第300話 ど戦士さんと二つ名
【前回のあらすじ】
戦士技能レベルが最高位の8にまであがったことで、所属している冒険者ギルドから歓待を受ける男戦士。
しかしながら、菓子折りを持ってくると言って、冒険者ギルドの経営者が連れて来たのは、予期せぬ二人の訪問者であった。
一人は、男戦士もよく知っている男。
拠点の街を取り仕切っているリーダー格、ギルドマスターこと、道具屋の店主。
そしてもう一人は――。
「貴殿が、【千鬼殺し】のティトか?」
いかにも主人公でございという顔つきの、美青年の騎士であった。
果たして、彼の素性はなんなのか。
そして、今週も相変わらずボケがすくないけど、いいのか、どエルフさん。
この小説には、エロバカネタが期待されているのではないのか、どエルフさん。
そんなことを思いながらも、シリアスパートが一度始まってしまえば、止めるのは難しいんだぞ、どエルフさん。
という感じで、今日もどエルフさんはじまります。
◇ ◇ ◇ ◇
【千鬼殺し】。
あまりに不穏当なその言葉の響きに、店主も、そして、冒険者ギルドの経営者も、ぎょっとして目を剥いた。
もちろん、その驚きは、彼の肩書に向けられてものではない。
「おい!! 若造!! そうほいほい口にするようなもんじゃねえ!! てめぇ、調子にのってるんじゃねえぞ!!」
「そうだ!! ティトくんのその二つ名については触れないのがここの
冒険者ギルドの経営者はもちろん、馴染みの店主も、男戦士の事情は充分に知っていた。その上で、青年騎士が
これは失礼とは言ったが、まったく失礼に思っていないのが伝わってくる、どうにも慇懃無礼な態度。騎士の形ばかりの謝罪に、憤りの息が場に満ちた。
すぐに彼は男戦士の正面にあるソファに腰かける。
それから値踏みするように、男戦士のつま先から頭のてっぺんまでを、嘗め回すように眺めたのだった。
ふむ。
と、ひとしきり眺め終えて、青年騎士が嘆息する。
「噂に、千の鬼を屠った伝説の男と聞いていたが、とてもそうは思えないな。戦士技能レベルが8もあるとのことだが、そうとも思えない」
「うん? まぁ、そうだな。ちゃんと鑑定士にレベルを見て貰ったわけではないから、それについては、俺も疑問に思っている所だ」
「……ならば、一つ、お手合わせ願おうか。貴殿の実力を確かめないうちに、事を話すのは気が引ける」
「いや、その必要はないだろう」
――キン。
唐突に金属が弾ける音がした。
なんだと思った次の瞬間には、青年騎士が身に着けていたプレートメイル――その留め具が割れて、彼の膝の上に落下していた。
カンとまた高い音を立てて、鋼の腿当ての上を跳ねた留め具。
すぐさま、青年騎士の左肩に載っていた丸みを帯びた肩当てが、重力によって自然落下した。あわててそれを青年騎士は手で受けとめる。
「これは……!?」
「ふむ。随分と鎧の手入れがおざなりだな。装備品の摩耗については、日ごろからよくチェックしておくべきだ。これがもし戦場であったなら、お前はその使い物にならない左腕を引きずって戦わなくてはならないことになる」
「いったい、何をした!?」
「別に。ただ、鎧の弱っていた場所に少し力を籠めてみただけだ」
そうなんでもない口ぶりで言う男戦士。
だが、彼が使ったその技こそは、対人戦闘用のスキル【鎧破壊】であった。
【スキル 鎧破壊: 戦士技能レベル5以上で習得可能な戦闘スキル。鎧の脆い部分を瞬時に判断し、破壊するという単純なもの。しかしながら、使い物にならなくなった鎧を引きずっての戦闘継続は難しく、相手に与えるダメージは大きい。また、実際にスキルを利用するには、高度な戦闘の経験と確かな腕が必要になってくる。なお、姫騎士を捕らえて、「くっ、殺せ」、というシチュエーションになった際などに使うと、非常に絵になるスキルであることから、女戦士・姫騎士からの評判はすこぶる悪い。持っているだけで、「貴方って、最低のクズだわ」と罵られることがある、諸刃のスキルである】
このスキルについて知っていないということ。
それは、すなわち、青年騎士の戦士技能レベルが、その程度であるという証左に他ならない。
仮にも、対人戦闘を目的としている騎士だ。
習得は別として、その肝心かなめとなる技能について知っていない。
それを知るまでの技能レベルに達していない。
それが公然と晒された格好である。
己の技能の未熟さ、そして、目の前の男戦士の確かな技能を見抜けなかったことへの恥ずかしさ。青年騎士の膝は即座に震えることとなった。
その顔色は、複雑怪奇に、紅くなったり青くなったりを繰り返す。
そんな彼に、優しく男戦士は声をかけた。
「なに。君は見たところまだ若い。それに、このような技術は、君のような華のある騎士には不要のスキルだ。別に気にすることはない」
「……確かに、【千鬼殺し】の二つ名は伊達ではないようだな」
「そんなことはない。それに、その二つ名は間違っている――」
「なに?」
「俺は、千も鬼を殺してなんかいやしない、ということさ。そう、俺の二つ名は、エルフ・パイ・メチャデッカー、それだけだ」
そう言った、男戦士の顔はどこか寂しげだった。
しかし、そんな彼を見つめる、青年騎士、そして、ギルドの経営者の視線は――。
とても冷ややかだった。
「格好のつけかた、まちがってるんじゃねーの」
とは、魔剣から直接語り掛けられた心の声。
シリアスモードの只中でありながら、つい、男戦士も、魔剣も、言わずにはいられなかったようだった。
こんな時でも、流石だなど男戦士さん、さすがだ。
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