第355話 ど男戦士と帰還

【前回のあらすじ】


 ササキエルの街にたどり着き、法王ポープと【教会の闇】に潜みし者――オカマ僧侶から騎士団新設の真意と儀式魔法【漢祭】についての説明を受けた男戦士たち。

 男戦士たちは、聞かされた内容の全てを受け入れると、儀式魔法【漢祭】を執り行うのを承諾し、また、暗黒大陸打倒のため、再び中央大陸連邦首都リィンカーンへと戻ることにしたのだった。


「……なんだ、普通のあらすじも書けるんじゃない」


 最近あらすじ遊びが酷いのでね。

 逆にこっちの方が面白いかと。


「というか、あらすじで遊ぶのがそもそもどうなのよ。真面目にやりなさい!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 三日後。

 中央連邦共和国首都リィンカーン。


 その中央連邦騎士団本部、円卓の間に男戦士の姿はあった。しかしながら、今回は彼だけではない――。


「リーナス自由騎士団、騎士団長代行カツラギです。以後、お見知りおきを」


「おぉ、貴殿があの【軍師】カツラギ!!」


「その声望はかねがね。しかし、まさか、君のような可憐な女性だったなんて」


「……少し驚いたな」


 そう応えたのは、第一部隊団長の老騎士、第二部隊の団長の凶戦士、そして、第三部隊の団長であった。別に女だからと侮っている訳ではない。

 その名声とは裏腹に、実態の分からないリーナス騎士団の団員が登場したことに、素直に戸惑っていたのだ。


 一方――。


「なんだと!? この作品の女騎士枠は私で決まったものだと思っていたのに、ここでまさかの女キャラクター登場!? もしやリストラ……くっ、殺せ!!」


「アレインさま、しっかり!! くっころしてる場合じゃないですよ!!」


 第七部隊の団長にして女騎士は相変わらずの調子であった。


 と、そんな可愛い反応を見せた女騎士に、女軍師は苦笑いを向ける。


「ご心配いりません。私はもっぱら槍働きより影働き――兵站の確保や作戦の立案、調略などの活動が主な仕事ですから。女騎士枠は貴殿にお譲りします」


「おっ、おぉっ!! 本当か!! 助かる!! いやぁ、見た目以上に話の分かる奴だな軍師カツラギ!! 御礼に今度、いざという時に使える効果的な【くっ殺】の仕方についてレクチャーしてやろう!!」


「……あは、あはは。まぁ、それはこの戦いが終わってからということで」


 おほん。と、咳払いする女軍師。

 すぐに彼女が視線を向けたのは、隣に座っている男戦士であった。


 既に、連邦騎士団及び女軍師に対して、男戦士から教会の真意――暗黒大陸の兵に対抗するべく儀式魔法【漢祭】を執り行うことは伝えてある。


「暗黒大陸が攻めて来るより早く、【漢祭】を執り行う益荒男を集めなくてはならないということですね、ティト指導者マスター


「そういうことになる。教会の手を借りて、目下、ビクター、ヨシヲ、ハンスについては捜索中だ。そう遠くないうちに集められるだろう」


 とはいえ、それより早く、暗黒大陸が攻めてこないとも限らない。

 男戦士の目が泳いだのに、その場に集まった一同が顔色を曇らせた。


 最も年長者である老騎士がその顎髭を撫でつける。

 眉間に刻まれた皺をより深めて、彼は溜息を吐き出すように言葉を漏らした。


「他の者では替えが利かないというのが厄介じゃのう」


「そうですね。替われるものなら替わってあげたい所だけれど、御指名とあっては仕方がない」


「……【厨二病の紫褌】については、一応誰でもいいとのことだが」


「ふざけんな!! 誰がそんなお洒落じゃない眼帯も褌も付けるか!! F〇CK!! 冗談もたいがいにしろやこの雄豚おすぶたが!!」


「……お、雄豚おすぶた?」


 それまでのなよなよした言動から豹変して、突然叫んだ凶騎士。

 あらいけないと咄嗟に口元を抑えた彼だったが、男戦士と軍師は、凶戦士の片鱗みたりという感じに押し黙った。


 その狼狽えぶりに、凶戦士の本意はなんとなく透けて見えた。

 まぁ、誰だって、褌なんて装備したくないだろう。


 男戦士もそれについては咎めなかったし、連邦騎士団の団長たちも、何も言うことはなかった。


「むぅ、となると、新しい騎士団を造る必要はないということかのう」


「ティト殿を教会に呼び寄せるためのダシに使われたのはちょっと癪に障りますが。しかしながら、理由を聞いてしまえば納得するしかありませんね」


「問題はその【教会の闇】――クリりんという大僧侶がどこまで信頼できるかだ。土壇場で裏切るということも考えられるんじゃないか?」


「あー、それだけはねぇから安心しろ。あいつはなんていうか、善意の人類代表だ。貧弱で、小心者で、回復以外じゃまるで戦力にならないが、それでも前に立って戦うことを選んだ真の勇者だ。たとえどんなことがあっても、人類に敵対するようなことはねえ」


 ざわり、と、その場に居た騎士団長たちがざわめく。

 突然響いた謎の声に驚いたのだ。


 円卓の間でエロスが喋るのは初めてである。青年騎士と女軍師は知っていたが、連邦騎士団の団長たちは、初めて喋る魔剣の言葉にすっかりと意表を突かれた。


 その驚きを利用する形で、魔剣が続ける――。


「だからまぁ、安心してあいつの言う通りにしていいぞ。というか、そうするしか暗黒大陸に対抗する方法はねえ。魔女ペペロペも魔神シリコーンも、油断してかかれるような相手じゃねえんだ」


「け、剣が喋っておる!!」


「ティ、ティト殿、その剣はいったい」


「インテリジェンスソード!! しかもその粗暴な口ぶりは魔剣の類か!! ティト殿、そのような剣を持つとは、どういう――」


 魔剣の語りはどうも逆効果だったらしい。

 一気に不信感が場を席巻する中――男戦士が神妙な顔で言った。


「皆、この剣が言う通りだ。まずは、【教会の闇】の大僧侶――クリりんのことを信じてやって欲しい。彼は、自分の人生をかけて、この場に挑んだ男なのだ」


「……オカマだけどな」


 せっかく男戦士がフォローしたというのに、エロスが墓穴を掘る。

 オカマ、と、また、騎士団の面々に動揺が走る。


 男戦士が眉間に皺を寄せて――次のフォローの言葉を放つ。


「素性は分からないが、この魔剣はかつて戦士技能レベル10だった大英雄だったものだ。同様に、教会の闇に潜む大僧侶もまた、僧侶技能レベル10の大英雄」


「おぉ、そうなんですか!!」


「なんと!! 死して尚、人類を守ろうと魔剣になるとはまさしく英雄の鑑!! そんな魔剣が太鼓判を押すとなれば信じるほかないのう!!」


「しかして、その剣の名は――!?」


「え?」


 男戦士が口ごもる。

 仕方なかった、だって、剣の名は――。


「え……エロス」


「……エロス?」


「魔剣、エロス、と、言います……」


 とても人前で、堂々と言えるような名前ではなかった。



 ちょっとその剣の言う事を信じてみようかな。

 そんな感じに期待で膨れ上がった円卓の間の空気が、その間抜けな響きに、急激に冷え込んだのが分かった。


 そしてお約束――。


「ブルブル、ワシ、悪い棒じゃないよう」


「……エロス。頼むから少し黙っていてくれないか」

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