第257話 魔性少年とバビブ

【前回のあらすじ】


 ギリモザは前にかけるもの。

 尻はギリギリだが露出してもOK。


 まぁ、それはとにかくとして。

 荒廃した第八階のフロア。

 そこに、光の柱を背に――いや尻にして現れたの銀髪の少年。


 彼はどうしてか、魔性少年と同じ顔をしていた。


◇ ◇ ◇ ◇


「あれはいったい!?」


「だぞ!! コウイチと顔がそっくりなんだぞ!?」


「どういうことなんですかコウイチさん!! 説明してください!!」


 男戦士パーティが混乱して、同じ顔をした少年の素性を魔性少年に尋ねる。

 しかし、魔性少年はその顔色をこわばらせるばかり。


 どころか、その顔色がますますと青ざめていく。


 わなわなと震えるその肩。


 それを抱き留めながら、魔性少年はきっと白髪の少年を睨みつけた。


「……やはり、造っていたか!! バビブのクローンを!!」


「だぞ、クローン!?」


「バビブのクローン!?」


「……どういうことなんだ、コウイチ? 説明して貰っても、分からないかもしれないが、俺たちも何も知らずに戦いたくはないんだ」


「いったいなんなの、バビブというのは!?」


 まくしたてえる男戦士たち。


 しかし、彼等を無視して、魔性少年は目の前の同じ顔をした男を睨みつける。

 そのままゆっくりと、前へと歩み出た彼は、背中の男戦士達にすみませんと謝ってから、ぽつぽつと語り始めた。


「説明するのを忘れていました。僕たち一族の中で、世界崩壊の引き金を引いた男。それがあいつ――巨炎のバビブです」


「なんですって?」


「巨炎のバビブ!?」


「彼は、血族の力――くろがねの巨人を操る力を駆使して、大陸の覇王となろうと画策しました。三体のくろがねの巨人を引き連れて、中央大陸を蹂躙し、止めようとする血族さえも手にかけたのです――そして」


「そして!?」


「彼は、最後に残された鉄の巨人――二十八号により葬り去られ、海の果てへと吹き飛ばされたのです」


 そこで、ピン、と女エルフがきたらしい。

 もしかして、と、彼女は魔性少年に尋ねた。


「このバビブの塔は、彼の墓標ということなの?」


「――その可能性について、考えないことはなかったのです。だって、まったくその建国の歴史に関係のない、バビブの名を塔につけているのですから」


「バビブという言葉にそんな意味があったなんて」


「バ○ブと勘違いしないように気を付けなくてはと思っていたが、まさか」


「てっきり、卑猥な響きだな、くらいにしか思っていませんでしたが、まさか」


 それはそれでどうなのか。

 そんな顔を男戦士と女修道士シスターに女エルフは向けた。


 と、そんな彼らのいつものやり取りはさておいて。

 魔性少年が白銀の髪の男に正面から相対する。


 極彩の光が、ばちりばちりと幾つも空中に現れては弾ける。


 それはあまりにも幻想的な光景だった。

 だが――それこそは、コウイチとバビブが放った超能力の激突である。


「彼はさしずめ偽バビブ。海を漂っていたバビブの肉体をベースに、コウメイが作り上げた贋作者クローンです」


「バビブニセ――ということか!!」


「偽物でも、バビブの力を使うことには違いない。我が【操者の血族ファクター】の名にかけても、僕が、あれを止めなくてはいけない――ティトさんたちは離れていてください!!」


 魔性少年が一人前に出る。

 彼はどうやら、既にその覚悟を決めているようだった。


「これよりは、常人の立ち入ることのできない、超能力者同士の戦い!! いざ、一族の禍根を断つために、くろがねの巨人を破壊するために、貴様にも死んでもらうぞ、バビブよ!!」


 にやり、と、笑ったバビブ。

 同時に地面が揺れ動き、辺りに散乱していた瓦礫が、魔性少年に向かって次々に飛来した。


 魔性少年は、その手を前にかざす。

 すると、青白い薄い光りが彼の前に展開され――その飛来する瓦礫のことごとく、彼と衝突する前に砂へと変えてみせるのであった。


 確かに、これは余人を持って介入することのできない、戦いである。


 もっと自分たちを頼れ、と、昨日男戦士は魔性少年に言った。

 その手前にも関わらずこんな事態になってしまったことが情けないのか、彼は悔しそうに唇を噛みしめた。


 と、そんな彼を気遣うように、女エルフがその隣に立つ。


「仕方ないわ。これも彼の宿命よ」


「モーラさん」


「受け止めましょう、そして見届けましょう。私たちにできるのはそれだけよ」


「……そうだな」


 極彩の光が飛び交うその光景。

 二人は固唾を飲んで魔性少年の背中を見守るのであった。


「……しかし、なんて立派なバビブなんだろう」


「……あんたって本当に、こういう時でもまったくブレないわね」


 男戦士の視線がふと、魔性少年と相対する銀髪の少年のへと向く。


 男として負けられないという思いからだろうか。

 それとも、嫌でも気になってしまうのだろうか。


 なんにしても、もう一度、男戦士はごくりと生唾を呑み込んだのだった。


「流石は、塔になるだけはある。立派だ――バビブ!!」


「やめなさい!!」

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