第373話 ど男戦士さんと風の洞窟

【前回のあらすじ】


 エルフの森の集落へとやって来た男戦士たち。

 なんとかして西の王国の首都へと向かいたい男戦士に、キングエルフは、とある存在に助力を求めるように提案するのだった。


 その存在とは。


「風の精霊王。この世の精霊王の中で最も強い――無敵の精霊」


「無敵の」


「精霊王!!」


「だぞ!!」


「……嘘くさぁ」


 一人、白けたことをいう女エルフ。

 かつて色んな精霊王に、酷い目に合わされている彼女である。その反応はごもっともであった。


◇ ◇ ◇ ◇


「なんなのだ、その、無敵の精霊王とは!!」


「最近そう言うパワーワードばっかり使ってる気がしますね」


「だぞ!! けど、確かに前に精霊王たちが言っていたんだぞ――風の精霊王は毛色が違うって!! 気をつけるんだぞって!!」


「精霊王がどんなものかは知りませんが、今は一つでも多く力を借りたいところ」


 盛り上がる男戦士たち。

 そんな彼らを他所に――。


 女エルフは一人、凍り付いたような表情をしていた。


「……嘘くさぁ」


 二回目。

 キングエルフのことが信じられないのか。それとも、精霊王のことが信じられないのか。とにかく女エルフは、その無敵の精霊王というフレーズに疑問を呈した。


 とはいえ、この流れを彼女一人がどうこう言ったところで止められる訳もない。

 いったいどんな精霊王なのかとワンコ教授が食いつけば、それを話題に上げたキングエルフは腕を組んで語り始めた。


「風の精霊王の名はカイゲン。風を意のままに操り、嵐と雷を呼び起こす、緑の鬼神だと伝承にはある」


「カイゲン!!」


「なんといいますか、その能力に反して親しみのある名前ですね」


「彼の起こす風に乗れば竜よりも早くこの大陸を駆け、彼の起こす雷雨を背にすれば戦には負けぬという。しかしながら、あまりにその強力な力から、彼はこのエルフの森の外れにある洞窟に、自ら籠って外界との関わりを断ったのだ」


「神々が人間たちと距離を取るのと同じ理由」


「だぞ。強すぎる力を持て余すのは神様の常なんだぞ」


「……つまり、その洞窟に行けばいいということか、キングエルフ?」


 いささか結論を急いだ男戦士の問いに対して、エルフキングが不敵に笑う。

 どうやら話がそう単純でないことは、彼のその反応からも明らかだった。


 その笑顔のすぐ後に――キングエルフはその場に立ち上がった。


 プリッ。

 そして褌を締めなおす。

 ここぞとばかりに。


「言っただろう、に打ち勝たねばならないと。それは辛く、厳しく、今まで誰一人として突破した者のいない、おそろしい試練なのだぞ」


「褌ひきしめる意味ありましたかね今」


 辛く、厳しく、褌を引き締めるという行為に一切意味を感じない女エルフの辛辣な言葉が、せっかくキメたキングエルフに釘を刺した。


 風の精霊王以上に、この女エルフの方が厳しいかもしれない。

 男戦士は少しだけ我に返った。


◇ ◇ ◇ ◇


 再び森の中。

 キングエルフの導きにより、男戦士たちは風の精霊王――カイゲンが居るという洞窟へと向かった。


「伝承によれば、風の試練は必ず男女二人で受けなければならないという」


「だぞ、男女二人で?」


「妙なしきたりですね。どういう意図なんでしょうか」


「暗がり、密室、封印、そして男と女が一人ずつ――お姉さま、エリィ分かりました!! これあれです!! きっと、ちょっとエッチな奴です!!」


「そんな訳ないでしょ。どういう思考してるのよ貴方」


 風の精霊王の力を借りるための試練。

 これまで一人として、その試練をクリアしたものが居ないという謎の試練。それを前に、男戦士パーティが盛り上がる。

 最強の精霊王という肩書を聞いていささか懐疑的だった女エルフも、気がつけば流されるように、その試練がどんなものだろうかと考え込んでいた。


 ダンジョン攻略となれば冒険者の腕が鳴る。


 誰も攻略したことのない試練。

 そう言われて、女エルフたちの冒険者心が揺さぶられない訳がない。


 それはそれ、これはこれ。

 キングエルフは信用ならないし、最強の精霊王というのは眉唾だとしても、高難易度のダンジョンを攻略しようというのは心が躍るモノだったのだ。

 さてこの際、問題となるのは――。


「誰が入るか、ですね」


「だぞ」


「まぁ、男性は一人しかいない訳ですからティトさんで決まりとして、問題は女性ですね。私は全然一緒に入っても構いません――むしろ、大歓迎ですが!!」


「そんな危ないことさせれる訳ないでしょ!! というか、ちょっとは落ち着きなさいエリィ!!」


 仕方ないわねぇと、ごちる女エルフ。

 もちろん、女修道士シスターもワンコ教授も、最初から誰が男戦士と洞窟に入るかなんて、言うまでもないことだと考えていた。


 素直でない彼女である。

 周りがお膳立てしないと自ら行くとは言わないだろう。

 そういう駆け引きであった。


「私が入るわよ。文句ないわよね、コーネリア? ケティ?」


「えぇ」


「だぞ」


「よろしく頼むぞモーラさん」


 まぁ任せなさいよ。

 そう言って金色の髪を流す女エルフは、久しぶりに余裕ある冒険者の顔をした。


 その時、先頭を行くキングエルフの足が止まる。


「ここだ。ここが風の精霊王が隠れているという洞窟だ」


 うっそうと樹々が生い茂る森の中。

 微かにではあるが樹々の合間に暗い風穴があるのが見えた。


 どうやら地下へと潜るように続いているらしいその洞窟。

 その入り口にはなぜか――。


「……なんで相合傘が?」


 無数の相合傘と男女の名前が掘られていた。


 そう、この時女エルフと男戦士は気が付くべきであった。


 その無数の相合傘の指す意味に。

 そして、そこから類推される、風の精霊王の試練に――。


「ほらぁっ!! やっぱりこれエッチな奴です!! 絶対にエッチな奴です!!」


「……エリィ。貴方、清楚に見えて、実はそういうキャラだったのね」


「暗闇をいいことに、俺にあんなことや、こんなことをするつもりなのか――モーラさん!! ひどい、セクハラだ!! 訴えてやる!!」


「逆じゃろが逆ゥ!! なんでお前が悪戯される方やねん!!」


「俺の貞操を守って!!」


「僕の地球を守ってみたいに言うな!! 頼まれてもしないわよ!!」


 そう、気が付くべきであった。

 あまりにシリアスすぎる展開が続くと、作者がいろいろと耐えられなくなって、話しが変な方向に進むことがある。


 そんなどうでもいいが重要な世界の真理に――。

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