第343話 ど男戦士さんと暗黒剣

【前回のあらすじ】


 姿を現した【教会の闇】。それは女修道士シスターたちが予想した通り吸血鬼ヴァンパイアのオカマ僧侶だった。更に驚くべきことに、彼は教会全体を法王ポープを通して裏から牛耳る、とんでもない黒幕であった。


 教会の真実に思いがけず触れて、言葉を失くす男戦士たち。


 どうやら、そのやり取りからして魔剣エロスと旧知の仲らしいオカマ僧侶。

 これまたエロスと同じで、なかなかその真意を掴ませないひょうひょうとした性格の彼に、すっかり翻弄される男戦士たち。

 しかしながら、魔剣エロスの助言もあり――ようやく男戦士はオカマ僧侶に、わざわざ回りくどいことをしてまで自分たちを呼びよせた理由について問うたのだった。


「いろいろと言いたいことはあるが、まずは教えて貰おうか。こうして我々を、教会本部まで呼び出した目的を」


「それはもちろん、エロスと会いたくて会いたくて切なくて」


「ぎゃわーっ、やめいやめい、ウィンクするな!! お前もうほんと、昔からそういう所変わらねえんだから!! 俺はノンケなんだっての!!」


「――というのは半分冗談よぉ。ずばり、貴方たちを呼んだのは他でもない、暗黒大陸の軍団に対抗する、とある作戦――というより儀式のために必要だったからよ」


 はたして、とある作戦――儀式とはなんなのか。

 男戦士たちが怪訝な顔をする中、オカマ僧侶はむふふと不敵に笑うのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「儀式とはいったいなんなのですか?」


「それをするために俺たちの力が必要だというのか?」


 その通りとウィンクして応えるオカマ僧侶。


 彼女――と言っていいのか、悪いのか――は、まぁ入って頂戴と扉の中に男戦士たちを迎え入れた。


 何もない殺風景な地下墓地カタコンベ

 その中央には紅い棺が置かれている。


 青い光に照らされて怪しく輝く棺の上に腰かけた元僧侶は、腕を組むとふふふと意味深な微笑みを男戦士たちに向けた。


 警戒して女エルフが魔法の杖を思わず握りしめた。


「そんなに警戒しなくってもいいわ。セレヴィの娘を取って食ったりしないわよ」


「……っ!!」


「まぁ、私はそもそも女に興味がないんだけれど。って、そうそう、そんな話をするために貴方たちにここに入って貰った訳じゃなかったわね」


 男戦士、女エルフ、そして女修道士シスターとワンコ教授が、オカマ僧侶を前に並ぶ。

 後ろに控えた青年騎士と法王ポープたち。その場を訪れた全員の視線を受けて、オカマ僧侶は何を思ったか少し肩を震わせた。


 恍惚としたその表情は、まるでその刺さるような視線が快感だと言わんばかりだ。


 やれやれこれでは話が進まない。

 そう男戦士たちが思った矢先、口火を切ったのは――。


「ったく、お前は昔っからそうやって人をもったいぶらせやがる。悪い癖だぜ」


「だってだって、じらしてじらして、じらしきってからの方が気持ちいいじゃない」


「いいから要点だけ話せ。俺も剣になってから気が短いんだよ」


 彼と旧知の間柄。

 魔剣エロスであった。


「はいはい……そうねぇ、それじゃぁ、どこから話した方がいいからしら。まずは、200年前の英雄、スコティと暗黒大陸の戦いについてから始めた方がいいかしら」


「――それが今回の件にいったいどういう関係が?」


 思わず口を挟んだのは男戦士だ。

 それを今から説明するんじゃないのと、オカマ僧侶は余裕の対応を取る。


 もうせっかちさんなんだからと呆れた感じで笑う彼女。

 けれどもいい指摘だわと、彼女は男戦士の腰から顔の方に視線を上げた。


「暗黒大陸との戦いは、スコティたちの善戦によって中央大陸の勝利に終わったわ。魔女ペペロペは死亡し――その呪いが籠められた遺物は教会によって厳重に保管されるようになった。と、ここまでは、貴方も知っている歴史よね」


「……あぁ」


「だぞ。教会に関係なく、よく知られている近代史なんだぞ」


「教会は魔女ペペロペの遺物を集めて封印したわ。けれども――迂闊なことに、最も厳重に管理しなくてはいけない暴れん棒を、管理下に置いていなかった。いや、正確には、


養母おかあさんのこと!?」


 声を上げたのは女エルフだ。

 その視線と言葉に、優しくオカマ僧侶は黙って頷く。


 その表情は沈黙を纏った上に暗い。

 まるで女エルフに謝るような塩梅であった。


 しばし間を置いてオカマ僧侶が口を開く――。

 その表情には元の飄々とした感じが戻っていた。


「そうよん。彼女セレヴィならば、ペペロペの呪いを巧く封印することができるだろう。そう、当時の教会は考えていたの。けれども――結果はこの通り。ペペロペは、彼女の身体を乗っ取るに至り、再び暗黒大陸へと渡り暗躍を始めたわ」


 女エルフの表情が翳った。

 自分の悪戯が原因で、養母――セレヴィがペペロペに身体を乗っ取られた。

 その事実を思い出したのだろう。


 複雑な表情をしてしまうのは仕方ない。

 途端に震えだした彼女の手を――それとなく察した男戦士が握った。 

 力強く。それでいて優しく。


「大丈夫だ、モーラさんのせいじゃない」


「……ティト」


「そう、モーラちゃんのせいじゃないわ。ペペロペの呪いは強力なもの。そもそも、ベッドの下なんかに隠して封印している訳がないじゃない」


「……え?」


 自分の犯した過ちを悔いて震えていた女エルフ。

 そんな彼女に突然投げかけられた予想外の擁護の言葉。


 どういうことなのか。

 問い返そうとした女エルフを、けど、それは今差し迫っている危機の本質ではないわとオカマ賢者が梯子を外した。


「ペペロペは考えたわ。今度はもっと戦略的に中央大陸に攻め込もうと。そして、百年の時間をかけて戦力を整えたの。暗黒大陸を統一し、兵の数を集め、そして――」


「そして?」


「暗黒大陸に蔓延る悪霊。それを操る魔剣――暗黒剣ソードムを生み出した。そして、その剣を操る暗黒騎士もね」


「暗黒剣と暗黒騎士……だと!!」


 男戦士の表情が険しく歪む。


 女エルフを握る手に微かにだが余計な力が入った。

 それに気が付いて、女エルフはおもわず男戦士の顔を見る。


 暗黒騎士――シュラト。

 かつて男戦士たちと少女エルフを助けるために共闘した男。

 そして、白百合女王国で暗躍した、ダークエルフの相棒。


 その男のことを彼が考えているのが、なんとなく、相棒の女エルフには分かった。


 確信はない。

 幸運の神もあえてその名を出さなかった。

 暗黒騎士というだけで、彼だという証拠は何もない。


 しかし。


「もしや、いや、まさか――オニーチャンスキー!!」


 運命を感じて、男戦士は思わずそのエルフ名を呟いたのだった。

 とてもとても木っ端ずかしいエルフ名を。


「……なんだろう、締めの大切なシーンのはずなのに、この緊張感の無さは」

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