第342話 どエロスさんと吸血鬼
【前回のあらすじ】
教会が長らく秘匿してきた【教会の闇】。
その中から魔の手が――エロスに伸びる。
「うーん!! 会いたかったよぉ、スコ――いや、エロスぅ!! こんな立派にぶっとい剣になっちゃうなんて!! 残念だけど、まぁ生きてるだけマシだよね!!」
「うぎゃぁーっ!! やめろ!! 離せ、このアホ僧侶!! ひげを擦りつけるな削れるだろうが刀身がぁっ!!」
出て来たのはよく分からないオカマ僧侶。
果たして、彼が【教会の闇】の中に匿われていた人物なのだろうか。
そしてエロスとの関係は。
まぁ、だいたいお察しいただけていると思います。
伏線のはり方が絶妙に下手糞だなと自分でも思いつつも、こういうあからさまに燃える展開は大事ですよね。
さてさてそんなこんなで、謎のオカマ僧侶がここに登場。
今週もどエルフさん始まり始まりでございます。
◇ ◇ ◇ ◇
「んふー、エロス成分がっつり吸収完了よん。お肌にツヤとハリが戻ったような感じだわ。流石は魔剣、エネルギーに満ちているわね」
「……うぅっ、ワシ、汚されてしまった。もう道具屋で売れない身になってしまった。エロスは呪われているってステータス出る感じの奴だこれ」
「んもう、良いじゃない!! 減るもんじゃないんだから!!」
「減るわ!! お前のその濃い顎髭で、じょりじょりジョリジョリとやられるこっちの身にもなってみろよ!! ちょっとティト!! ワシの代わりにコイツぶった斬ってくれない!?」
オカマ僧侶からエロスを返された男戦士。
どうしていいか分からず彼は苦笑いを手の中の愛剣に返した。
怒りを露わにする魔剣と違い、なんの被害も受けていない彼はいたって冷静だ。
今回の一件の黒幕である目の前の――オカマ。
それを斬ってしまっては、せっかくここまで来た意味がない。
まぁまぁ落ち着けと、ぐずる魔剣をなだめすかし、男戦士はエロスを返してくれたオカマ僧侶に視線を投げかけた。
どういう顔をして彼を見ればいいのか。
男戦士が困っていると――。
「うふ」
と、青髭に覆われた僧侶の口元が吊り上がった。
「エロスの持ち主さんねぇ。いやぁん、なんだか融通が利かなさそうな真面目くんだけど、これはこれでいいわね。エロスみたいなやんちゃしてる冒険者も素敵だけれど、騎士も全然守備範囲よ」
「モーラさん!! 火炎魔法を!! コーネリアさんはバリア魔法を展開してくれ!! いくぞエロス!! モンスター退治だ!!」
「おうさ!!」
「おうさじゃないわよ!! なにとち狂ってんのよ、このアホ戦士!!」
ターゲットが魔剣から自分に動いたことに動揺した男戦士。
もはや反射といっていい程の素早さで身構えると彼は剣を抜き放った。
そんな彼の頭頂部をぺしりと女エルフが叩いて止める。
何のためにここまで来たんだと彼女は男戦士に代わってオカマ僧侶の前に出た。
すると――。
「あら、セレヴィの娘ねぇ。お母さんに似て気が強いわね。あぁ、血の繋がりはないんだったっけ」
「
不意打ちで出た女エルフの養母の名。
仕切り直そうとした矢先に、彼女もまた当初の目的を忘れてその目を剥いた。
何故知っているのか。
どうして知っているのか。
いつだったか、幸運の神アリスト・Ⓐ・テレスに問い詰めた時のように、我を忘れた感じにつっかかる女エルフ。
まぁまぁ落ち着いてとそんな彼女をなだめすかせて、オカマ僧侶は笑う。
「昔ちょっとねと、貴方のお母さんとは知り合いだったのよ」
「……知り合い?」
「そう。だから今回の一件についても、責任感じちゃってる訳。なにせ、私がうっかりとしていたせいで、彼女がペペロペに乗っ取られちゃったんだからね」
「というか、貴方はいったい?」
「……そう、私こそは【教会の闇】に住まうもの。聖職者でありながら吸血鬼と化し、永遠の時をこの闇の中で生きてきた大僧侶」
大僧侶。
その言葉に男戦士たちが息を呑む。
平然とした顔をしているのは、彼の存在を知っていた
そんなエロスをちらりと流し見して、オカマ僧侶はそうねと呟いたのだった。
「まぁ、エロスの手前もあるし、詳しい話は時が来たらにしておきましょう」
「え? なに? もったいつけるの?」
「私の事はクリりんとでも呼んでくれればいいわ――。そう、私こそ、英雄の語り手にして、暗黒大陸の真実を見てきた者。そして、この闇の中から
ざわりざわりと、男戦士パーティに動揺が走る。
つまるところこの【教会の闇】こそが、教会の意志そのものということである。
本当なのかと
そんな、と、思わず漏らしたのは――女エルフではなく彼女の姉であった。
あまりに深く、そして衝撃的な【教会の闇】と教会の真実。
異端派として本部と反目していても、その事実は
なまじその秘密に彼女の妹が関係しているだけに。
そんな中――。
「百年前。突然に現れた【教会の闇】。暗黒大陸の真実を見てきた者。クリりん」
ぶつぶつとなにやら思考を繰り広げるのはワンコ教授だ。
オカマ僧侶から小出しにされた情報を整理しているのだろう。
顎に手を当てて、彼女は耳をひくひくと動かすと、地面に視線を這わせた。
「だぞ、もしかして――」
「いやぁん、無粋な詮索はよしてよ。私はただの大僧侶でオカマの吸血鬼。今はただそれだけの存在よん。そうでしょエロス」
「そうだぜ。過去のことをとやかく詮索するのはよそうや。そんなことしても誰も幸せにはなれねえんだしよう。それよりも考えるべきことは他にある」
だろうティト。
魔剣は持ち主の男戦士に問いかけた。
オカマ僧侶の登場以降、すっかりと気圧されていた男戦士。
だが、どうやら持ち前の図太い精神を取り戻したらしい。
あぁ、と頷いて魔剣を握ると、腰に佩いて彼はオカマ僧侶を見た。
険しい表情には様々な感情が籠められていた。
「いろいろと言いたいことはあるが、まずは教えて貰おうか。こうして我々を、教会本部まで呼び出した目的を」
「それはもちろん、エロスと会いたくて会いたくて切なくて」
「ぎゃわーっ、やめいやめい、ウィンクするな!! お前もうほんと、昔からそういう所変わらねえんだから!! 俺はノンケなんだっての!!」
魔剣とオカマ僧侶のやり取りを咳払いで女エルフが咎める。
すると、そうね、真面目にしなくちゃ失礼よねと、オカマ僧侶が優しい顔をした。
「――というのは半分冗談よぉ。ずばり、貴方たちを呼んだのは他でもない、暗黒大陸の軍団に対抗する、とある作戦――というより儀式のために必要だったからなの」
とある作戦。
とある儀式。
男戦士たちが顔を見合わせた。
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