第380話 どエルフさんともしかして私たち

【前回のあらすじ】


 男戦士はエロ漫画の鉄板ネタ、鶴の恩返しテンプレを使った。

 しかし残念、それはちょっと男の欲望に忠実過ぎて――気持ち悪いのであった。


「0点」


「なにぃーっ!! 嘘だろ!! そんな馬鹿な話ってあるかよ!! そうだろ全肯定ハムどエルフさん!! うん、まったくその通りなのだ!!」


「……まったくその通りな訳ねー。なんだこの恥ずかしいシチュエーションは」


 風の精霊王にきっぱりと、ないわーと言われてしまう男戦士たち。

 一昔前のエロ漫画にレディコミ。そう煽られた彼らは、だったら最新のラブコメを見せてやるわいと啖呵を切った。


 まぁ、それはさておき。


「僕は、モーラさんの、猫耳姿を見れて、とても満足です」


「……キモ」


「三百歳だけど、猫耳つけるとまだまだいけるなモーラさんも」


「どういう意味だコラ!! 三百歳でなくてもまだまだいけるわ!! 見た目は十八歳、実年齢は三百歳、その名はエルフの娘モーラ!! って、コラーっ!!」


「そのコンビネーションを、どうして本番で活かすことができないのか……」


 ほんと、そういうところである。


◇ ◇ ◇ ◇


「……チャララ、チャララ、チャララー、ラララー♪(あの曲)」


「チャラララ、チャララ、チャーラ、チャララ♪(あのメロディ)」


「チャララ、チャララ、チャララー、ラララー♪(繰り返し)」


「チャラララ、チャララ、チャッ、チャッ、チャチャチャ♪(サビと同じくらい有名なとこ)」


「チャララ、チャララ、チャララー、ラララー♪(ボリュームアップ)」


「チャラララ、チャララ、チャーラ、チャララ♪(もういいでしょ)」


「チャララ、チャララ、チャララー、ラララー♪(作品名は以下から察してください)」


「もしかして!!」


「私たち!!」


「「入れ替わってるぅー!!!!????」」


◇ ◇ ◇ ◇


「-100点」


「なんでよぉっ!!」


「限りなく最新かつ大ヒットした叙事詩『君、名前は?』じゃないか!! 俺はこれで十回は酒場で泣いたぞ!!」


「私は十三回よ!!」


【叙事詩 君、名前は?: なんかこう男女が入れ替わってわちゃわちゃして世界の崩壊をどうこうしたりとかなんたらするお話。ここ最近、酒場の吟遊詩人が好んでこのネタをやっており一大ブームを巻き起こした。なお弾き語りのイントロが特徴ありすぎて、もうなんかそのメロディを聞くだけで、泣き出してしまう人もいるとかいないとか。ちなみに作者は未見です。未見なのにネタにするのはどうなのって。ハハッ、こやつ!!】


 男戦士と女エルフが肩を怒らせて風の精霊王に迫る。

 そんな二人に向かって、はぁと溜息を吐きかけた風の精霊王は――。


「安易にパロるな、小僧こぞうども!!」


 なんだかそのツッコミ自体も安易なパロな感じに、二人を【ラブコメしないと出られない部屋】の天井に向かって弾き上げたのだった。


 流石は風の精霊王である。

 最強と噂されるその力は本物らしい。


 大の大人が二人して、大きく舞い上がったかと思うと、そのまま天井に身体を強打して、はたりとその場に頭から落下したのだった。

 大丈夫。そこまで含めてパロ演出である。


 それはそうと、風の精霊王はコミカルな顔の眉根に皺をよせていた。


「さっきからなんじゃ!! レディコミ、エロ漫画、挙句の果てにはヒット作のパロ!! 恥ずかしくないのかお主ら!! そんなことで!!」


 激おこ。

 緑鬼が赤鬼になるのじゃないか。

 そんなえらい剣幕で風の精霊王は、男戦士と女エルフを怒鳴りつけた。


 いきなりそんな手厳しい言葉を浴びせられた二人である。

 始める前には満ちていた、根拠のない自信と勢いは完全に消失していた。


 しかし、彼らにももちろん言い分はある――。


「いや、そんなことでって言われても困る」


「ラブコメしろって言われても、自分の中にある知識からしかそういうのは引っ張り出すしかないじゃない」


「俺たちも知識を総動員して、ラブでコメコメな寸劇をしているんだ!!」


「そうよ!! 自分の趣味に寄った展開になるのは仕方ないじゃない!! というか、最後のはもうこっちもやってて涙腺ちょちょ切れそうだったのよ!!」


「そうだ――俺とモーラさんが何度一緒にアレを聞いて泣いたか!! そういう思い出とかを考慮してくれてもいいんじゃないのか!! この鬼!! 悪魔!!」


「鬼じゃし、悪魔じゃないけど精霊だからのう、ワシ。ワシも『君、名前は?』で何度も泣いた口じゃが――だからこそ言える!! 安易な模倣なんぞしても、そんなもので人を感動させることなぞできないのじゃよ!! いつだって人を感動させるのは、その作者しか表現することのできない――オリジナルな部分なのじゃ!!」


「そんな高尚なことを言われても困る!!」


「私ら普通の冒険者だっちゅーの!!」


 ごもっともである。


 一介の冒険者に求める、話のクオリティがいささか高すぎないだろうか。

 女エルフと男戦士のツッコミはあながち間違ってはいなかった。


 しかし、この場を支配しているのはあくまで風の精霊王。


「とにかく!! そんな有名作品のパロディをしてみせたところで、ワシはちっともキュンキュンなんぞせんからな!! もうちょっと、自分達にしかできないオリジナルなものを見せるんじゃ!!」


「いやだから!! 私らそういうんじゃないですから!!」


「異世界ファンタジーでもいい!! 現代モノでもいい!! とにかく、オリジナリティ――お主たちの作家性をみたいんじゃよ!!」


「「そんなモノを求められても困る!!」」


「じゃぁ辞めるか? 風の精霊王の試練を? ええのか? ワシの力が借りたいんではなかったのか?」


「「ぐ、ぐぬぬぬ……」」


 背に腹はなんとやら。

 風の精霊王の力を借りないことには、この森を脱出することは叶わない。


 オリジナリティなぞ求められても困る。

 自分たちはただの冒険者なのだから――そう思いつつも、ここで折れることはできない男戦士たちなのであった。


「分かったら、とっとと次のネタを用意するんじゃ!!」


「そんなポンポン出てきたら苦労しないわよ!!」


「……今更だが、ラブコメ作家の苦労がこれほどまでとは想像しなかった」


「本当ね。ちょろっと書けばどっかんどっかんウケると思っていたけれど、浅はかな考えだったわ。こんなのを数書けるなんて、よっぽどの天才か――」


「よほどの暇人のどっちかだな」


 どうも、よほどの暇人(無職)です。

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