第381話 ど逃がし屋さんと内偵

【前回のあらすじ】


「もしかして!!」


「私たち!!」


「「入れ替わってるぅー!!!!????」」


「-100点」


 安易にパロるな。そう釘を刺される男戦士と女エルフであった。


 さて、タイトル的に、今回は再び視点を変えて【逃がし屋】さんのお話です。


◇ ◇ ◇ ◇


「まずは連邦騎士団の内部情報を調べなくちゃならないが。はてさて、どこかにいい感じに話を聞く相手はいないものかね」


 連邦騎士団に居る裏切り者。

 第一部隊、第二部隊、第三部隊。

 裏切った際の費用対効果を考え、おそらくそのどれかの団長であろうと踏んだ逃がし屋だったが、いかんせん彼は所詮は部外者だ。


 内部の事情についてはそれほど詳しい訳ではない。


 怪しい動きをしている人物や、裏切りそうな人物について、情報はこれから集めなければならない。


「最も危うそうという意味では、第二騎士団のカーネギッシュだが」


 凶騎士の名前を挙げる逃がし屋。

 その二つ名が意味する通り、彼は連邦騎士団きっての戦闘狂である。

 戦うために生まれてきたような男であり、戦えるのならば場所や勢力はもとよりその大義名分も選ばない――そんな所がある。


 にわかにあのなよなよとした様子からは信じられない話ではある。

 だが、事実として彼は、そのような戦いぶりで名を連邦大陸で馳せていた。


 凶戦士カーネギッシュ。

 戦場でその行く手を阻むのであれば仲間すらも斬って進む。

 同盟軍の中を斬り進んで敵の大将の首を獲ったことも数知れず。


 凶悪、凶暴、凶兆の将――故に凶戦士と呼ばれているのだ。


 対して老騎士は幾度となくこの連邦共和国の死地を救って来た名将。

 第三騎士団の団長も、ともすればまとまりに欠ける連邦騎士団を取りまとめている苦労人である。


 両人、騎士団の運営結束には欠かせない人物。

 そんな二人が裏切るだろうか。


 だが、逆に考えればそんな人間が裏切るからこそ、ダメージが大きくなるとも言える。


 三人等しく怪しい。

 怪しいが、最も裏切り易いという点で見た時――そうする可能性が一番高いと思われるのは、やはり凶戦士であった。


「彼の部下を尋問にかけるか?」


 そう考えた時だ。


「おぉ、カロッヂどの!! こんな所に居られたのか!!」


 不意に逃がし屋の背中に声をかけるものがあった。

 振り返れば、そこに居るのは――連邦騎士団きっての使えない団長。

 どうしてこのような娘が、団長などという役目を背負わされているのかよく分からないそんな女騎士。


「……アレイン殿」


 かつて男戦士――というより女エルフと壮絶なへっぽこ勝負を繰り広げた女騎士が彼に向かって手を振っていた。


 まず真っ先に逃がし屋が裏切り者候補から外した相手である。


 彼女だけはあり得ない。

 裏切るメリットもそうだが、裏切るだけの技量がそもそもとして備わっていない――と、逃がし屋はその実力を判断していた。


 もちろんそのような与太を演じている可能性もない訳ではないが――。


「いやはや、白百合女王国の第一王女を逃がした手際――実に見事であった。私のような若輩者にこのようなことを言われるのはあまり気分の良いものではないかもしれないが、騎士とは戦うばかりが能ではないなとしみじみ思い知らされた」


「ははは、そりゃどうも。アンタみたいな綺麗な人にそう言われると、悪い気はしないね」


「ふふっ、そうだろうそうだろう」


 無礼者。

 騎士となった時に女は捨てた――とか、殊勝なことは言わないのな。


 綺麗と褒められて完全に図に乗る女騎士に、呆れかえる逃がし屋。

 ますます、彼の中で彼女に対する警戒心が緩んだ。


 女騎士の従士をしている少年であれば、裏切った際のメリットはともかくとして欺くだけの技量はあるだろう。この女騎士について評価できる所があるとすれば、あの将来有望そうな少年従士をよく使っていることだけだろう。


 それもこの調子ではいつまで持つかは分からないが。


 ふむ、と、逃がし屋は考えた。


「そう言えば、なにやら俺を探していた口ぶりだったが?」


「おぉ、そうだったそうだった。実は折り入って話があってな」


「なんだろうか。俺のようなちゃらんぽらんでよければ、喜んで相談に乗らせてもらうが。そうだな場所を変えようか――」


 まずはこのいささか頭の螺子が許そうな女騎士から話を聞くのもいいだろう。

 案外、このような無防備な娘であれば、正体の分からない裏切り者も迂闊にボロを出すかもしれない――そう、逃がし屋は考えたのだ。


 かくして逃がし屋の発案で、女騎士が管理する応接室へと二人は移動した。

 だが――。


「……なに?」


「お待ちしていました、逃がし屋カロッヂさん」


 通された女騎士の応接室。

 そこには、何故か彼女には出来過ぎた部下――の姿があった。


 同時に逃がし屋の背後で女騎士が蠢く。

 まずいと、咄嗟に彼が腰のベルト――そこに結わえてあったナイフに手を伸ばそうとした。


 だがそれよりも早く――。


「くっ、殺せぇっ!!」


「――うぇっ!?」


 号泣。

 何故か鼻水まで垂らして、女騎士は、逃がし屋の胴にしがみついた。


 そのまま彼女が自分を捕まえているうちに少年従士が攻撃する――のかと思いきや、どうやらそういう様子もない。


 これはいったいどうしたことだと逃がし屋が戸惑う。

 すると、そんな彼の表情からか、それとも、主人の情けない表情からか。たははと少年従士が、なんともしまりの悪い笑い声をあげたのだった。


「すみませんカロッヂさん。どうも、アレインさまは狼狽えてしまうよなことがあると、すぐくっころしてしまう性質でして」


「いや、それは構わないんだけれども。いったいどういう」


「見てしまったんだぁ!! 団長が、我々を裏切って、暗黒大陸側のゴブリンと顔を合わせている瞬間を!!」


「……なんだって?」


 それは早速、逃がし屋が問いただしたいと思っていた内容だった。

 団長が暗黒大陸側のゴブリンと密会とは――。


 興味深いその言葉に思わず逃がし屋の口元が緩む。


「詳しく話を聞かせて貰ってもいいだろうか?」


「やだぁ、怖いぃっ!! トット、代わりにお願いぃいぃ!!」


「……うぇえぇ、まじかぁ」


「相当ショックだったらしくて。という訳で、これ以降は、アレイン様に代わって――また聞きになってしまいますが、僕からお話させていただきます」


 そのあまりの狼狽えぶり。

 おもわず、女に甘い逃がし屋も、げんなりとした顔をした。

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