第330話 ど男戦士さんと蒼弓使い

【前回のあらすじ】


 ササキエルの街へと向かう山道の途中、男戦士たちは山賊に襲われる少女たちと遭遇する。しかしながら、彼女たちはかつて男戦士が所属していたリーナス自由騎士団の騎士たちだった。


「ティト指導者マスター!? どうしてこんな所に!?」


 彼女たちのリーダー格【軍師】を名乗る女魔法使いに敬われる男戦士。

 その様子に、普段――日常パートでは――情けのない彼の姿しかみていない女エルフたちはしばし困惑するのであった。

 そしてエロスは。


「なーなー、ティトよ、お前ってもしかして昔から、この手の押しの強い女に好かれる性質だったりする訳?」


「どうだろう。よく分からんが、カツラギもバトフィルドもそんな感じだ」


「いいな裏山。やっぱり人格乗っ取っちゃおうかな、ツンデレいいよね、ツンデレ」


「渦中の人間はそんないいもんじゃないぞ」


 という感じに、ちょっとテンション高めになるのであった。

 さすがちょい古めの魔剣。ツンデレに反応しますかそうですか。


 というところで、今週もどエルフさん始まりはじまり。


◇ ◇ ◇ ◇


「リーナス自由騎士団ですか!?」


「あの!? あの、超有名な騎士団にティトが所属してたんだぞ!?」


「はい。ティト指導者マスターはリーナス自由騎士団の歴代の戦士の中でも五本の指に入ると言われ、次期団長候補の一角と目されていました」


「よしてくれ昔の話だ」


 てれてれと顔を赤くしてむずがゆっぽく言う男戦士。

 いかにも、褒められて満更でもないという感じだがパーティメンバーの視線は――思った以上に冷たい。

 今までそのことを黙っていたからではない。むしろ、今までの行動がまったくそんな気配を感じさせなかったことから、疑惑の目を向けられているのだ。


 そんな風にパーティメンバーから信用されていないことなど、露とも思ってはいない男戦士は、いやぁと目を伏せて後頭部を掻き毟った。


 するとここで、いつものように女エルフからちゃちゃが入る。


「まぁ、ティトが過去になにやってようが、どういう立場の人間だろうが、そういうのはどうでもいいのよ。過去は過去、今は今なんだから」


「モーラさん」


「……ティト指導官マスター。いい仲間パーティをお持ちなんですね」


「あぁ、俺にはもったいないくらいの相棒だ。玉にどエルフなのが瑕だけれどな」


「なんだ玉にどエルフって」


 べちべちと男戦士を叩く女エルフ。

 その微笑ましい光景に女軍師が口元を抑えて笑う。すぐに、男戦士がおいおいという視線を向けた。すると、彼女はびくりと肩を震わせる。


 溜息を吐き出す男戦士。

 失礼しましたと最敬礼する当たり、どうやら女軍師を指導した頃の彼は相当な鬼教官だったらしい。そして、そんな彼女の態度にまた男戦士が重たい息を吐いた。


「だからそんなにかしこまらなくて大丈夫だ。もう私は、リーナス自由騎士団の騎士、ティトではないのだからな」


「そうですが、いや、しかし」


「お前が立派に指導官マスターになったように、俺もまた冒険者になったのだ。今はただの冒険者ティトに過ぎない」


「まぁ、貴方と違って立派かどうかは分からないけれどね」


 女エルフの合いの手で、またパーティに談笑が起きる。

 今度は女軍師もそのやり取りに素直に混じった。


「ちょーっと待った!! なんで私たちを無視していい感じに話をまとめようとしてるのよ!! ちょっと酷いんじゃないの!!」


 そんな一件落着の雰囲気に水を差したのは、オレンジ髪をした少女騎士だ。

 どうやら彼女はまだティトのことを認めてないらしい。


 頭一個分はある身長差。じろりと下からティトを睨みつけると、憮然とした表情を隠すことなく彼に向ける。こら、やめなさい失礼でしょうと、彼女の指導者である女軍師が言っても、まったくその態度は改まることはなかった。


「アンタがカツラギやカロッヂさんの指導者マスターってのは分かった。けど、もういいおっさんでしょ。でかい口を叩かないで欲しいのよね」


「……お、おっさん」


「こら、ツェッペリン!!」


「弟子の弟子が弟子だと思ったら大間違いよ。本当に、アンタが指導者マスタークラスの騎士だったっていうんなら、その実力を見せてみなさいよ」


 そう言うや、ツェッペリンの両手に半月上の青い光が現れた。弓なりにしなったそれは弦を持たない魔法の弓である。


 魔法弓。

 雷魔法の応用したものだ。

 スタンダートな魔法であり、リーナス自由騎士団では使う者は多い。

 しかしながら、二つ同時に展開するのはそれなりの技量を要する。


 ばちりばちりと激しい音を立ててそれを男戦士に向ける少女騎士。

 まるであんたなんかに負けないとばかりに、鼻を鳴らした彼女に、男戦士は改めてその視線を向けた。


「おう、ティト、ちょっとこの俺様で、そのはねっかえり娘に根性注入してやれ。なんだったら、物理的にでもいいのよ?」


「ふむ。まぁ、物理的というのは置いておくとして――久しぶりに指導してやるのもいいだろう」


「あはっ、そうこなくっちゃ!!」


 少女騎士が笑う。

 よほど自分の魔法の腕に自信があるのか。それとも、男戦士を侮っているのか。彼女の表情にはまったく、戸惑いというものが感じられない。

 そんな彼女を見据えて男戦士がエロスを構える。


 刀身から漏れ出る白くどろりとした気迫オーラ


 それを見た時初めて、少女騎士の表情に翳りができた。


「見たところ魔法騎士と見える。矢をつがえず、魔法弓を両手で展開する技量、その歳にしてはなかなかの使い手だと認めよう」


「おっさんに認められても嬉しくないわ。けど、分かるみたいだから名乗ってあげる――私はリーナス自由騎士団【蒼弓使い】ツェッペリン!! さぁ、蛮勇たちよ、恐怖せぬなら挑み来るがいい!! この両手の魔法弓が、青い雷の矢が、お前たちを刺し貫くわよ!!」


「……しかし、数が多ければどうというものではない」


 男戦士が少女騎士に向かって地を蹴った。

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