第356話 どエルフさんと異変
【前回のあらすじ】
教会本部での出来事、そして、儀式魔法【漢祭】について、連邦騎士団の団長たちに報告する男戦士。
しかしながら、怪しい【教会の闇】の主――オカマ僧侶を信じられないと、不穏な空気が場に流れた。
それを説得するために知り合いであるエロスが熱弁をふるうのだが。
「魔剣エロス……」
「センスゼロ……ポップじゃないわ……」
「胡散臭い……」
剣の名は。
最高に胡散臭い名前をしているせいで、いまいち、騎士団長たちを説得することができないのであった。
「なんじゃー、ワシ戦士技能レベル10の元大英雄だぞー!! 本当だぞー!!」
「エロス駄目だ。こういうのは、言えば言うだけドツボにはまる奴だ」
「なんでじゃー!! ワシ、嘘言っとらんのに!! 本当の本当に、世界を救った英雄やっちゅうねん、みんな知ってるスコ」
「はいはい分かったから。少し黙っててくれ、エロス」
◇ ◇ ◇ ◇
一方その頃。
女エルフたちは連邦騎士団の駐屯所の一つ、第七部隊管轄の応接室で男戦士たちの会議が終わるのを待っているのだった。
しかしながら、その面子はいつもと違う。
「……ほんと信じられない。あの間抜けなオッサンが、カツラギの
「……」
「あり得ないわ!! 最悪だわ!! まだ、ゼクスタント団長の方がマシよ!!」
「……」
そこにはリーナス自由騎士団の少女騎士と白騎士が混ざっていた。
両名、女エルフはもちろん、
ただ、パーティーリーダーのことを悪く言われていい気のする者などいない。
少女騎士が放埓な物言いを重ねるたび、女エルフたちは怒りに拳を震わせた。
「まったく、負けた分際で煩い娘ね」
「まぁまぁモーラさん、あんな小娘に腹を立てても大人気ないだけですよ。三百歳の貫禄を見せつけてあげましょうよ」
「……そうかもしれないけど。それでも、どうなのよアレ」
「だぞ。まぁ、ティトはあんな調子だから、長いこと一緒に居ないと、凄い奴だって分からない部分はあるんだぞ」
「ござる。拙者は一目で分かるでござるよ。ティト殿が達人であることは。やはり相手を認めることができるというのは、自分の腕に余裕がある証拠。まだまだ、あの少女騎士は鍛錬が足りていないみたいでござるな」
「きーこーえーてーるーわーよー!!」
オレンジ色のツインテールを振りまいて、少女騎士が女エルフたちの方を睨む。
まるで、親の仇を見るような視線。女エルフたちは訳もなく身体を震えさせた。
そんな彼女たちを鼻で笑って、紅鎧を身に纏った少女騎士は腰に手を当てる。
「前回は不覚を取ったわ。けどね、あんな魔法もまともに使えない
「――そうなの?」
女エルフが尋ねたのは白騎士の方だ。
少女騎士と違って言葉数が少なく、また、どこか落ち着いた雰囲気のある彼女。
どこか胡散臭い少女騎士と違って、こちらがそう言うなら素直に信じられるかもしれない。そう思って、女エルフは尋ねたのだが――。
白騎士は黙って首を傾げただけだった。
「どっちなのよ」
「ちょっと、なんでロゼに訊くわけ!? 私の話を信用してないってこと!! 腹が立つわねこの年増エルフ!! 本当に決まってるでしょう!!」
「あぁん? 誰が年増だコルァ!! 調子ぶっこいてんじゃねえぞ小娘が!! そんなに魔法に自信があるなら、今ここで魔法勝負してもいいんだぞ!!」
「面白いじゃない――その喧嘩、買ってあげるわ!!」
丁々発止。
簡単に小娘の挑発に乗った女エルフ。
なにやってるんですかと
やめるんだぞ、と、二人の間にワンコ教授が割って入る。
やれやれ、やるでござると、はやし立てるからくり侍。
黙ったままの白騎士。
そんな中、いよいよ二人が魔法を放とうという時――。
「そいつぁ心外だな。俺も魔法の類は使えないが、一応これで、リーナス自由騎士団の名に恥じない働きをさせてもらってるつもりなんだが」
「……カロッヂさん!!」
突然、応接室に闖入者が現れた。
それは髭面の優男。茶色い短髪をぼさぼさと煙たくばらつかせて、浅黒い外套に身を包んでいる。おおよそ騎士とは思えぬ、遊び人、ごろつき、あるいは盗賊というような風体の男だった。
咥え煙草。
火をつけようとして、おっと、と、それをしまう。
視線は彼が語り掛けた少女騎士の方を向いていた。
途端――かぁと、少女騎士の顔がその鎧と同じように赤く染まる。
「カロッヂさん!! やだ!! 見ていたんですか!!」
「うん? あぁ、正確には聞いていたかな。魔法技能のない俺の唯一の取り柄だからな、盗賊技能ってのは――」
「だぞ!! 盗賊!!」
「侵入者!?」
「そんな……どうしましょう!! ティトさんも、ロイドさんも居ないのに!!」
「ここは拙者が時間を稼ぐでござる!! 皆さんは、急ぎ、ティト殿の下に――」
「あぁ、待て待て、待ってくれ」
男が両手を挙げる。
敵意がないという感じに、彼は苦笑いを浮かべると、男戦士パーティを眺めて――おそらくリーダー格であろうと踏んだのだろう――女エルフに顔を向けた。
ちらりと、さりげなく見せた胸元には――羽根のエンブレム。
それは今、彼女たちと一緒に居る少女騎士たちがつけているのと、まったく同じ模様のものであった。
「リーナス自由騎士団、【逃がし屋】カロッヂだ。カツラギに次いで二番乗りってことになるのかな。よろしく、金髪が綺麗なエルフのお嬢さん」
「お嬢、さん……」
ぽっと、女エルフの顔に珍しく朱色が差す。
ヒロインの癖に、あれやこれやと、ヒロインらしくない扱いを、散々に受けて来た彼女である。髭面の男のその賛辞に、ころりとハートを揺さぶられたらしい。
このエルフ、ちょろすぎである。
どエルフの癖に、チョロフである。
どうしようもない。
「ちょっとぉ!! カロッヂさんに色目使わないでよ、この年増!!」
「……はっ!! いけない、私としたことが、ティトのことを忘れて!!」
「なんだ
その言い回しがいちいち格好良くって、また、女エルフがくらりと頭を揺らす。
彼女の頭の中で、男戦士と謎の髭面男が天秤にかけられぐらぐらと揺れていた。
そんな彼女を正気に戻したのは――。
「それより、アンタらにお届けものだ。召集のついでに立ち寄ったんだが、いやはややられたね、まさか、東側から攻めて来るとは予想外だったよ」
「――へ?」
逃がし屋の陰から飛び出して来た人影。
それは、薄緑色のドレスを煤けさせ、泥に塗れた金髪縦ロールを揺らした乙女。
そして女エルフと負けじ劣らじ――見事な貧乳をしていた。
「お姉さまァ!!」
「……エリィ!?」
そう逃がし屋の背中から現れた彼女こそは、女エルフの魂の妹。
そして中央大陸の東の果て。
白百合女王国の第一王女エリザベートであった。
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