第328話 ど男戦士さんとどツインテールさん

【前回のあらすじ】


 冒険ファンタジーのお約束。

 山道を歩いていたら山賊に襲われ――る前に、いち早く剣を抜いてそれを斬り倒したからくり侍。ほめてほめてと男戦士に期待の視線を向けるのだが、男戦士は倒し方が雑と、ざっくりと切り捨てるのであった。


 とほほと肩をからくり侍が落としたのも束の間。


「きゃあぁあぁあぁあぁ!!!!」


 馴染みのない女性の声が辺りに響き渡る。

 どういう次第かは分からないが、助けに行かない訳にはならない。男戦士とからくり侍、そして青年騎士は駆け出したのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 目に見える範囲に、悲鳴を上げた女性の姿は確認できなかった。

 いったいどこにそれは居るのか。

 からくり侍がこさえた死体の山を飛び越えて、男戦士たちは道を進む。


 すると再び現れる曲がり角。

 そこには――。


「ふへへっ!! 命が惜しけりゃ大人しくしなお嬢ちゃんたち!!」


「こんな山道を、女二人でお出かけとは不用心だねぇ」


「おじちゃんたち山籠もりでご無沙汰なんだ、ちょっと遊ぼうや」


 前方に展開しているのは、からくり侍が斬り殺したのとそう変わらない装備の男たちの姿。おそらく、彼らの仲間だろう。


 中央連邦共和国側からと、小国群側からと、両方から来る旅人に対して山賊たちは強請りをかけていたということらしい。偶然にも、【ササキエルの街】の方からやって来る人と鉢合わせてしまったみたいだ。


 なんにしてもこのまま捨て置いていい状況ではない。

 幸いなことに、山賊たちは後ろから近づく男戦士たちに気が付いていなかった。


「センリ!! 手本を見せてやろう!!」


 男戦士は腰から魔剣エロスを抜くと、雄たけびと共に上段に構えた。

 そして裂帛の雄たけびと共に山賊たちに斬りかかった。


「バイスラッシュ!! バイスラッシュ!! もう一つバイスラッシュ!!」


 いつものアレ唐竹割である。

 まったく参考にならない必殺技連撃。かと思いきや、男戦士が斬った敵たちは、血を噴き出さずにその場に倒れて行く。


 あまりに素早いその斬撃に、血を噴き出すより早く刀身が肉を抜けたのだ。


 まさしく絶技。

 男戦士かつ、魔剣エロスだからこそできる業だった。

 なので反則とも言えなくはないが――。


「流石、ティトどの、凄いでござる!!」


「刺突と断ち斬ることが目的の西洋剣でよくぞというもの。やはり只者ではない」


 と、彼を信奉する者たちからは絶賛の声が上がった。

 瞬く間に、崖に展開していた盗賊たちを切り捨てた男戦士。半分にぱっくりと割れたそれを、足で崖下へと蹴り落として処分すると、ふぅと彼は息を吐いた。

 場に残ったのは、水たまりと見分けのつかないちょっとした血だまりだけである。


 これから追って来るであろう、女エルフたちを配慮したその戦いぶり。

 上々じゃねえのと魔剣もその結果に太鼓判を押した。


 しかし――。


「ちょっ、ちょっとぉっ!! なんてことをしてくれるのよ!! せっかくこっちが段取りしてたのに、全部パァじゃない!!」


「――え?」

 

 助けられたはずの女性が突然声を上げた。

 茶色い麻のローブで顔と体を隠した彼女は、男戦士に詰め寄ると、指先を突き出してつっかかってくる。ローブの中から伸びて来たそれには、赤いガントレットが嵌っている。


 同業者――冒険者――かと、男戦士が顔をしかめた時、風にそのローブが揺れて彼女の顔が明らかになった。オレンジ色の髪をツインテールにした、少女とも、女とも言えない微妙な年ごろの彼女は、眉間に皺を寄せて男戦士を罵る。


「山賊がたびたび出て難儀しているからって、【ササキエルの街】で依頼を受けたのよ!! せっかくカツラギの立てた作戦で、一網打尽にするつもりだったのに、余計なことしないでくれる!!」


「あ、いや、すまん」


「ホント馬鹿じゃないの!! この峠には、向こう側――中央大陸から来る人たちを襲う山賊が居るのよ!! そいつらもおびき寄せるつもりだったのに!! もう、アンタのせいで滅茶苦茶よ!! どうしてくれるのよ!! 知力あるの!!」


 あります。

 1ですけど。

 オレンジ髪の少女にまくしたてるようになじられた男戦士。すっかり意気消沈した彼に向かって、ダメ押しとばかりに――。


「まったく、戦いの遠望深慮ってのができないトーシローはこれだから困るわ。ホント、冒険者なんて馬鹿ばっか――」


 あんまりな言葉を投げかけたのだった。

 少女故の放埓さと言えばいいのか、それとも、あまりに辛辣といえばいいのか。


 なんにしても、男戦士はがっくりと肩を落とした。


 と、その代わりに。


「それは聞き捨てなりません!! ティトさんに失礼です!!」


「そうでござる!! それに、心配しなくても向こうの山賊は既に討伐済み!! むしろ、このような策を弄しなければ、戦えぬとは情けないのはそちらでござる!!」


 彼の信奉者であるロイドとセンリが食って掛かった。

 なんですってと睨みあう少女騎士と青年騎士&からくり侍。

 どうしたものかと、この言い争いの渦中の人間であるにも関わらず、おろおろとするだけの男戦士。


 するとその時――。


「へぇ、に盾突こうなんて、なかなかいい根性してるじゃない」


「ござる?」


「なんだと?」


「私たちが誰だか知ってて、その発言はしてるのよね。この紋章を見て、アンタたちさっきと同じ言葉が吐けるなら吐いてみなさいよ」


 そう言って少女騎士が纏っていた外套を脱ぎ捨てた。

 果たして、現れたのは深紅の鎧。その中央には、白い羽の紋章が描かれていた。


 途端戦慄する青年騎士とからくり侍。

 それはこの大陸最強――この地の自由と平和を守護する騎士たちが使うエンブレムだったからだ。


 故に。


「ん、リーナス騎士団の者か」


「おっほー、気の強い後輩ちゃんじゃん。ティトよ、こういうのを言いくるめて食っちゃう展開、ワシ結構好きなんだけど、どうかな?」


 その騎士団出身である男戦士には、別段、驚きのないのであった。

 なんというか、珍しいもの見たという感じに、胸を張る少女騎士を眺めている。


 そんな様子に、オレンジ髪の少女騎士が狼狽える。


「ちょっ、ちょっと、少しは驚きなさいよ!! リーナス騎士団よ!! 大陸最強の自由騎士なのよ!!」


「――いやぁ」


「どうするティトくん。ワシ、こういうのを問答無用でお灸をすえてあげる展開も好きなんだけど。というか、ツンツン具合がさっきからたまらんくてのう、うへうへ」


「こっちの話を聞きなさいよ、バカぁ!!」


 崖に絶叫が木霊する。

 するとその時。


「やめなさいツェッペリン!!」


「ティト、大丈夫!?」


 両陣営、遅れて来た後衛がその場に合流したのだった。

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