第249話 どエルフさんとピンクの牛

【前回のあらすじ】


 なんの落ち度もないのに、ピンクの牛に変身させられてしまった男戦士。

 いや、まぁ、普段の行いがあれなだけに、天罰といえなくもないが。


 とりあえず、あまりに非現実なその光景に、女エルフたちは、開いた口がふさがらなくなってしまったのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「なっ、なにぃっ……!! 俺の体が、牛になってるぅううううっ!?」


「って、しゃべれるんかーい!!」


 二本足で立ち上がったかかと思うと、体を見て驚愕するピンクの牛。


 どうやら、姿かたちが牛になっただけで、心まで牛になってしまった訳ではないようである。しかし、不気味な光景には違いない。


「どうせなるなら牛より馬の方がよかった……」


「なに言ってんのよあんた、こんな時に!! どうすんのよこれ、元に戻るの!!」


 とりあえず、この中で、一番元に戻せる可能性の高い、女修道士シスターに視線を向けた女エルフ。

 しかし、彼女は残念そうに首を横に振った。


 となれば次は魔性少年だ。

 超能力でなんとか元に戻せないか、と、眼で訴えかけてみるのだが。


「いや、さすがにこれはなんとも」


「なんでよ!! その便利な超能力で、ぱぱっと元に戻しちゃえないの!?」


「魔法と超能力は、そもそも相反する性質のものですから。魔法でかけられた呪いを打ち消すには、魔法しかないですね」


「――じゃぁ、ティトは一生このままってこと?」


「い、嫌だぁっ!! ピンクの牛のまま、一生を終えるなんて、そんなの嫌だ!!」


 珍しく狼狽える男戦士――もといピンクの牛。

 彼はへろへろへろとその場に座り込むと、えっぐえっぐと泣き出してしまった。


「モォーラさん、なんとかしてくれ、モォーラさん」


「ちょっとその呼び方、微妙に腹が立つんだけれど」


 間延びした感じに女エルフの名前を呼ぶ男戦士。

 牛化してしまった影響だろうか、それともふざけているだけなのか。


 何にしてもこのまま放っておくわけにはいかない。


「ちょっと、酷いこと言ったのは謝るから、こいつ元に戻してくれない」


 なんだか物分かりが良さそうな塔の管理人こと魔法少女。

 彼女に、さっさと呪いを解いてもらえないかと女エルフは頼み込んでみた。


 しかし――。


「ふふっ、嫌よ!!」


 薄っすらと口元を吊り上げると、魔法少女はきっぱりと断ってみせた。


 それまでのフランクな態度から一転。

 何やら好戦的な目つきに代わる魔法少女。

 瞬間、パーティの間に緊張感が走った。


 やはりこのホムンクルスもまた、コウメイが仕掛けた罠の一つなのだ。

 そうやすやすと、休憩させてくれることもなければ、上の階に行かせてくれることもないということか。


 女エルフが身構えたその時。


「その男の人を元に戻して欲しかったら――私と、魔法少女勝負をしなさい!!」


「……魔法少女勝負?」


「そう、魔法少女勝負よ!!」


 意味が分からない。


 女エルフが、なんだそれはという顔をする。

 助けを求めるように女修道士シスターに視線を向けた女エルフ。

 案の定、そんな視線を向けられても困りますと、狼狽える彼女。


 そうよね、と、女エルフが肩を落としたその時。


「だぞ。魔法少女勝負……!!」


「知っているんですか、ケティさん!!」


 なんんだか最近、こんなやり取りが増えてきたような気がする。


 またしても濃い顔で女修道士がワンコ教授に尋ねる。

 すると、うむ、とこれまた濃い顔で、ワンコ教授が頷いた。


【キーワード 魔法少女勝負: 魔法少女が己の力を全力全開してぶつかりあう、エクストリームエンターテイメントスポーツのことである。武器は魔法ステッキ一つのみ。どちらがより高濃度のハイ○ガ粒子砲を撃つことができるのか、命中させることができるのかという、単純明快なバトル要素が売りだ。なお、スポーツの際に着用する戦闘服には、破けるとちょっと大変な感じのデリケートタイプと、エロゲーが出典ですけど正統派魔法少女ですからこれ的な安全安心ふりふりタイプがある。なお、「魔法少女リリカルなのは?」とは、こちらで、「どちらが最強の魔法少女か決着つけようぜオラぁ?」という意味である。(犬耳書房「魔法少女のすべて」より)】


「そんな危険な勝負を挑んでくるというのですか!?」


「受けてくれなきゃ、その男の人は、ずーっと牛さんのままだよ。大丈夫なのかな、その人あきらかに前衛でしょ。これから上の階には、もっともっと、おっかない守護者が居るんだけれど、その人がいなくて攻略できるのかなぁ?」


 すべてお見通しという感じで、意地悪に微笑むリリィ。

 塔を攻略するのをさておいても、このまま男戦士を牛のままにはしておけない。


 これはもう、この勝負を受けるより他に手はないだろう。


 しかし――この際問題になるのは。


「いったい誰が、魔法少女になるのかよ」


「だぞ」


「ですね」


 この中で、少女というならワンコ教授だろう。

 成人済みとはいえ、その容姿は十分に少女の要件を満たしている。


 しかし残念なことに彼女は魔法が使えない。


 となると必然、魔法が使える女修道士かエルフのどちらかということになるが。

 完成した大人の体をしている女修道士に、魔法少女、の衣装が似合うかと言われればそれは疑問符だ。


 もう答えは半ば決まっていた。

 あとはそれを当人が、言い出すかどうかだ。


「……モーラさん!!」


「……モーラ!!」


「ぶひひひん、モゥーラさん!!」


「……分かったわよ!! やればいいんでしょ、やれば!! 私が魔法少女を!!」


 三百歳アラスリ魔法少女、爆誕の瞬間であった。

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