第258話 魔性少年と超能力

【前回のあらすじ】


 魔性少年の遠い祖先であり、世界を滅ぼした男バビブ。

 そんなバビブのクローンが男戦士たちの前に現れた。


 一族が受けた汚辱を注ぐため、バビブと戦うことを決意する魔性少年。


 超能力のぶつかり合い。

 極彩色の光が煌くその戦いを、男戦士たちは見守ることしかできないのだった。


 そして、バビブのそれはなかなかに立派だった。


「流石は、塔になるだけはある。立派だ――バビブ!!」


「やめなさい!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 もはやそれは、冒険者たちが行う普通の戦いではなかった。


 魔性少年とバビブ。

 二人の超能力を持った少年たち。

 その勝負は、余人を持ってして捉えることのできない速さで繰り広げられた。


 純粋な、思念のエネルギーのぶつかり合い。

 せめぎあい。


 大岩を動かし。

 砂嵐を巻き起こし。

 人の体を操るその力。


 それが、作用するより早くお互いにぶつかり合う。

 そこに生まれるのは――極彩色の光。


 花火というには澄んでいて、オーロラというには儚い。

 綺羅星のようにひしめき合うその光の壁を、前後させながら二人は睨みあった。


 男戦士。女エルフたちが手を出す余地はない。

 また、バビブの下僕だろう、黒い影、怪鳥、ブリキの巨人も、その主人のやり取りを眺めるだけであった。


 はたしてどちらが勝つのか。


「くっ……!!」


 先に表情を曇らせたのは魔性少年の方だった。


 相変わらず、魔性少年とバビブの前に展開されている綺羅星のカーテン。

 それがほんの少し、魔性少年の方へと後退した。


 力負けしている。

 超能力もその勝負のこともよくわからないが、男戦士と女エルフは、魔性少年とその状況から咄嗟にそう判断した。


 やはりバビブ。

 文明を滅ぼすほどの力を持った男だけはある。


 一族の血を濃縮し力を高めた魔性少年でも、太刀打ちすることができないのか。


 不安の色が女エルフの顔に滲んだ。

 その肩に、そっと男戦士が手を添えた。


「大丈夫だ、コウイチを信じよう」


「……ティト」


「彼と彼の一族は、宿願のために長い年月をかけて準備をしてきた。その歴史が、彼をきっと支えてくれるはずだ」


 男戦士はそう言って、魔性少年の背中を見つめた。

 同じく、魔性少年と行動を共にしていた大剣使いについても、その背中を見つめて腕を組んでいた。


 戦士たちにできることは彼の勝利を信じることだ。

 同じ男にして戦士である――魔性少年の勝利を。


 その眼差しに応えるように、少しだけ、魔性少年の顔から苦痛が消えた。


「ふふっ!! どうやら、手加減をして相手をするのは難しいみたいですね!!」


「……手加減?」


「なんだと!! 今まで、まだ、本気を出していなかったというのか!!」


 男戦士の言葉に応えるように魔性少年が振り返る。

 余裕しゃくしゃくとまではいかない。


 だが、その表情は、はっきりと彼らにわかるほどに、自分の力はこんなものではないと告げていた。


 その不敵な発言に、おぉ、と男戦士たちがいろめきたつ。

 一方で――。


「そんな余力があるなら、最初から使っておきなさいよ!!」


 冷徹なツッコミを入れたのは女エルフだ。

 彼女の言うとおりである。


 そんな余力を持って居るのなら、最初から使っておけばいいのだ。そうであったなら、女エルフたちもさんざんと、彼のことを心配しなくて済んだはずである。


 と、もちろんそこには何かしらの理由があるのだろう。

 すみません、と、女エルフの言葉に、魔性少年が謝った。


「できれば使いたくなかったんです。使うこっちにも、ダメージが大きいので」


「ダメージ!? まさか、狂化バーサーク系の身体強化魔法!? ダメよそんなの――貴方のような子供が使ったら、深刻な後遺症が残る可能性があるわ!!」


 やれと言ったり、やるなと言ったり、忙しい女エルフだ。


 しかし、彼女の心配は至極まっとうなことであった。


 言った通り、狂化バーサーク系の身体強化魔法は、身体のリミッターを解除することで、人間の潜在能力を最大限まで引き出すことができる。

 しかし、それ故に、筋肉や骨の破壊を招くという危険性を秘めている。


 まだ、体の出来上がっていない魔性少年が、そんなものを使えばどうなるか。

 成長するに連れて彼が被ったダメージが彼の体を歪めていくことだろう。


 駄目よ、絶対に。

 そう叫ぶ女エルフ。


 しかし、魔性少年は首を横に振った。


「バビブは僕が倒さなければいけない相手です。出し惜しみはしていられません」


「……けど!!」


「それに心配しなくても、モーラさんの思っているようなことではありませんよ」


「……え?」


 それだけ言うと、魔性少年はバビブの方に向き直った。


 すぅ、と、彼が息を吸い込む。

 それに合わせて、俄かに後退した光のカーテン。


 バビブに余裕の表情が生まれた――そう思った次の瞬間である。


「バビブ!! 僕の力がこの程度だと思ってもらっては困るぞ――制限解除キャスト・オフ!!」


 そのセリフと共に、バリン、と、何かがけたたましく破れる音がした。


 舞い散るのは黒い布。

 そう、先ほどまで魔性少年が身に着けていた、この世界ではちょっと見慣れない、黒い服が、爆発四散したかと思えば宙にひらひらと舞っていた。


 いや、それだけではない。

 白い布もまた宙をひらひらと舞っていた。


 白と黒のコントラスト。二つの布が宙を舞って、辺りに降り注ぐ。


 そんな中に、立ち尽くして魔性少年は――すっぽんぽん、股の間に棒と玉を挟んで内また、いろいろと配慮した感じで立ち尽くしていた。


「脱げば脱ぐほど強くなるのが超能力者!! 今、ここに僕は、自らにかけていた制服リミッターを解除した!! ここからが僕の――全力全開の超能力だァッ!!」


「脱げば脱ぐほど強くなるだと!?」


「自分へのダメージとは、そういうことだったのですね!?」


「だぞ!? なるほど、能力の伝達効率を高めるために、あえて何も体に装着しないということなのか!! 逆に、バビブがここまで強かったのも、裸だからと考えれば辻褄が合うんだぞ!!」


「……いい尻だ!!」


 納得する男戦士パーティ。


 一人、ずっこける女エルフ。

 もはや様式美的な全裸オチであった。


「さぁ、見るがいいバビブ!! 偽物と本物、その違いという奴を!! お前と違って、僕のギリモザは尻と乳首と局部の三つあるぞ!!」


「威張って言うことかぁっ!!」


 同じ穴のなんとやら。

 魔性少年だけは、周りの奴らと違うのではないか、などと思っていた女エルフだったが、その認識が間違っていることを思い知らされた。


 やはり、ギャグ小説の登場人物は、どこかしら変なのである。

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