第332話 ど男戦士さんとかけ放題

【前回のあらすじ】


 少女騎士に突然喧嘩をふっかけられた男戦士。

 元リーナス自由騎士団の指導者マスターとして、生意気な部下の態度は捨て置けない。ということはなくても、その挑発に一つ稽古をつけてやろうと男戦士は剣を取った。


 果たして、襲い来る雷撃の矢を、魔剣エロスで払いのけ一本取った男戦士。


 未だ劣らぬその剣技。

 圧倒的な実力を見せつけて、決闘は幕を閉じたのだった。


 そう――は閉じたのだった。


「しかしそこを破るのがモーラさん!! だけに!!」


「なんでじゃあい!! 理論の飛躍が大きすぎてついていけへんわぁい!!」


「突いてイケないなんて、そんな、を破ってすぐにこれだなんて。流石ですどエルフさん、さすがです!!」


「あらすじしか色ボケするとこないからって、くだらんことをするな!! あぁもう!!」


 なんか最近、真面目な感じで申し訳ございません。

 皆さんが求めているのはもっとこう、エロバカ&パロだと思いつつも、ここはひとつの話の節目でございます。しばらく、ちょっと真面目な話になりますがご容赦を。


 とか言っといて、唐突にモーラがオホ顔ガニ股スクワットかますんですけどね。


「かまさへんわーいかまさへんわーいかまさへんわーい」


 山奥にどエルフの叫び声が虚しく木霊したのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「すみませんでしたティト指導者マスター。お急ぎの所を私たちの都合で足止めしてしまって」


「いやいい。俺も久しぶりに、若い騎士に稽古をつけることができて楽しかった」


「ワシちょっと欲求不満。もうちょっとビシバシしごいてやりたっかたぞい。せっかく胸はないけど良い尻しとるのに――勿体ない!!」


 こらエロスと、相棒の剣を男戦士がたしなめる。

 師であるティトを尊敬している女軍師だったが、どうにも彼が手にしている魔剣については、そんなものを持っているのかと怪訝な顔をした。


 ほんと、どうしてこんなものを持っているのか。男戦士もこの時ばかりは考えた。


 おおよそ大英雄の持つ剣ではない。

 いや、自分がそのようなたいそれたものではないとは思っている。だが、それでも、かつての自分の弟子に見せるのに躊躇われるものであるのは間違いなかった。


 それはさておき――。


「では、我々はリィンカーンにて先に待機しています。ティト指導者マスター、教会との折衝が無事に終わることを、私も願っています」


「あぁ」


「任せておいて。まぁ、ちゃちゃっと教会なんてしばいて帰って来るんだから」


 そう言ったのはここまで空気だった女エルフ。ふと、そんな彼女の方を向いて、女軍師は複雑そうな笑顔を造った。

 どこか寂し気なその表情に女エルフが気後れする。

 それをフォローするように女軍師は、白い彼女の手を両手で握りしめる。


 思いのほか女エルフの手を握る力は強い。

 【軍師】という肩書だが、彼女もまたリーナス騎士団の騎士だ。

 それなりに筋力・握力があるということだろうか。

 そんなことを思って面食らっている彼女に向かい、真っすぐに視線を浴びせて女軍師は口を開いた。


「どうか、どうかティト指導者マスターをよろしくお願いします」


「え、あぁ、うん。よろしく言われなくても、よろしくするつもりだけれど」


指導者マスターは、全部自分で抱え込んでしまうような所がありますから。またあの時のように、全部自分でしょい込んで――」


「カツラギ」


 それは言わなくていい話だとばかりに、男戦士が重みのある言葉を発した。

 びくりと震えたカツラギの姿に、また女エルフがどうしていいか分からないという表情をする。


 師には逆らうことはできないのだろう。

 カツラギは最後にきつく――その手の骨が砕けるのではないかと思うくらいに――女エルフの手を握りしめると、無言で彼女お顔を見てそれから離れた。


 リーナス騎士団という過去。

 その立ち場を捨てて冒険者となったいきさつ。それら全て、女エルフの知ることのなかった事実である。


 鬼族の呪いの時もそうだった。

 男戦士は、自分たちに迷惑をかけまいと、そんな大切なことをいつも言わない。

 いつもそうして黙って、抱え込んで処理しようとする。


「――ティト」


 男戦士たちに背中を向けて、南の方へと去っていくリーナス騎士団の騎士たち。その背中を眺めながら、ふと、女エルフが口を開いた。

 男戦士からの返答はない。


 けれども、構わず、彼女は続ける。


「迷惑なんて幾らだってかけてくれたっていいのよ。私たちは、相棒パートナーなんだから」


「……モーラさん」


「一人じゃ受け止められないものでも、二人ならばきっと受け止められるわ。そのために、私たち、こうして一緒に旅しているんじゃない」


 そう言って、先ほど強く握られた手で、女エルフは男戦士の手を握る。

 男戦士が自然と向けた視線に、彼女は微笑みを添えて応えた。


 すると、そんな二人の手に、二つの手が更に重なる。


「聞き捨てなりませんね。まるで二人パーティみたいに」


「だぞ、僕たちが居るってことも忘れて貰ったら困るんだぞ」


「コーネリア。ケティ」


 頼もしい仲間たちが男戦士の手を取る。ありがとう、朴訥に言った彼だったが、その表情はいつになく穏やかなものだった。


「しかし、幾らだってかけてくれてもいいだなんて――なかなか出て来る言葉じゃありませんね」


「あぁ、言葉選びのセンスが半端ないな」


「……ちょっと待て。私はそういうつもりじゃ」


「マヨネーズはかけても大丈夫なんだろうか」


「練乳はセーフですかね。牛乳はもちろんありでしょう。けれどもやはり」


「はいはいはい、ストップストップ!! かけていいのは迷惑だけ!! 他の余計な物はかけんでよろしい!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る