第256話 魔性少年と大いなる炎
【前回のあらすじ】
ここをキャンプ地とする(二回目)。
バビブの塔、第七階でキャンプを行うこととなった男戦士達。
金髪少女が用意した食事に舌鼓を打ち喜ぶ女エルフたち。
一方。
一人、浮かない顔をして階段の先を見据える魔性少年。
そんな彼に男戦士が語り掛ける。
すると魔性少年は、不安げにある予感を口にしたのだった。
「彼――コウメイ――は、僕たちの代わりとなる存在を作っているかもしれない」
◇ ◇ ◇ ◇
「姐さん。あんた達なら、きっとこの塔を攻略できると信じてるぜ」
「だからなんでヤンキー口調」
テントを仕舞い、野営を片付けた男戦士達。
さぁ、いざ出発だというところを、なぜだか魔法少女に呼び止められて、女エルフは厚い握手を交わされていた。
すっかりと懐かれてしまったみたいである。
「だぞ。モーラは女性から大人気なんだぞ」
「エリザベートさんにも、お姉さまと呼ばれてましたしね」
「やはり胸が無くて男らしいから」
「はいそこティト。うちの貴重な回復メンバー、コーネリアの精神力を無駄に消費する発言は控えてくれませんかねぇ?」
相変わらず、ローブの下には水着を着用している女エルフ。
オラオラッシュの構えを女エルフが取る。
すると、勘弁してくださいという感じに男戦士が一歩後ろに下がって、手のひらを彼女に向かってみせた。
あははは、と、魔性少年のあどけない笑い声が響く。
「では、そろそろ行くとしましょうか」
「にょほほほ!! ついに八階ぞえ!! いったいどんなフロアかのう!!」
「まぁ、なんにしても、俺は雇い主――コウイチを守るだけだ」
いつもの乱痴気騒ぎを始める男戦士たちをよそに、冷静な魔性少年と大剣使い、そして金髪少女たち。
彼らの方がよっぽど熟練の冒険者らしい感じだ。
男戦士たちに先んじて、彼等は階段の方へと向かう。
一発殴らせろと男戦士に向かう女エルフを、
「――気を付けてください、姐さん。この上の階には、コウメイさまが本気で造られた守護者が待ち構えています」
「そうなの?」
「詳しくはお教えすることはできませんが――姐さんの無事を祈っています」
魔法少女の言葉に真剣味を感じた女エルフ。
男戦士をボコろうとしていたその手を止めて、ふぅん、と、彼女は魔性少年たちの背中を視線で追うのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
第八階。
そこは蜃気楼の魔法が施された第三階、そして同じく、荒涼とした大地の広がっていた第五階と同じ、魔法により亜空間が形成されていた。
しかし――。
「……なにこれ!?」
「街が、世界が、燃えています!!」
「だぞ!! しかもこれは、見たことない建造物なんだぞ!!」
石造りのバビブの塔よりも高いと思われる建造物。
それよりも更に高いだろう塔が、そこかしこに天を衝くように建っている。
しかも、それらの幾つかは倒壊しており、瓦礫で世界はあふれていた。
灰色のもろそうな瓦礫の向こうに、ゆらゆらと揺れる紅色の炎の姿。
街は――燃えていた。
「これは、なんだか大変な所に出てしまったようだな」
「だぞ。しかし、こんな街はいままで見たことがないんだぞ。いったい、これはどこなんだぞ――」
ワンコ教授が見たことがないというからには、よほど特殊な光景なのだろう。
女エルフが、さきほど魔法少女に言われた言葉を思い出す。
これがコウメイの本気の罠。
彼が用意した塔の守護者のためのフロアだとしたら。
いったい、どんなバケモノが現れるのか。
その時だ。
先に八階へと上がっていた魔性少年たちが、焦った様子で男戦士たちの方へと戻って来る姿が見えた。
「駄目です、ティトさん!! このフロアは危険すぎます!!」
「なんだって!?」
「対策を立てずに攻略するのは無理です――見つかる前に引き返しましょう!!」
そう彼が叫んだ矢先のことだ。
どこからともなく現れた黒い影をした四つ足の獣。
それが、魔性少年たちの後ろを走るヤミのお供たち――黒服の男ら――を包み込むようにして捕らえた。
ぐわぁ、と、悲痛な断末魔が聞こえる。
「お前たち!!」
「駄目ですヤミさん、立ち止まってはいけません!!」
お供たちが無残にも屠られる。
その光景を目にして、思わず立ち止まろうとしたヤミ。
だが、すぐに魔性少年が彼女の手を引くと、強引に彼女を走らせた。
立ち止まっても、陰の餌食になるだけである。
魔性少年の判断は間違ってはいなかった。
涙を流して、お前たち、お前たちと叫ぶ金髪少女。
暴れる彼女のせいで魔性少年たちの足取りが遅れる。
すかさず、大剣使いが金髪少女のみぞおちに拳を入れた。
かは、と、息を吐き出して、気絶した金髪少女。
大剣使いは、こなれた感じに魔性少年に代わって彼女を抱き上げる。そうして二人は再び、男戦士たちの方に向かって駆け始めた。
これはいったいどうなっているのか。
予想の斜め上を行く展開に、男エルフたちがたじろいだ。
黒服たちを呑み込んだ影が四つ足の獣の姿に戻る。
と、次の瞬間、燃え盛る炎に揺らめく青い空に、鳥の鳴きえが響き渡った。
羽毛を持たない皮張りの翼をもったその怪鳥は、緑色をした目を光らせて天空で円を描いて周回していた。
次いで、がれきの山の中からブリキの巨人が現れる。
両側の毛を逆立てたような髪型をしたそれは、両手をL字に曲げて立ち上がると、おぉん、と大きな声を上げた。
そしてその声と共に、口から白色をした怪光線が発射される。
それは石造りの建物を破壊して、また、瓦礫の山を作り出す。
「なんだこの地獄絵図は」
「だぞ、まるで世界崩壊の図みたいなんだぞ……」
「そうです、これは第四次世界崩壊時の光景――僕たちはそれを見せられている」
「なんだって?」
男戦士達に合流した魔性少年が、息を切らしながら答えた。
その時、後ろに白い光の柱が立ち上った。
天まで届くかというその光の柱の中に、立ち上がる白い影。
あれはなんだ、と、眼を凝らす男戦士たち。
その眼に飛び込んできたものは――。
銀髪に赤い眼をした、コウイチとまったく同じ顔をした、全裸の少年だった。
たまらず、
「いけませんいけません!! それは流石にいけません!!」
「どうしたのよシコりん」
「ギリモザは前にかけるものであって、お尻にかけるものではありませんから!!」
「いや、ギリモザじゃないでしょ、どう見てもあれ……」
思わぬところで怒りをあらわにする女修道士。
ギリモザについては一家言ある彼女だ。
尻を隠して前を隠さない、そのスタイルに、彼女なりに憤りを感じたのだろう。
「そのようなギリモザ!! 私は絶対に認めませんから!!」
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