第276話 巨鬼対鉄の巨人

【前回のあらすじ】


 股間のマグナムを見せないように、全裸正座の状態から鬼へと変身した男戦士。

 かくして、戦いの準備は整った。


 紫の巨鬼対くろがねの巨人。

 果たして、体格差で勝る鉄の巨人に、ティトは勝つことができるのか。


 今、最終決戦の火蓋が切って落とされたのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


「鬼族の呪いだと!? おのれ小癪な、そのような隠し玉を用意していたとは!!」


「グルォオオオオオンン!!」


 紫の巨鬼がくろがねの巨人に向かって咆哮と共に飛びつく。

 空中に浮遊してい鉄の巨人であったが、その背丈をゆうに超えて天に舞い上がった巨鬼は、正面からその肩に掴みかかる。


 鉄の巨人の態勢が大きく揺れる。

 おぉ、と、動揺したコウメイの声がバビブの塔の頂上へと木霊した。


「……これはもしかするといけるんじゃないですか!!」


「ぼさっとしてないのコーネリア!! 私たちも、できる範囲で、ティトの応援をするわよ!!」


 そう言って、自立駆動魔導書オート・マジックを展開する女エルフ。

 そうでした、と、すかさず女修道士も、マジックシールドを展開した。


 大剣使いも、気が付けばどこから出したか、サブウェポンの弓矢をつがえている。


 何もできないワンコ教授と金髪少女は、ぽかんとした顔で空を眺めていた。


 そんな中、紫の巨鬼の指が、めきりめきりと音をたてて、くろがねの巨人の分厚い装甲に食い込んでいく。


 流石に、鬼と戦うために造られた神造兵器である。

 規格外――まさしくこの地上で最強といっていい力を持つ鬼を前にして、なんとか踏み止まってこそいるが……。


「くそっ!! なぜだ!! なぜ操作が安定しない!! 二十八号!!」


 巨鬼を引き離そうと、その胴へと鉄の巨人が手を回そうとする。

 しかし、その指先はわなわなと、震えるばかり。


 巨鬼の肘が、肩を押さえた指先が、完全にその駆動部の動きを制している。

 鬼と化し、理性を蒸発させたかと思いきや、男戦士は考えて戦闘を行っていた。


 焦れるような絶叫が青の鉄人ブルー・ジャイアントの中から聞こえてくる。

 あと少し、もう少し、力を加えれば、その肩を断つことができる――。


 そう思った時だ。


「くぅ……と、単純な力比べだけが、戦いではないわ!!」


「ウルァアアアア……グァァアアアッ!?」


 コウメイの言葉と共に、鉄人の口が開いたかと思うと、そこから円筒状の何かが飛び出してきた。


 その円筒の先端が仄かに光る。

 それは先ほど、砂漠に向かって飛び、光の柱を天まで起立させたものと同じ――まぶしい緑色をしていた。


 咄嗟、女エルフが叫ぶ。


「避けて!! ティト!!」


 しかし、紫の巨鬼の背後には、女エルフたちが居る。

 ここで彼が避ければ、先ほどの緑の光は確実に彼女たちを焼き尽くすだろう。


 やはり、最低限、周囲を見渡す程度の知性については残っているらしい。


 グァァアアと、叫んで、紫の巨鬼。

 逆に、くろがねの巨人を自分の体へと引き寄せると、その開かれた頭に向かって――雄々しく生えた一本の角を差し込んだ。


「――なにぃっ!?」


「クルォオオオンン!!」


 鉄の巨人の頭部。

 開口した筒の部分に、ちょうどすっぽりと鬼の角が嵌る。

 と、共に、緑の光がそこから漏れ出す。


 はたして、鬼の象徴たる角である。その硬さは推して量るべきだろう。

 それは、見事に、あの大地を破壊するだけの力を受け止めてみせた。


 と、動揺している間に、更に巨鬼が攻撃の手を強める。


「ウルガァァアアアアアア!!」


「ひゃっはーっ!! 俺様の存在を忘れて貰っちゃ困るのよーん!!」


 叫んだのは瑪瑙色の剣――魔剣エロスである。

 巨鬼と化した男戦士は、腰に佩いたままだったそれに手を伸ばすと、くろがねの巨人から体を引き離しざま、力いっぱいに片手で横なぎに振るった。


 鉄の巨人の体格差からすると、ナイフ――いや、爪楊枝くらいの大きさの魔剣。

 しかし、そこは摩訶不思議たるインテリジェンスソード。


 巨鬼が振るうや、まるでその気迫を吸い取ったかの如く、揺らめく青い光をその刀身が発する。かと思えば、そのオーラの刀身は青い巨人の首を刎ね飛ばした。


 ひょん、と、その頭部がバビブの塔の頂上に転がる。

 ばちりばちりと、目のような部分を明滅させた鉄の巨人は、暫くすると焦げ付くような音を立て、そして動かなくなった。


「ふひゃひゃひゃっ!! 見たか!! 俺様の切れ味を!! 魔剣を名乗らせて貰ったからには只じゃ済まさねえ、どんなものでも貫いて、切り裂いてみせるぜ!!」


「……くそっ!! こんな伏兵まで!! 忌々しい奴らめ!!」


 紫の巨鬼の咆哮が、コウメイの舌打ちを掻き消す。

 と、同時に、魔剣エロスを振るったのとは反対側――未だそのくろがねの肩を掴んで離さない、左の手が、ついに、メシリと、巨人の体を粉砕した。


 だらり、まるで腱でも斬られたように、制御を失った巨人の右腕。

 すぐにそれはその場に外れて落ち、床の上に転がった。


 頭部と腕をあっさりと失って、無力化されたそれから――コウメイのぐぬぬという声が聞こえてくる。


「だぞ!! 勝負あったりなんだぞ!!」


くろがねの巨人がなんというもの!! 流石ですティトさん!!」


「……まだよ!! まだ、決着はついていないわ!! 気を緩めちゃいけない!!」


 そう女エルフが言った時だ。


「たかが、メインカメラと右腕を失っただけだ――!! 舐めるなぁっ!! この青の鉄人ブルー・ジャイアントこそ、この大陸で最強なんだよぉォオオオッ!!」


 大宰相の名にふさわしくない絶叫。

 それと共に、くろがねの巨人の体のいたるところから、先ほど、頭部より現れた筒が生え出てきたではないか。


 頭から出てきたそれよりは、いささか小さいそれ――しかし。

 無数に並ぶそれが一瞬に光れば、ひっと、流石に女エルフたちも身構えた。


「――喰らえっ!! これが青の鉄人ブルー・ジャイアントの本当の力だぁあああっ!!」


「ティトォ!!!!」


 無数の緑の光が紫の巨鬼の体を貫いていく。


「グルォオオオオオオオオオン!!!!」


 それまでの雄たけびとは違う、明らかな悲鳴をあげた紫の巨鬼は、そのまま力尽きるようにその場に落下した。

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