第299話 ど戦士さんと一方その頃
【前回のあらすじ】
謎のからくり侍にからまれる女オーク。
そんな彼女を助けに入った女エルフたちであったが、些細なことからその因縁が女エルフの方へと向いてしまう。
「ほう、両刀使い? 貴様、刀を使うのか」
いつものどエルフトークを、真面目にとらえて解釈してきたからくり侍。
はたして、このからくり侍が正常なのか、それとも、いつものどエルフ次元が異常すぎるのが。なんにしても空気の読めない相手に、刀の切先を突き付けられた女エルフは、その場に動けなくなってしまったのだった。
という所で、タイトルの通り、今回は一方その頃に移ります。
「ちょっと、こんなところで生殺し!?」
◇ ◇ ◇ ◇
女エルフたちが、花屋の店先でいろいろと繰り広げている一方。
彼女たちのリーダーである男戦士はといえば、所属している冒険者ギルドの奥にある来賓室に招かれ、手厚い歓待を受けていた。
というのも他ならない。
彼の戦士技能レベルが、事実上の最高値であるレベル8に達したからだ。
「とにかく、正式な鑑定を受けてからになるが――ティトくん、これからも我が冒険者ギルドの顔として、バンバン依頼をこなしてくれるのを期待しているよ」
「は、はぁ……」
「そうだ、たしか得意先から貰った菓子折りがあったはずだ。せっかくだから持って行くといい。というか持って行ってくれたまえ!! わははは!! なんといってもうちの看板戦士だからな、ティトくんは!!」
上機嫌に笑って、男戦士の握った手を振り回すギルドの経営者。
いかにも荒くれもの。自身も元冒険者という感じの彼は、ひとしきり満足するまでそれを繰り返すと、思い出したかのように菓子折りのことを口にして、来賓室からあわてて駆け出して行った。
一人、来賓室のソファーに取り残された男戦士。
どたどたと出て行ったギルドの経営者の背中を見送って彼は、ふぅ、と、溜息を吐き出した。
慣れない扱いに、いささか、困惑しているという感じである。
そんな彼に声をかけたのは――。
「ほーん、ここの冒険者ギルドは、技能持ちに優しいんだな。羨ましいぜ」
腰に佩いている魔剣であった。
冒険者ギルドの顔役が居なくなったのを見計らい――魔剣だと知られると厄介なことになりそうなので黙っていた――声を出した彼に、すぐ男戦士は視線を向ける。
「そうなのかエロス?」
「俺様が魔剣になる前――まだ普通に戦士だった頃の話だがな。戦士技能レベル10になったってのに厄介者扱いよ。お前みたいなバケモノはいらんってさ」
それは随分と男戦士とは温度差のある対応である。
自分よりも技量が上であるレベル10の戦士が、どうしてそんな不遇を被らなければならなかったのか。何か理由はあるのだろうが、それにしてもあまりに理不尽。少し物悲しい気持ちになるのは仕方なかった。
何事も、行き過ぎれば厄介なことになる。
世の常と言ってしまえばそれだけのこと。
だが、力を頼みとし、その技量で物事を解決するのが冒険者稼業。
それを極め果てた結果が、そのような扱いとは。
いささか、男戦士の心境は複雑だった。
もちろん、それを語った魔剣の方も、それは同じ。
「そん時はよう、腹立ったから、ギルドぶっ潰して、二度と活動できないようにしてやったよ。それでまぁ金はあったから、自由気ままな放浪の旅に出たんだがよぉ……あぁ、思い出しただけでちょっとイラついてきちまったぜ」
「エロス、お前もいろいろ大変だったんだな」
「あげく最後にゃ魔剣になっちまうしな。とほほほ、踏んだり蹴ったりだぜ」
「まぁ、そういう人生もあるさ」
「どういう人生だよ。ティトよ、俺の代わりに泣いてくれたっていいんだぜ。ていうか泣きたい。俺様、なんでこんなにつらい目に合わなくちゃならんのよ。信じられんくない。なんも悪いことしとらんのにさぁ、しくしく」
鞘から漆黒のオーラを放ち、さめざめと泣く魔剣エロス。
まぁまぁ、と、それを男戦士はさすってなだめた。
何も悪いことをしていないのに、どうしてこんな目に遭わなくててはいけないのか。はたして魔剣がどのような目に遭ったのか、何故、そこまで嘆くのかは知らぬ。
しかしながら、己の信じた道の果てに待っていたのが迫害であったというのは、至極まっとう、嘆くに値する理由だと男戦士は心から感じた。
「……人間も、魔剣も、思うようには生きられないものだな」
「……あぁ、すまねぇ、ティト。お前も辛い立場だったな」
「いや、いいんだ。エロス。お前と比べれば、俺が置かれている立場など、たいしたことではない」
「けれどもよぉ」
「こうして厚くもてなされて、帰りに菓子折りまで持ってきてもらえるんだぞ。充分、恵まれているではないか――」
たとえ冒険者という、不安定な稼業であっても、自分には過ぎたものだ。
そう言い切る男戦士の口ぶりに迷いはなかった。
そんな男戦士の姿を見て、魔剣はただ、黙り込んだ。
彼もまた自らの境遇を受け入れたように、男戦士がその境遇を受け入れているのであれば、何も口を挟むようなことはない。
いや、口を挟むようなことは出来ない。
そう魔剣は思ったのだ。
「ほんと、不器用な奴だなお前は」
「そうでもないさ。不器用だったら、戦士技能レベル8になんてなったりしない」
「そういう所だよ。まったく、だから放っておけねえ」
お前の愛剣になって悪くなかったかなと、今思ったぜ。
悪戯っぽくそう魔剣が告げた時だ――。
「いや、すまない、お待たせしてしまった」
そう言って、冒険者ギルドの経営者が戻って来た。
しかし、彼は手に菓子折りを持ってはいなかった。
その代わりに――。
「店主?」
「ようティト。今日はエルフメイトでもなく、馴染みの店の店主でもなく、ギルドマスター兼お前の後見人として、会いに来たぜ」
「うむ? まぁ、うん、それは構わないが――そのもう一人の男は?」
金色の髪に緑色の瞳。
まるで物語の主人公にもってこいというような端正な顔つきの美青年。
よく磨き上げられた鋼の鎧を身に着けた男が、店主の横には立っている。
まさしく騎士の中の騎士。
主人公の中の主人公。
そんな感じのその青年は、この人がそうですか、と、男戦士を真っすぐ見据えながら、店主と冒険者ギルドの経営者に尋ねた。
どうやらキナ臭くなってきたな。
そう心の声で魔剣が男戦士に語り掛ける。
あぁ、と、答える代わりに、男戦士はその柄頭を静かに撫で上げた。
「貴殿が、【千鬼殺し】のティトか?」
そう問う青年騎士の視線は、刺すように鋭かった。
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