第296話 どエルフさんと恋のクピド

【前回のあらすじ】


 デビルマ〇パロって、だいぶ前にもやったような。


「あらすじは自問自答する場所じゃないでしょ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 小洒落たカフェへと入った女エルフと女修道士シスター

 そんな彼女たちが、通りを挟んで向こう側に見つけたのは、いつぞや世話をしてやったインテリジェントオークの男。

 そして、彼が想いを寄せているハーフオークの乙女だった。


 一緒に食事をする仲、ということは、悪い仲ではないように思う。

 しかしながら、どうにもそっけのない二人のやりとりに、やきもきとした気分に女二人は陥ってしまうのであった。


 この手の話は、いくつになっても気になるのが女というものである。


「あぁもう、なにやってるのよ!! もっと積極的に押していきなさいよ!!」


「女性はちょっと強引なくらいの方が、気にかけて貰ってる感があっていいんですよ!! こうして食事を一緒にしているんだから、あと一押しじゃないですか!! 何を尻込みしているんですか、パドンさん!!」


「これだからオークはダメなのよ!! 頭の中まで筋肉でできているんだから!! ちょっとは女心って奴を考えなさいよね!!」


「まったくです!! パドンさん、男なら、もっとしっかりとしてください!!」


 言いたい放題である。


 ふと見ればカフェの店員が彼女たちの横に立ち食事を運んできている。

 だが、女エルフたちのあまりの剣幕に、声をかけて良いのか、どうしていいのか、戸惑っているという有様であった。


 そんなこんなとしているうちに、ご飯を食べ終えた女オーク。

 彼女は用事は済んだとばかりに立ち上がる。

 そして、お代をその場においてさっさと何処かへと消えてしまった。


 ぶっきらぼうにしてもあんまりな仕打ちだ。

 がっくりと男オークが肩を落としたのも仕方がない。

 それに合わせて、女エルフたちもがっくりと肩を落としたのだった。


「……こりゃダメだわ」


「……どうやら、こっちの冒険もパドンさんには手助けが必要なみたいですね」


 もちろん、肩と一緒に声のトーンも落ちていた。


 瞳を交わして意思疎通する女エルフと女修道士シスター


 ここぞとばかりに声をかけた店員だったが。

 これ、と、言って銀貨を三枚渡すと、彼女たちはカフェテラスから直接柵を飛び越えて、意気消沈する男オークの下へと向かった。


◇ ◇ ◇ ◇


「いやぁ。最近はこうして食事に付き合ってくれるようになっただけでもいいもんで、前は取りつくしまもなかったんだべ」


「なるほど、進歩してこれか」


「まだまだ道は厳しそうですね、この様子では」


 大衆食堂のカフェテラス。

 お昼時を過ぎてぼちぼちと人がまばらになってきたそこに、残っているのは女エルフたちと男オークだけであった。


 はぁ、と、深いため息を吐き出して、いじいじと机の上に円を描く男オーク。

 その肩を慰めるように優しく女修道士シスターが叩いた。


 彼の語った最近の女オークとのやりとり。

 それは――まぁ、聞いててもどかしいものだった。


 よほど戦場暮らしが長かったのか。

 それとも、その手の話が苦手なのか。

 色々と男オークも、考えうる限りのアプローチをかけてみたが、女オークはまったくと言っていいほど、男オークの好意に応えてくれない。

 どころか、気づいてくれる素振りもなかったそうだ。


 それでもなんとかこうして昼飯を一緒に食べる所まで、持ってくることができたはいいが。当人がこれを、好意によるものと認識していないのではどうしようもない。


「もっとはっきり、直接的な言葉で迫るべきなのよ」


「そうです。好きなら好きと、はっきりと言ってみるのが男というものです。パドンさん、貴方はオークである前に、男なのでしょう。だったらはっきりとしなさい」


「……んだどもぉ、オラ、恥ずかしいだぁ」


 とまぁ、この調子である。

 元から少しなよなよとした所があるというのは、女エルフをはじめ、彼を助けた男戦士パーティ一行が把握していたことだ。

 だが、見事なまでの草食系オークぶりに、思わず辟易とする。


 あれだけたっぷり肉は食うのに、女性に対して奥手過ぎるだろう。

 赤らんだ顔を両手で抑えて首を振る男オーク。


 その素振りに、いらり、と、女エルフも女修道士シスターも眉を吊り上げていた。


 まぁ、怒ったところで問題がただちに解決する訳ではない。

 問題は何も男オーク側だけにある訳ではないのだ。

 女オークの方も、これだけアプローチをかけられているのだから、少しくらいは気がついてくれたっていいだろう。


 うぅん、と、ここで女エルフが低く唸る。


「何かこう一押し、二人の仲を発展させるような、何かが必要だわね、これは」


「けれどもそんな都合のいいイベント、そうそう起こるものでもないですよ」


「起らぬのならば、起こせばいいのよ、コーネリア」


 と、不敵に笑う女エルフ。

 彼女がそんな風に笑うのはダンジョン外で見たことがない女修道士シスター

 彼女は、あら、と、その口の前に手を当てた。


 怪しい顔つきのまま、女エルフはうなだれる男オークに視線を向ける。


「仕方ないわねパドン。暇――じゃなかった、こうして巡り合ったのも何かの縁よ。貴方の恋路を手伝ってあげようじゃないのよ」


「……モーラさん? 何か考えがあるべ?」


「響かぬなら響かせてみせよう、恋の始まる鐘の音!! この私に、ドーンと貴方の恋路を任せてみなさい!!」


 おぉ、と、感嘆の声を漏らす男オーク。

 ありがたいありがたいと、手を合わせる彼に、よきかなよきかなと女エルフは頷いてみせたのだった。


 その様子を眺めながら、また安請け合いをしたなぁ、という感じに女修道士シスターがどこか冷めた視線を向ける。


「で、具体的には何をするつもりなんですか?」


「そんなの決まっているわ。困っている所に颯爽と現れる救世主。恋に落ちるシチュエーションの鉄板でしょ」


「命の恩人作戦――つまり、モーラさんがティトさんに惚れたアレですね!!」


 いや、アレは違うから、と、急に冷めた顔をする女エルフ。

 しかしそんな彼女をよそに、得心した、合点がいった、という感じに、女修道士は勝手に話を進めていく……。


「ジョジョビジョビジョバの出会い!! まずはありったけの水と、小川のセッティングから始めましょうか!!」


「いやだから、アレは違うって言ってるじゃない」


「丸出しにしながら振り返れば、その男らしさに、オウ、ウマナミ!! どエルフでなくても、イチコロ!! こんな案を思いつくなんて、流石ですねどエルフさん、さすがです!!」


「だから違うと言うとろうが!!」


 なにがなにやら分からない。

 そういう感じで、二人のやりとりを指を咥えて見守る男オーク。


 大切な恋の主人公を置いてきぼりに、キューピッド二人。

 彼女たちは勝手にあらぬ方向に盛り上がるのであった。


 心配以外の何者でもない、そんな光景である。


「実際、ティトさんのそういうところに惚れたんですよね? そうですよね?」


「いやだから違うって!! いや、男らしいのは認めるし、その、それがあれなのも認めるけれど――そんなんじゃなくって、その!!」


「認めるんですか!! 流石ですどエルフさん、さす」


「だぁ、もう!! 誰か、こいつ、止めてホント!!」

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