 兄の名を語り、男装して革命軍のリーダーへと身をやつしたモーラに、覇王はいったい何を思うのか――。


☆ ☆ ☆ ☆


「ティトさま!! こやつがエルフの希望の子――ドエルフです!!」


「……こいつが? いや、まさか……」


「本当だ!! 我こそはエルフの希望の子ドエルフ!! 迫害され住む土地を追われたエルフの民たち、そして貴様の武威に屈さぬまつろわぬ民を率いる者!!」


「……っ!!」


 玉座に座るメチャデッカーが顔を歪める。

 子供の頃に一度だって向けられたことのない、明確な悪意を湛えた冷たい視線。

 私は、彼のそんな表情に――やっと現実を受け入れた。


 ティトは変わってしまったのだ。


 幼き頃。

 弱かった私をいつだって庇ってくれた、あの少年はもうどこにもいない。

 いま目の前に居る男は、私が倒すべき敵なのだ。


 兄ドエルフを殺し、この大陸に殺戮の嵐をばら撒こうとする凶王なのだ。


 胸のさらしの中に隠しておいたナイフの冷たさを感じる。

 よもや、虜囚の将となった私が――王道を説き、自由を唱える私が、暗殺を考えるなど彼らは思っていないだろう。

 だが、それこそが勝機。


 この凶王を止めることができるのならば。

 私は兄のように命を投げ出すことを厭わない。


 けれど――。


 どうして、ティト。

 なぜ貴方がメチャデッカーなの。


「どれ、余が直々にその顔を確かめよう」


「メチャデッカーさま!! 危険です!!」


「虜囚の将に何ができる。ふっ、哀れよのうドエルフ。貴様の命運もここに尽きた」


「……それは、どうかなメチャデッカー!!」


「なにっ!!」


 胸の中からナイフを抜く。

 私はそれを迷わず彼の顔に向かって切りつけた。胸のさらしがはだけて、肌が露わになる。私が女であることを、目の前の男は見たはずだ。


 はたして、そんな戸惑いが彼の動きを刹那ではあるが止めた。


 だが――彼は凶王。

 武威により覇道を行くもの。

 私の太刀筋は彼に見切られて、その頬を軽く掠めることしかできなかった。


「メチャデッカー様!!」


 彼の参謀が叫ぶ。

 もう一度、返す刃で喉を突こうとした時――ティトの手が私の腕を握っていた。

 そして、とても悲しい瞳が、私に向けられているのに気が付いた。


 ティト。

 あぁ、どうしてこの場面で、この瞬間で、そんな顔をするの。

 私は今、貴方を殺すことを覚悟したというのに。


 なのになんで――。


「メチャデッカー様!! おのれ、ドエルフ!! 兵よ、すぐに奴を取り押さえよ!!」


「やめよ!! 余が直々に検分すると申したはずだ!! お前たちは下がるがよい!!」


「……しかし!!」


「よいから下がれ!! こやつのような非力な者に、余が殺されると思っているのか!!」


 それより、二人きりにしてくれ。

 ティトはそう言って、彼の参謀と、近衛兵たちを下がらせた。


 急ごしらえの陣営の中。

 砂漠を吹き抜ける風の音が私たちの息遣いを掻き消す。

 天上の太陽が雲の幕の中に隠れて陰を地に落とした時。


「……モーラなんだな」


 ティトは問うた。私に問うた。

 あの日と変わらない優しい笑顔で。そして、今にも泣き出しそうな眼差しで。


 私の手からナイフがこぼれおちる。


「……どうしてティト。どうして貴方が凶王メチャデッカーなの」


 目の前の男への問い。

 その答えが帰って来るより早く、彼は私の体を強く抱きしめた。


◇ ◇ ◇ ◇


「……75点!!」


「しゃオラッ!! どうだ見たかティト!! 高得点よ!! ホホホ!! やっぱりね、こういうのはなんだかんだ言って女心が大事なのよ!!」


「……異議あり!! これはラブコメではない!! ラブシリ……ラブシリアスだ!!」


 先週と打って変わって高得点を叩き出した女エルフ。

 鼻を伸ばして自慢げにする彼女。それに対して、ぐぬぬと悔しそうに――凶王メチャデッカーこと男戦士は憤慨したのだった。


 せっかくの高得点なのに、何をいちゃもんをつけているのだろうか。

 当初の主旨をすっかりと忘れてしまっている。そんな彼に代わって、関係ないわよねと、女エルフは自慢げに顔を風の精霊王に向けた。


 しかし――。


「いや、実際、ラブ成分としては完璧じゃ。もうなんというか、社会現象になるレベル、少女漫画のターニングポイントと言っても過言ではない描写じゃった」


 点数に反して風の精霊王の表情は少し渋かった。

 いや、少しどころかだいぶ渋かった。


 そんな顔を見て、女エルフが不安そうに顔をしかめる。


「えっ、ちょっと、待って。75点って言ったじゃない」


「言った。しかし、それはラブ成分だけを指してのことじゃ」


「……いやいやいやいや」


「ワシが見たいのはラブ。ラブファンタジー、ラブ大河、ラブシリアスは――なんというか重たいから勘弁してほしいんじゃよ。ほれ、ワシ、お爺ちゃんだから、もうそういう深刻な展開とかついていけんのじゃ」


「……そんな!!」


「という訳で、今回のは無効!! 次、行ってみようか!!」


 せっかく頑張ったのにとその場に崩れ落ちる女エルフ。

 よっぽど、この手の話が好きなのだろう、うわぁんと彼女は声を上げて泣いた。

 人目もはばからず泣いた。


 そりゃそうであろう。

 自分の趣味を全開にして挑んだシチュエーションで、大恥を掻いたのだ。なまじ点数が高かった分、その悲哀は大きい。


 流石に今回ばかりは、流石だなとは言えない男戦士であった。


「……モーラさん、俺もあの作品好きだぞ!! だから元気だせ、な!!」


「ティトォ!! ありがとぉ!!」


「……割と素でラブコメしてるのに、どうしてこれが本番だと出せないのか」


 人間そんなもんである。

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