第246話 ど金髪少女さんと結局

【前回のあらすじ】


 男戦士と大剣使い。

 見事なコンビネーションにより、ソソ絶対○すマンことチョウーンは退治された。


 え、まともなあらすじ過ぎてつまらない?


 すみません、今、ちょっと元気がないのです。

 来週くらいには復活すると思うので、淡々と物語をお楽しみください。


◇ ◇ ◇ ◇


「で、結局?」


「カンウとはエンカウントしなかった、と」


 六階へと続く階段の前。

 男戦士たちはじとりとした視線を金髪少女に浴びせかけていた。


 カンウが現れた時の切り札として連れて来たはずの彼女。

 しかし、その切り札が、使われないまま今このフロアを後にしようとしている。


 パーティを組んだのがまるっきり無駄になってしまった。

 当然、そんな顔をするのは仕方のないことだろう。


 しかし金髪娘はそんなことは気にしない。


「――ふふっ!! ふはははっ!! 見たか、これぞわらわの大法力よ!! 宿敵カンウも寄せ付けぬ、見事な力であろう!! もっと褒めてもよいのじゃぞ!!」


「うわぁ、開き直ったよ、この娘」


「大法力のおかげとは、また上手く言ってみたものですね」


「だぞ。ものは言いようとはいえ、ここまで開き直れると何も言えないんだぞ」


 男戦士パーティの女連中の辛辣なこと。

 対して、雇い主である魔性少年は、あははあははと、笑うばかりであった。


 チョウーン戦の後、自律人形オートマタと遭遇することはなかった。

 さしたる戦闘もなくこうして階段へとたどり着けたのだ。

 首尾としては上々と言って差し支えないだろう。


 魔性少年としてはこのフロアを無事に踏破できただけで、満足ということらしい。


 いいの、とでも言いたげな女エルフの視線に、また、魔性少年が微笑む。


「損害が少ないことに越したことはありません。それより問題はここからでしょう」


「そうね」


「ヤミさん」


「うむ? なんじゃ? わらわの大法力をもっと見たいのか?」


「聞かせて貰っても構いませんか? 前回、六階に上がった際に何があったかを?」


 にょほほほほと、高笑いをしていたヤミ。

 しかし、魔性少年のその問いかけには、流石にうっと声を詰まらせた。


 前回のチャレンジにおいて、この五階を踏破したはいいものの、六階で雇っていたパーティを全滅させてしまったヤミである。

 この上のフロアに待っているものの正体について、何か知っているはずだ。


 カンウ攻略には貢献できなかったとはいえ、既に彼らは同盟関係。

 隠し事や情報の出し惜しみはなしだ。


 ここで答えないのなら、ここから先は別行動ということも提案できる。カンウを排除したという実績がないだけに、そう切り出されると立場的に弱い金髪少女。

 流石に、困った様子で顔をゆがめた。


 だが――。


「分からん」


「分からない?」


「どういうことなんだぞ?」


「気がついたら、前を行っていたパーティメンバーが―、突然赤い血煙を上げて倒れたのじゃ。それで、このフロアはまずいと、急いで引き返してきたのじゃ……」


 思い出すだけでも恐ろしい。

 そんな感じに身を震わせる金髪少女。


 すぐに彼女から視線を上げると、男戦士たちはそれぞれの顔を見合わせた。


「……嘘を言っているようには見えないわね」


「血煙を上げて倒れるなんて、いったいどんな魔法を使われたんでしょう」


「姿が見えない系のモンスターでしょうか。けど、それなら精神汚染などの攻撃を仕掛けてくると思うんですがねぇ」


「だぞ。実際に物理攻撃してくるあたりがミソなんだぞ」


 なんにせよ、こういう時に頼りになるのが、男戦士である。


 超重量のフルプレートメイルに身を包んでいる彼だ。

 物理攻撃による奇襲を受けたとしても、一撃で倒されるということはまずない。


 何より、彼の体には鬼族の呪いがかかっている。

 一撃死ということは流石に起こり得ないだろう――というのが、男戦士パーティの出した結論であった。


「よし、では、俺が先陣を切る形で、六階は進もう」


「その後ろにはコーネリア。何かあったら、回復魔法でサポートしてあげてね」


「任せてください」


 女修道士が後ろに待機すると聞いて、男戦士の顔が青く染まった。


 どうやらまだ、一昨日の夜の悪い想像を、彼は引きずっているらしい。

 そんな彼に向かって、何も知らない女修道士シスターは握りこぶしを造って応える。


「大丈夫です!! ティトさんの背中とお尻は、私が守って見せますから!!」


「背中と、!?」


 特に深い意味はない。

 素で、女修道士は言っていた。


 だが、男戦士には恐怖の対象として聞こえてしまったようであった。


 さらに、女修道士は続ける。


「いざとなったら、神の愛をすぐに注入して回復できるように、後ろでスタンバっておきますから!!」


「神の愛を!?」


 彼女が握りしめている野太い杖を見る。

 かつて多くのオークたち(ダジャレではない)に神の愛を挿入し果たしてきたそれである。それが、自分の尻に入ると思うと――。


 ごくり、と、男戦士の喉が鳴った。


「すまない。やはり、後衛はモーラさんに頼めないか?」


「え? どうしてですか?」


「そうよ、コーネリアでいいじゃない。何かあった時に、すぐに治せるんだから、安心じゃないのよ」


「いや、前門の虎、後門の狼というか――肛門の杖というか」


 脂汗をだらだらと流して懇願する男戦戦士。

 パーティのリーダーからそう言われてしまっては仕方ない。

 あっさりと、隊列の編成を改めると、女エルフが男戦士の後ろに回った。


 途端に、ほっと、男戦士が息を吐く。


「ふぅ、やはりモーラさんが後ろだと安心するな」


「どういう意味よ。いつもの感じと違うのは分かるけど、なんか釈然としないわ」


「いや、待てよ――よく考えたら、彼女もどエルフだ。俺が無防備な尻を晒したと分かった途端に、氷魔法でずぶりと」


「しないわよそんなこと。ていうか、なんで味方を攻撃するのよ」


 しないよね、と、切なげな視線を投げかけてくる男戦士。


 しないからと呆れた表情を返した女エルフ。


 かくして、後顧の憂いを立った男戦士一行。

 彼らは、謎のモンスターが待つ、第六階へと足を踏み入れたのであった。

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