第248話 どエルフさんと魔法使い……ィ

【前回のあらすじ】


 魔性少年の超能力で、震えるバ○ブの塔!!


 その時!! 男戦士と女修道士のセクハラの矛先が、魔性少年へと向かった――。


 かと見せかけて、女エルフに降りかかる!!


 ダンジョン攻略も中盤というのに、相も変わらないパーティなのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 結局、六回ほどレッドシャドウの駆除をこなした男戦士達一行。

 どうにかこうにか一人の犠牲も出さずに、彼らは七階へと続く階段の前にたどり着いた。


 しかし――。


「流石にちょっともう限界よね」


「次のフロアで、頂上前の一休みといきたいところですね」


「疲れたんだぞ」


「うむ。流石のわらわも、大法力がつきかけておる。ここはレッドシャドウが出るから、うかうかと野営はできんが、次のフロアならなんとかなるかもしれん」


 とは言え、上のフロアに行けば行くほど、難易度も上がるのは事実。

 大丈夫なのだろうかな、と、一抹の不安を覚える男戦士パーティたち。


 しかし、金髪少女の言う通りでもある。

 こんな危険なモンスターがでるフロアで休むわけに居はいかない。


「まぁ、七階ですしね、縁起のいい数字ですから。きっと次はいいフロアでしょう」


「どういう理屈よ」


「両方確認して、リスクの少ない方で野営するのがいいだろう。なに。いきなり顔を出した途端、狩られるようなトラップはないはずだ」


 そう、言って男戦士がずんずんと階段を登っていく。


 こいつは本当に怖いもの知らずだな、と、呆れる女エルフ。

 しかしながら、心配なのだろう、すぐにその後ろに彼女は続いたのだった。


 はたして、男戦士パーティは、七階へと移動した。


 さて。

 移動してみれば見えてきたのは、また、ちょっと違った景色。


「これは――」


「お城の謁見の間?」


「だぞ。みたいな感じになっているんだぞ」


「やっぱり、七だから縁起の良い場所だったみたいですね。おや、すぐ目と鼻の先に階段まで――ボーナスフロアという奴でしょうか」


 いや。これまでの展開からいって、それはないんじゃなかろうか。

 そう、身構える男戦士たち。


 その時だった。


「だぁーれー?」


 妙に間延びした声がした。

 かと思うと、フロアにぽっかりと空いている窓から、すぃーと自然な感じに人が箒に跨って入って来る。


 誰がどう見ても魔女である。

 疑いようのない魔女である。


 ピンク色の服をまとった茶色い髪の少女。

 ちょっとチャーミな気がするのは、いや、気のせいかもしれない。


 まるでこのフロアが自分の家だとばかりの気軽い感じ。

 箒から降りた彼女はそれを杖のようにして立つと、女エルフたちを前にして、不思議そうに首を傾げた。


「ここまで人が上がって来るのは何百年ぶりかしら。なんにしても、久しぶりね」


「えっ、ちょっと、どういうこと?」


「もしかして、貴方、このフロアに住んでいるんですか!?」


「まさかぁ。こんな息苦しいばっかりで、お友達も遊びに来ないようなところに、住んでいる訳ないじゃない。ここは私の別荘みたいなものよ」


 はじめまして、と、彼女は男戦士たちにお辞儀をする。

 そのごく自然な立ち居振る舞いと所作に、男戦士たちがぱちくりと目をしばたたかせる。そんな中、少女は自分のことを――リリィと名乗った。


「私はこの塔を管理維持するために、コウメイさまの手によって造られたホムンクルスなの。けど、ほら、ここって退屈でしょう。滅多に人がやって来ることもないから、普段は下界で生活しているわ」


「そうなのか」


「うふふふっ。なにせホムンクルスには寿命がないからね。けどすごいじゃない、ここまで登って来るなんて。前に登って来たのは――そう、なんだかちょっと、小凄い感じの戦士だったわ」


「だぞ。戦士」


「そう、しかもたった一人で。酷いのよ、私を見るなり、乳臭いガキじゃねえか、どっか行ってろって言うんだもの。あれ、降りてこなかったから多分だけど上のフロアで死んでると思うわ。ざまぁみろね」


 結構毒舌なことをいうリリィ。

 しかし、単独でこの塔をここまで登って来たのだとしたら。


 その戦士、相当な実力の持ち主だ。


 いったい何者なのだろうか。

 純粋に戦士として。

 その先達者のことが気になった男戦士ではあったが――。


「ねぇ、よかったら、おしゃべりしていかない。美味しいケーキもあるのよ」


「だぞ!!」


「やった!! ちょうどお腹が空いてたのよねぇ、助かるわ!!」


「話の分かる塔の管理人でよかったです。では、そのお言葉に甘えましょう」


 そんな男戦士をよそに、緊張感の無いことを言い出すパーティの面々。

 疲れているのかもしれないが、少し、迂闊過ぎると男戦士が眉をひそめた。


「いや、待つんだみんな!!」


 浮かれて魔法少女の提案に飛びつこうとしたパーティメンバー。

 そこにしっかりと男戦士は待ったをかけた。


「彼女は塔の管理人だぞ。そう言って俺たちに毒を盛る罠かもしれない」


 塔の管理人にしては、その言動が怪しすぎる。

 そもそも彼女は、この塔を守るためにここに居るのではないのか。


「ひどい。リリィ、そんなことしないわ」


「いや信じられない。俺たちはここに来るまで、散々にコウメイの罠に苦しめられてきたんだ。そのコウメイが手ずから作ったホムンクルスなんだろう、君は?」


「確かにそうだけれどぉ」


「だったら、君の提案を受け入れることはできない。悪いが、俺たちは俺たちで、勝手にここで野営をさせていただく」


「えぇ、いいじゃない、一緒にご飯食べましょうよ」


「いや、結構だ!!」


 ちょっと強めに、男戦士が拒絶した。

 こういう時は、きっぱりと言うのが彼である。


 しかし――時にそういう竹を割ったような性格が、災いすることもある。

 今回もまさしくそれであった。


「ひどい、どうして信じてくれないのよ――」


 ぐすり、という鼻音と共に、魔法少女の目に涙が滲んだ。

 ちょっと言い方考えなさいよ、と、女エルフが男戦士を小突こうとしたその時。


手苦魔苦魔夜崑手苦魔苦魔夜崑ほにゃららほにゃらら――牛さんになっちゃえっ!!」


 ぼふん、という音と共に、男戦士の体が白い煙に覆われる。


 なんだこれはと戸惑う女エルフたち。


 もくりもくりと立ち込めるその白い煙が全部はけたときだ――。

 そこには、スケベなピンク色をした牡牛が、モーと鳴いていた。


「ティ、ティトが……」


「ピンクの牛に……」


「なってしまったんだぞ……」

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