第331話 ど男戦士さんと騎士団精神注入

【前回のあらすじ】


 リーナス自由騎士団の面々との再会を喜ぶ男戦士。

 しかしながら、老人に反発するのは若者の常。

 歳若い少女騎士が、男戦士に向かって喧嘩を吹っ掛けた。


「アンタがカツラギやカロッヂさんの指導者マスターってのは分かったわ。けど、もういいおっさんでしょ。でかい口を叩かないで欲しいのよね」


 繰り出されるのは雷魔法で作り出された二丁の弓。

 魔法騎士の彼女の誘いに乗って、男戦士はエロスを構えて――再び指導者マスターとして、その力をふるうことになるのだった。


「うわぁ、なんか真面目なファンタジー作品みたい」


「モーラさんボケてください。このままだと今週もシリアスで終わっちゃいますよ」


「いや、わざわざボケる必要はなくない。っていうか、アンタがやればいいじゃないのよ」


 色ボケ封印の真剣マジモード。


 けれどもやってくれる。

 モーラさんならきっと、エルフなのにみっともない、アヘ顔ダブルピース――いやそれ以上のキメ顔をしてくれるに違いない。そう作者は信じている。


「しないから!! というか変なハードル上げないで!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 先に仕掛けたのはツェッペリンの方であった。

 彼女はまったく躊躇なく二丁の弓――その山なりとなったサイトを男戦士の方へと向ける。魔法で造られた弓である。ならば矢も魔法だ。矢をつがえる必要もなく、弓の先に青い稲光を無理やり成形したような矢が自然発生した。


 しかもそれらは一つの弓に一本ではない。


「最初から、最大出力でいくわよ!! 後悔しても遅いんだから!!」


 一つの弓につき三本つがえられた矢。

 それらが一気に男戦士に向かって飛ぶ。

 あの娘ったらと、カツラギが頭を抱える前で、四方八方、上下左右と全方位から飛んで来る雷の矢に男戦士は晒されることとなった。


 しかし、ふむとここでも落ち着いて呟く男戦士。

 あまりに淡々としたその態度に、逆に、彼の得物の方が焦った。


「おいおいおい、ティト、ちょっちこれヤバいんじゃないの!? この娘、若いようで結構魔法レベル高いぞ!! 相棒の嬢ちゃんと同じくらいだ!!」


「まぁ、リーナス自由騎士団だからな、それくらいの使い手が居て当然だ」


「なに落ち着いてやがるんだよ!! ったく、どうやって止める気なんだよ!! 四方八方から飛んで来る矢なんて――って、うぉあ!?」


 魔剣エロスが素っ頓狂な声をあげる。気が付くと、稀代の名剣は人の目に留まらぬ速さで四方八方に振り回されると、飛んで来る矢を全て切り裂いた。

 ばちりばちりと、その刀身に青い光が走る。


 続いて、魔剣の叫び声。


「なっ、なっ、なにすんじゃこらぁっ、このアホティトぉっ!! びりびりって、ワシ痺れてちょっと変な気分になっちゃったじゃないか!!」


「ははっ、すまん」


「すまんじゃねぇっ!! お前な、ワシはデリケートな魔剣なんだぞ、避雷針代わりに簡単に使ってくれるんじゃねえ――って、そういうことか」


 そういうことだと男戦士が頷く。

 きょとんとした顔をしたツェッペリンの前で、男戦士が余裕の表情をする。

 そう、男戦士は魔剣エロスを使い、雷を自分の体に当たる前にその刀身に集め、そこから更に柄頭より発散してみせたのだ。


 よーやるわとこれにはエロスが唸る。


「ワシが集めた雷を大気中に発散できなかったら、お前、手が焼ききれてたぞ」


「そこは稀代の名剣、魔剣エロスを信じさせて貰った」


「信頼関係ガッタガッタだっての!! やるならやるでちゃんと言うてからしてくれよ!! ったく、剣使いの荒い奴だぜ、勘弁してくれよな!!」


 ぶつくさと悪態を吐くエロスだが、男戦士の精神を乗っ取ったりはしない。

 盤石の信頼関係である。


 そんな信頼関係は、ぽかんと間延びした少女騎士の心の空白を見事に突いた。


「という訳だ。雷魔法は俺には通じん」


「オラ、お嬢ちゃん!! 人様――じゃない剣様をぶるぶるさせてくれやがって!! 次はてめえが俺様でぶるぶる震えてあひあひ言う番だぜ!!」


 覚悟しやがれと魔剣の雄たけび。

 上段に構えたそれは――男戦士お得意の必殺技バイスラッシュ。しかし、剣は寝かせてその腹が少女騎士の頭上に来るようにしてある。


 一瞬にして間合いを詰められた少女騎士はどうしていいか分からない。

 わっ、ちょっと、と、叫んだ彼女に向かって魔剣エロスが降りかかる。


「天誅!! がはは悪い子にはおしおきじゃ――って、あれ?」


 しかしそれは寸前の所で、何者かの手によって防がれた。


 いや、正確には、何者かの分厚い白いガントレットの腕によって。


 紅い少女騎士の前に立っていたのは、彼女と一緒に居たもう一人の少女。

 被っていたローブを脱ぎ捨てた彼女はしかし、全身を覆う鎧を着けていて、その素顔をうかがい知ることは出来ない。


 しかし、男戦士の渾身の一撃を、両腕を組んで受けてみせたあたり――その技量は少女騎士と同じく間違いのないものだった。


「おう、なんだよ、お前も一緒にまとめてお仕置きされてえのかお嬢ちゃん」


「……これ以上の戦闘は不要よ」


「……なるほど、たしかに君の言う通りだ。これで十分、実力については分かって貰えたかな、ツェッペリン?」


「……なっ、なによ!! まだ私はやれるわよ!! 邪魔しないでよね、ロゼ!!」


 エロスの刃を止めているフルプレートメイルの白騎士。

 命こそ取られなかったが、一本を取られるという所――そこを助けて貰ったのに随分な口ぶりだ。


 しかし、そんな少女騎士に呆れるでもなく。

 また、抗議するでもなく。

 淡々とフルプレートメイルの騎士は、ガントレットで止めたエロスを丁寧に降ろすと、男戦士に向かって頭を下げたのだった。


 決闘の邪魔をして申し訳なかったという感じのその態度。少女騎士よりも、フルプレートメイルの白騎士の礼節ある態度に、男戦士もエロスも感嘆する。


「……これでおしまい。御指南、ありがとうございます、ティト指導者マスター


「う、うむ」


「おほっ、なんだいなんだい、クーデレかい。ワシ、クール系も全然いける口よ。というかツンもヤンもクーも、デレてくれればオールオッケー、そういう剣だからね」


「ちょっとロゼ!! 勝手に話を!!」


「勝手なのはあんたよ!! このおバカ!!」


 魔剣エロスの代わりに、カツラギの拳骨が少女騎士の頭に落ちる。

 雷魔法でも込めたのだろうか。それともよほどその拳が硬いのか。その一撃で、かまびすしかった少女騎士は沈黙し、その場に前のめりに倒れたのだった。


 ふぅと息を吐く男戦士。


「久しぶりの指導というのも疲れるものだな」


「お手数をおかけしますティト指導者マスター


 そう言ってまたカツラギは申し訳なさげにその頭を男戦士に下げた。

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