第372話 ど男戦士さんと風の試練

【前回のあらすじ】


 褌男エルフを相手に、どエルフさんのツッコミが冴える。

 繰り出される卑猥なツッコミにキングエルフもたじたじだ。


 流石だなどエルフさん、さすがだ。


「いや、そういうのいいから」


 おぉっと。

 割とマジにモーラさんがお怒りの御様子。

 なので、さっさと話しを進めようと思います。


◇ ◇ ◇ ◇


 男戦士たちが転移した小川から歩くこと四半刻ほど。

 彼らはそこそこ大規模なエルフの集落へとたどり着いた。


オサ!! 人間を村落に引き入れても大丈夫なのですか!?」


オサ!! 我々は人間と関わらずに生きていくのではなかったのですか!?」


 オサオサと、キングエルフに駆け寄って来る集落のエルフたち。

 どうやらエルフの王というのは怪しいが、彼がこの集落を治めているエルフであるのは間違いなさそうであった。


 そんな風に駆け寄られるのを自慢げに見せつけながら、また――。


 プリッ。

 キングエルフは褌を引き締めるのであった。


「いい加減それやめて欲しいんですけど。やる意味あります。というかないですよね。どういうアピールですか。褌引き締めて何が楽しいんですか」


「エルフの森のオサであることの条件。そしてキングエルフである条件。その一つが、白褌が似合うケツの持ち主であるということなのだ。だから仕方ない」


「けど毎回引き締める必要ありませんよね」


「馬鹿者!! いついかなる時でも、最高の褌姿を提供する――それがエルフの王としての矜持というモノなのだ!! 君もエルフならば誇りを持て!!」


「そんな誇り、洗濯のついでに川に流れてしまえばいいのよ」


 相変わらず、フォローのしようがないほど辛辣な口ぶりである。

 キャンキャンと噛みつく女エルフに、キングエルフはやれやれという感じに首を横に振る。


 まるでわかっちゃいないぜこのエルフ、とでも言いたげに。


 そんな彼に得意の火炎魔法を食らわせようとした女エルフ。

 すかさず女修道士シスターがそれを止めた。


 そんなカッカする女エルフはさておいて。


「凄いんだぞ!! こんな大規模なエルフの集落、初めてお邪魔するんだぞ!!」


「右を向いてもエルフ!! 左を向いてもエルフ!! 上を向いても、下を向いてもエルフエルフエルフ!! はぁあぁあぁん、どうにかなっちゃいそう!!」


「ここがエルフの森のエルフの集落だというのか――すごい、すごいぞ」


【キーワード エルフの森: 広義にはエルフが住んでいる森を指す言葉だが、この世界においては取り分け西の王国の北部にある地域を指して言われる。そこは、この世界で最も多くのエルフが住んでいると言われている場所であり、エルフたちの楽園としてエルフメイトたちには知られている。また、ドワーフの里というものがこの世のどこかにあり、かつてエルフの森派とドワーフの里派の者たちは、血で血を争う戦いを繰り広げていたという。この故事より、エルフ・ドワーフ不仲説が発生したともいわれている。同時にエルフの森派とドワーフの里派という、永遠の宿敵関係を指す言葉も生まれたとか生まれないとか】


 感動に打ち震えるエルフマニア二人。

 そして考古学マニア一人。


 女エルフの怒り心頭を他所にして、彼らはいつものようにはしゃいでいた。


 無理のないことである。

 集落の民の言葉の通り、彼らは人間と関わらずにこの地で長く暮らして来た。このように、男戦士たちを迎え入れることは異例のことである。

 裏を返せば人間たちにとってもそれは強烈な体験であった。


「人間たちを村に入れるなんて!! オサは三百年前の事件を忘れたんですか!!」


「人間たちを招き入れたばっかりに、多くの娘たちが――」


 男戦士たちに辛辣な視線が飛んだ。

 どうやらこの集落はかつて人間により何か被害がもたらされたようだ。


 道中も、どこかピリピリとした視線の痛さを感じていた男戦士たち。

 その理由が分かった気がして、少し浮かれていた彼らの顔に緊張感が戻った。


「やめないか皆!! 彼らはそんな浅ましい者たちではない。それは、オサである私が保証する!!」


「しかし――」


「それより今は村の――いやこの大陸の危機だ!!」


 男戦士たちを庇ったのはキングエルフだ。

 彼の一喝で、エルフたちは男戦士たちに向ける視線を緩めた。


「暗黒大陸のことについては、私から皆に詳しく説明しよう」


「すまない」


「人間の戦士ティトよ、君が謝るようなことではない。大陸の危機を前にして、エルフも人間も、力を合わせて立ち向かわなければいけない。それは事実なのだ」


 過去の恩讐は忘れて、今は手を取り合わなければいけない。

 そう言って、また――。


 プリッ。

 キングエルフは褌を引き上げて白い歯を見せるのだった。


「だからそれいりますかぁー!? いらないですよねぇー!? なんのアピールなんですかぁー!?」


◇ ◇ ◇ ◇


 さて。

 集落の真ん中。

 割としっかりめの造りをした、村長の家へと男戦士たちはやって来た。


 意外にも、キングエルフはキングのくせに独り身らしく、家には誰も家族は居なかった。

 まぁ座ってくれと促されて、男戦士たちは入ってすぐの板間に座る。


 男戦士に対面するようにキングエルフが腰を降ろす。

 もちろん――座る前に見返り。


 プリッ。


 褌を引き締めるのは忘れなかった。


「しかし、こうして着いてきたのはいいものの」


「弱りましたね。どうすれば、西の王国の首都に行けるのでしょうか」


「だぞ。大幅に時間ロスなんだぞ」


「まぁまぁいいじゃないですか。せっかくの天国なんだから、満喫しましょう。あ、みなさんすみません、私ちょっとお花を摘みに――」


「エリィ。アンタは身柄を狙われてるんだから余計なことしないの」


 こっそりと家を抜け出してエルフの村落を満喫しようとした第一王女。尊敬する義姉女エルフに釘を刺された彼女は、すごすごと諦めてその場に再び腰を下ろした。


 そんな浮ついたエルフメイトとは対照的に。


「なんとか、いい方法はないか、キングエルフ?」


 中央大陸を救う。

 その使命を帯びている男戦士は幾分冷静であった。


 本来の目的地より大幅に外れて移動してしまった。更に、この地がどこにあるのか、本来の目的地とどれほど離れているのかも分からない。


 中央連邦共和国首都リィンカーンには残して来た仲間たちがいる。

 彼らが万に一つも暗黒大陸勢に後れを取るとは思わない。だが、それでも、消耗戦となれば、いつまでもつか分からない。


 この後れを何とかして取り返さなくてはいけない。

 いつになく男戦士は真剣だった。


 そんな真剣な男戦士の表情に応えるように、エルフキングが真っすぐに彼へとその視線を注ぐ。常に半身になるように角度を保ち、そして、褌をこれでもかと見せつけて来た彼が、初めて正面から男戦士を見ていた。


 そして、一言――。


「方法はある」


「なに?」


に打ち勝つのだ。そうすれば、貴殿らは風の精霊王の力を借りることが出来る。この世の精霊王の中で最も強い――無敵の精霊の力を」


「無敵の」


「精霊王!!」


「だぞ!!」


 無敵の精霊。

 その言葉に色めきたつ男戦士たち。


 だが――。


「……嘘くさぁ」


 ただ一人、女エルフだけが、懐疑的にキングエルフの言葉に白目を向けた。

 無理もない。彼女はさんざん精霊王には痛い目にあわされてきているのだから。

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