第341話 どエロスさんとテーレッテー♪

【前回のあらすじ】


 プリケツちゃん。


「だからやめい!!」


 シコりん。


「なんで呼んだ!!」


 プリケツシコりん!!

 あるいは、二人は姉妹シコプリ!!


「話の本筋とまったく関係のない上に、多方面に喧嘩を売るような発言やめい!!」


 おモーラさんがそういうなら。


「おい!! 懐かしいネタ引っ張り出してくんな!! というか、そのあだ名、本当に勘弁してくれる!?」


 はい。今週シリアス過多で不足していたどエルフ分の補充完了です。


「補充せんでいいわ!! というか、ちゃんとあらすじ書きなさいよ!!」


 とまぁ、そんな訳で。

 教会が秘匿している謎の存在【教会の闇】。その中に匿われる人物に会うために、男戦士たちは法王の執務室に設けられた隠し部屋から、その【教会の闇】へと向かうのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 階段は急こう配であった。

 教会本部の頂上にある法王の執務室から、垂直落下するような勢いで地下へと続いている。足を滑らせれば大惨事になることだろう。

 加えて、ろくに光の届かない――そんな場所を男戦士たちは慎重に降りて行った。


「随分暗いな」


「本部が秘匿する【教会の闇】は、外からの光が一切入らないよう、地下三階分の深さの位置に造られています。それほど外からの光を警戒をしているのです」


「どうしてそんなのに神経質になるわけ。というか、不便じゃないの」


「……おそらく、そうしないと【教会の闇】の中に匿われている者の身に、大きな負荷がかかってしまうからでしょう」


「コーネリア?」


 教会本部が秘匿している【教会の闇】。そして、その闇の中に匿われているという人物。まるでその正体に気が付いているような口ぶりで、隊列の真ん中を歩く女修道士シスターが呟いた。

 急こう配な階段を下りるのに神経を尖らせなければならず、とてもではないけれど振り返る余裕は彼女たちにはない。だが、その声色から女修道士シスターがいつになく真剣なのは、女エルフたちに伝わって来た。


 身内が絡んでいるからか。それとも、その【教会の闇】の中に潜んでいるものが、そんな声を出さなければならないほどにヤバいものなのか。


 なんにしても、法王ポープが手にするカンテラから出る僅かな光を頼りに、一行はダンジョンに挑むような緊張感と共に階段を下りた。


 くだること数百段。

 階段は唐突に尽きると、人が三人ほど肩を並べることができる少し広い空間に男戦士たちはたどり着いた。


 女エルフが目を凝らすと――紅色をした扉が、階段の正面に見えた。

 しかしその扉は金色の鎖が幾重にも張り巡らされており、とても簡単に中に入れる状態にはなっていなかった。


 匿うというより、やはりこれは――。


「封印じゃない」


「そうですね。確かにそういう側面もあります。なにせ、その衝動は抑えがたいものがありますから」


「なんなの、まったくよく分からないのだけれど。その【教会の闇】の中に匿われている人間っていうのは、何か呪いにでもかかっている訳?」


 たとえば男戦士のような。

 と、言いかけて、女エルフもまた、ある一つの可能性が頭に浮かんで黙り込んだ。


 だぞ、と、相変わらず首を傾げるワンコ教授。

 気づきましたかと女エルフを見据える女修道士シスター


 ワンコ教授に分からずに、女エルフに分かるのは――それが冒険に深く根差したものだからだ。そして、男戦士の身に巣食っている鬼と、本質的に近いものだからだ。


 そう、鬼だ。


「……吸血鬼ヴァンパイア。元人間でも、吸血鬼ヴァンパイア化すれば、不老不死になって生きながらえることができる。そういうことなの、リーケットさん?」


「……私の口から、それを告げるのは憚られます」


 しかし、彼女は法王である。教会がその宿敵と言っていい吸血鬼ヴァンパイアを匿っているなどという指摘をされて、言葉を濁すということ自体がどうにもおかしい。やましいことがないのならば――事実でないならば、毅然と違うと告げるべきだろう。


 そうしないのは女エルフが指摘したことが事実を含んでいるから。


「直接、この【教会の闇】の中の人物に会って話してください。彼も、そして我らが崇める神々も、それを望んでおられます」


 そう言って、法王は紅色の扉の前で手を組むと呪文を唱え始めた。

 まるで砂糖菓子のように、金色をした鎖が彼女の呪文に合わせて砂塵へと変わって行く。おぉと感嘆する男戦士たち一同、その前で、法王ポープはカンテラの火を消した。


 まるで火さえも、その【教会の闇】の中に潜む者には、毒であるとばかりに。


 突然現れた闇の中――ぎぃと重たい音がする。

 扉が内側から開けられようとしている――そんな感じの音だ。


「……ティト」


「……大丈夫だモーラさん。俺と、エロスがついている」


 闇の中で女エルフが男戦士の手を握りしめる。

 その時であった。


「テーレッテー♪ テレレテレレテレレテッテ♪ テッテレテー♪」


「「うひゃぁ!?」」


 突然、赤い光が彼らの間を裂く。

 光は二つ。それは闇の中に潜むモノの瞳から発せられているものだった。かと思えば、ぱっと辺りに青白い光が満ちる。


 光があっては駄目ではなかったのか。

 そんな疑問もそこそこ、赤い目をしたそれは――エロスを男戦士の腰から奪い取り、そして何を思ったか頬ずりを始めたのだった。


 青髭のみっちりと生えた頬を。


「うーん!! 会いたかったよぉ、スコ――いや、エロスぅ!! こんな立派にぶっとい剣になっちゃうなんて!! 残念だけど、まぁ生きてるだけマシだよね!!」


「うぎゃぁーっ!! やめろ!! 離せ、このアホ僧侶!! ひげを擦りつけるな削れるだろうが刀身がぁっ!!」


「あーん冷たい!! 物理的にも態度的にも冷たいんだから!! けど知ってる、それって君なりの不器用な愛情表現なんだよね? だよね?」


「百パーセント混ざり気のない拒絶じゃい!! ティト、はよ助けてくれー!! でないと汚れる!! 精神的にも肉体的にも汚されるぅー!!」


 なんのこっちゃ。

 よく分からないという感じで目を瞬かせる男戦士たち。


 とにもかくにも置いてきぼりな展開のなか、じょりじょりとエロスの刀身が削れる音だけがしばらく辺りに木霊した。


「いやじゃー!! 女の子のぱいぱいすりすりされるなら問題ないけど!! オカマの髭をすりすりされても嬉しくないんじゃー!!」


「まぁ失礼!! 性差別反ぁ対ぃ!! 男が男を好きになって何がいけないの!!」


「けれどもワシにも受け入れる権利があると思うの!! だぁもう、これだから来たくなかったんだよ――助けて、ティト!! モーラちゃん!! ヘルプミー!!」

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