第329話 ど男戦士さんとど女軍師

【前回のあらすじ】


 教会本部のある【ササキエルの街】へと向かう山道の途中、聞こえて来た女性の悲鳴に急ぎ駆け付ける男戦士。


 バイスラッシュ、バイスラッシュ、バイスラッシュ!!

 相変わらずのテキトーな必殺技で、盗賊を真っ二つ、男戦士が見事に討ち果たす。


 しかし――。


「ちょっ、ちょっとぉっ!! なんてことをしてくれるのよ!! せっかくこっちが段取りしてたのに、全部パァじゃない!!」


 助けたはずの女性が突っかかってくる。

 そう、何を隠そう彼女こそは、この大陸最強の騎士団――リーナス自由騎士団に所属する少女騎士だったのだ。

 ただ、不幸なことにその突っかかった相手は、その騎士団のOBだったが


「どうするティト上、処す、処す?」


「うーん、どうするかなぁ?」


 元リーナス自由騎士団の指導者マスターである男戦士が言葉を失っていると、ようやく両陣営の後衛が、戦闘の場に駆け付けたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「なによカツラギ!! 作戦を邪魔されたのよ、ここは怒って当然じゃない!!」


「リーナス自由騎士団の戒律を忘れたの。常に謙虚に、そして、人にやさしくあれ」


「……それは」


「功を焦り過ぎよ。ゲトくんと張り合う気持ちも分かるけれど、冒険者相手に威張った所でリーナス自由騎士団の名が泣くわ」


 もうちょっと考えなさいと嗜めたのは大人な感じの女性魔法使い。

 これまた深紅のローブを纏った彼女は、オレンジ髪の少女騎士の頭を叩くと、反省しなさいと保護者然とした口ぶりで言い放った。


 ぶぅと頬をむくれさせる少女騎士。


「カロッヂさんなら、絶対によく言ったって褒めてくれるのに」


「あんなテキトー男の言う事なんて間に受けちゃダメよ」


「……ふん!!」


 気に入らないと言う感じにそっぽを向いた少女騎士。そんな彼女に代わって、どうもすみませんねと、女魔法使いが頭を下げようとした時だ。


「そうか。カロッヂの逃げ癖はまだ直っていないのか。しょうのない奴だな」


 男戦士が懐かしそうな口ぶりで声を発した。

 それと同時に、女魔法使いの顔つきが変わる。


「ティト指導者マスター!? どうしてこんな所に!?」


「久しぶりだなカツラギ。今はお前が指導者マスターか。問題児だったお前が、立派になったものだな」


 え、知り合いなのと、目を丸くする少女騎士。

 先ほどまで彼女を優しくたしなめていた女魔法使いは、すぐさま、その場で最敬礼をすると、男戦士に向かって頭を下げた。


 あらあらと、女エルフと女修道士シスターが口元を抑える。

 何事でしょうかと困惑する二人を背中に、男戦士は苦笑いを口から漏らした。


「よしてくれカツラギ。今はもう、私は騎士団を抜けた身だ」


「いえ、そんな!! ティト指導者マスターはリーナス騎士団を抜けられても、私たちの師に代わりはないといいますか――というか、私の弟子がとんだ失礼を!!」


「なに気にするな。お前も昔はこんなだったではないか」


 声にならない声を発して顔を赤める女魔術師。

 そんな顔をするんだと、少女騎士が隣で目を丸める。


 そんな中、女魔術師は頭に被っていたリーナス騎士団のエンブレムが入った帽子を脱ぐと脇に抱えた。


 男戦士も含め、彼の周りに居る人たちに向かい、彼女は改まって自己紹介をする。


「リーナス騎士団指導者マスターにして【軍師】カツラギです。ティト指導者マスターには、若い頃に色々と薫陶を受けました。以後、お見知りおきを」


「あぁ、はい」


「どうも」


「だぞ……」


 男戦士に薫陶を受けた人間なんているのか。

 というか、リーナス騎士団の話なんて知らなかった女エルフたちは、どう反応していいか困った感じに固まった。


 自分の身の上について話していないのかと、カツラギの視線が男戦士に行く。

 それを笑って誤魔化して、彼は表情を真面目なものに変えた。


「連邦共和国の首都に向かう道を歩いていたということは……ハンスとヤミから連絡は行ったようだな」


「はい。ゼクスタント団長が彼らから事情を聞いて、騎士団メンバーの方に通達が行きました。一旦、中央連邦共和国首都にて参集の予定です」


「……そうか。ゼクスタントが」


「団長は少し遅れるそうですが、決戦までには必ず赴くと言っていました。【逃がし屋】カロッヂ、【魔脳使い】バトフィルドも別の任務の途中でしたが、要請に応えてすぐにかけつけると言ってくれています」


「ありがたい限りだ」


「ティト指導者マスターに受けた恩を考えれば当然です。貴方の指導のおかげで、今の私たちがあるのですから――ただ、【冬将軍】については、老齢のため、策だけを私に託して待機すると」


「まぁ【冬将軍】どのは仕方あるまい。策を授けてくれただけ助かるというものだ」


 ちんぷんかんぷんという感じに頭を捻る女エルフ。

 すぐに、彼女がそんな顔をしているのに気が付いた男戦士は、ははっと申し訳なさそうに笑う。


「すまない。なんのことだかさっぱりだろう」


「えぇ、あぁ、うん」


「気にしなくていいことだ、忘れてくれ」


「ちょっとなにその言い草!! アンタね、秘密主義も大概にしなさいよ!!」


 すると突然に女エルフが声を荒げた。

 蚊帳の外が気に入らないのか、それとも、他の女と親し気に話しているのか気に入らないのか。とにかく、彼女は男戦士に詰め寄ると、これがどういうことなのか、いつになくしつこく食い下がって聞き出したのだった。


 げんなりとした顔をして首を揺さぶられる男戦士。


「なーなー、ティトよ、お前ってもしかして昔から、この手の押しの強い女に好かれる性質だったりする訳?」


「あー、どうだろう。よく分からんが、カツラギもバトフィルドもそんな感じだ」


「いいな裏山。やっぱり人格乗っ取っちゃおうかな、ツンデレいいよね、ツンデレ」


「渦中の人間はそんないいもんじゃないぞ」


「こらっ!! 真面目に聞いてるのティト!! こっち見なさい!!」


 とまぁそんな感じで、今日に限っては女エルフが珍しく(?)、男戦士を強気に叱りつけるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る