第297話 どエルフさんと回国武者修行

【前回のあらすじ】


 ファンタジー世界における壁ドン。

 それが小川で振り返り〇ン。


 どんなに人嫌いなエルフも、一発で落とすダイナマイトォなアピールである。

 皆さんも、異世界に転生したら是非一度お試しください。


「いや、だから違うって!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 男オークのなかなか険しい恋路を応援することにした女エルフたち。


 はたして、女エルフと女修道士シスター

 そして、恋のキューピッドに無理やりに付け狙われることになった男オークは、大通りを少し外れ、こじんまりとした商店街にやって来ていた。


 いわゆる、専門店が軒を連ねている通りである。

 大通りと違って、客層がどうしても選ばれるために、昼日中だというのに人通りはめっきりと少ない。


 だが、人が居ないという訳でもない。

 店の中を覗き込むと、店員たちと談笑している客の姿が少なからず目に入る。


 こんな通りにある店で、今、女オークは働いているのだという。


「オラのおっとうの紹介でさぁ。造園所が店先でやってる花屋を手伝ってるのさ」


「お花屋さんですか」


「傭兵から一転して可愛らしい職業に就いたわね。やるじゃない、女オーク侮れない女子力だわ」


 そう言った、女エルフはと言えば……。

 どうしたことか男装をしている。


 それも冒険者風。

 いかにも、ガラの悪い三下冒険者という感じの出で立ちだ。

 それは、例によって道具屋の店主に恩着せがましく迫って、急いで用意させたものであった。


 さて、ここまで言ってしまえばもう、女エルフが何をしようとしているか、説明するまでもないだろう。


「チンピラに絡まれた所を助けて貰って、ドキッ、まさか、パドンこんなに逞しい男オークだったなんて~~作戦!!」


 実に分かりやすく、そして、テンプレな台詞を女エルフが口にした。

 それに合わせて、やんややんやと、女修道士シスターが手を叩いて囃したてた。


「私がチンピラに化けて彼女に接触するわ!! そこにすかさずパドンが登場!!」


「俺の大切な女になに因縁つけてるんだ――と、凄んでみせて、モーラさんをギク、彼女をトクゥンさせる。なんてシンプルかつ分かりやすい作戦でしょう」


「……そんな上手く行くかなぁ、心配だなぁ、オラァ」


 と、肩を丸めるパドン。

 手を合わせるとぐるぐると、その人差し指を回し始める内気オーク。

 どうやらここに来ても、まだ今一つ振り切れていないその様子に、女エルフたちが呆れた感じに溜息を浴びせかけた。


 もうここまで準備――男装――しておいて、今更それはないだろう。


 男だったら。

 女オークのことが好きだったら。

 やるしかないのだ。


 男オークの名前を呟いて、女エルフがその肩にそっと手を置く。

 肩を掴まれた男オークは顔を上げると、凶暴そうな体躯に似合わない、心もとなげな視線を女エルフに向けたのだった。


「あんた、堂々としてればそれなりに格好いい――というか、見栄えのいいオークなんだから、もっと自信を持ちなさいな」


「……自信」


「そうですパドンさん!! こんなたとえであれですけど、女エルフなんて何人も相手にしてきてるぜ、っていう、そういう凄みがパドンさんにはあります!!」


「……ほんとどうなのよその励まし」


 もうちょっと他に言い方なかったの、と、俎上に上げられた女エルフが白い目を女修道士シスターに向ける。

 しかし、彼女が言ったこともまた事実ではある。


 男オークは性格こそ軟弱そのものだが、体躯については土木業をしているだけあって、立派なものだった。

 それこそ、オークの中のオーク。

 女エルフなんて、これでもかって喰ってそう。

 そんな感じである。


 ほんと、たとえがどうしようもなくてであれだが。


「あとはどれだけ、貴方がオークらしくなれるかです」


「オークらしく」


「野性を!! 自分の中に眠るオークとしての血を奮い立たせるのです!!」


「……オラ、やってみるだ!! なんだかできるような気がしてきただ!!」


 女修道士シスターに焚きつけられて、ようやくその瞳に火が着いた男オーク。

 うぉおぉ、と、咆哮を上げようとした彼。それを、しぃしぃと、押しとどめて路地裏に隠すと、咳ばらいをして、女エルフは再び商店街のある通りに出たのだった。


 そのまま通りを歩いて、花屋の方へと近づく女エルフ。

 ふと振り返ると、細い路地裏に隠れている女修道士シスターと男オークに、女エルフは目で合図をした。

 ウィンクを女修道士シスターが返すと、女エルフは単身――女オークが働いている花屋の軒先に歩み出た。


 と、その時だ。


 キン、という、どうも聞きなれない音が、商店街に響き渡った。

 そして、なんとも奇遇なことに、どうやらそれは女エルフの目と鼻の先――花屋の軒先から聞こえて来たようだった。


 その店の前に立っているのは、藍染の着流しを着た侍。

 結い上げた長い黒髪。しかして、結ってなお、それを尻まで流しているという、少しばかり異様な人物であった。

 女エルフと背丈はそう変わらない。


 しかし、その瞳は、まるで卵の殻でも埋め込んでいるように乾いている。


 いや、良く見ると、それだけではないことが分かる。


 その体はどうして――木製。

 ショーク国で見た自律人形オートマタと同じように出来ている。

 そのように女エルフたちには見えた。


 そんなおかしな侍が、刀を抜き放って花屋に向かって構えている。


 尋常ではないのはもはや明白。

 しかし、どうして、そんなことをしているのか。


「並みの使い手ではないな。どうだ、ひとつ、ここで手合わせ願えまいか。拙者回国武者修行の身の上にござれば――」


 なんだか様子がおかしい。

 背筋に冷や汗が流れるのを感じながら、女エルフは、待った待ったと、そのおかしな闖入者の前に割って入ったのだった。

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