第245話 ど男戦士さんとチョウーン

【前回のあらすじ】


 満を持して、カンウが徘徊する五階へと足を踏み入れた男戦士たち一行。


 六階へと到達したことのある金髪少女の案内により進んでいた彼ら。

 その前に、ついに孔明仕込みの自律人形オートマタが姿を現す。


 だがそれは、当初、男戦士たちが想像していた、相手――カンウではなかった。


「ソソ、絶対○す!!」


 それはショーク国を建国した英雄の中で、最後まで戦い続けた大英雄。

 そして、ソソに並々ならぬ恨みを持つ者――チョウーンであった。


 カンウにひけをとらない大英雄の自律人形オートマタの登場に狼狽える一同。

 あわわあわわと、顔が司馬っぽくなる中、やれやれと、立ち上がった男が二人。


 それは男戦士と大剣使いの二人であった。


◇ ◇ ◇ ◇


「どけお前ら!! ろくに戦えもしないのに前に出るな!!」


「ここからは俺たちの出番だ、後ろに下がっていろ!!」


 男戦士たちの上げた声に、おぉ、と、黒服たちがざわめく。

 すぐさま彼らはチョウーンから離れると、男戦士たちにその場を譲った。


 大見得を切って現れた男戦士と大剣使いに、チョウーンが槍を構えて静止する。


 自律人形オートマタ

 意思なき人形のはずである彼であった。


 だが、男戦士たちから発せられる、確かな冒険者としての武威。

 それを前にして、己の迂闊さを悟ったように、突然にその動きが慎重になった。


 そんなチョウーンをよそに、男戦士たちはひょうひょうとしたもの。

 それぞれの得物を手にいつもの調子で気楽に構えていた。


「さて、どうするティト?」


「俺がチョウーンを抑えよう。お前は隙を見て、チョウーンを一撃で仕留めてくれ。その大剣は本来そういう使い方をするものだろう」


「いかにも。ふふっ、流石はティトだ、話が早くて助かるぜ」


「随分と、俺も信頼されたものだな」


「まぁ、無駄話はやめてさっさと仕事に取りかかろう。俺もお前も、黒服に仕事をとられて欲求不満だろう」


「まったくだ!!」


 男戦士がチョウーンに躍りかかる。


 目にも止まらぬ速さとはこのこと。

 フルプレートメイルに身を包んでいるというのに、まったくそのことを感じさせない動きで、敵に接近した男戦士は、激しい打ち合いを繰り広げ始めた。


◇ ◇ ◇ ◇


 チョウーンとの攻防は、まさしく一進一退という感じであった。


 男戦士がいいところまで切り込んで隙をつくる。

 しかし、大剣使いの決めの一撃を、紙一重でチョウーンがかわす。


 そこを狙って、チョウーンが、空振して隙をさらけ出した大剣使いに切りかかる。

 だが、これもすんでの所で男戦士が横やりを入れて、なんとか防ぐ。


 達人同士の戦いに、もはや女エルフたちが手を出す余地はない。

 下手に手を出してしまえば、彼らの呼吸と連携を乱すだけの結果しか招かない。


 男戦士たちを信じて、女エルフたちはその戦いをただ見守った。


「むぅ、なかなかやる!! 貴殿ら、さては名のある将と見た!!」


「残念ながら!!」


「こちとらただの冒険者さ!! おあいにくさま!!」


 自律人形オートマタの称賛をあっさりと否定して、男戦士はさらに剣戟を強める。


 まったく止まらぬその嵐のような連撃。

 ついに、決定的にチョウーンが体勢を崩した。


「今だ!! ハンス!!」


「任せろ!!」


 槍を杖代わりにして体勢を立て直そうとするチョウーン。

 だが、時すでに遅し。


 地面に深く食い込んだ槍を抜き去るより早い。

 ハンスの大剣がチョウーンの背中に、暗い死の影を落としていた。


 ふん。


 肺腑から吐き出したような声とともに、ハンスの大剣がチョウーンの体を一刀の下に両断する。血の代わりに螺子ねじ発条ぜんまいをまき散らし、古の大英雄の体は吹きすさぶ風の中にばらりと崩れたのだった。


「やった!!」


「やったわ!!」


「流石です、ティトさん!! それにハンスさん!!」


 男戦士たちの勝利を讃えてパーティ内から声が上がる。


 むぐぐ、無念、と、最後に声を上げて、ついにこと切れたチョウーン。

 そんな自律人形オートマタを背にして、ふぅ、と、二人はため息をついた。


 ナイスコンビネーション。


 男戦士と大剣使い。

 二人は顔を上げてどちらともなく視線を交わすと、控えめに拳を打ち付けあった。


 それはどこか不器用な冒険者二人が、お互いを認めあった瞬間であった。


「男戦士二人、絵になる光景ですね」


「そうねぇ」


「だぞ、即興のパーティとはとても思えない、見事な連携だったんだぞ」


「ハンスさんの技量については信頼していましたが、ティトさんもなかなかやりますね。あのチョウーン相手に、一歩も譲らないなんてたいしたものです」


 すっかりと仕事を終えた顔をして、仲間の元へと戻って来る男戦士と大剣使い。

 そんな彼らを、チョウーンに一方的にやられっぱなしだった黒服たちは、なんだか複雑な面持ちで出迎えたのだった。


 特に金髪少女などは、あわわあわわと、まだ司馬顔から元に戻っていない。


 強いパーティであるということは知っていたが、まさかここまでとは。

 とまぁ、そういう心地なのだろう。


 それにしたって、自分――を含めたパーティ――のことを守ってくれたというのに、怯えるばかりというのは人としてどうなのだろうか。


 この手のことに気が付くのは、いつだって女エルフである。

 目の前で起こったことに気を取られて、すっかりと放心している少女の前に立つと、自分がやったことでもないのになぜだが誇らしげに胸を張った。


「ちょっと、ソソ絶対○すマンから守ってもらったんでしょ」


「……の?」


「お礼くらい言ったらどうなのかしら、


「のじゃぁっ!?」


 金髪少女が素っ頓狂な声を上げた。


 心ここにあらずという奴だったか。

 突然我に返った金髪少女は、女エルフの言っていることがわからないという感じに目をぱちくりとしばたたかせるばかりだった。


 だから、言うことがあるでしょう、と、女エルフが念を押す。


 しかしながら、それを彼女の背後から止める者があった。


「彼女も予想外の展開に驚いているのだ、まぁ、許してやろうじゃないか」


「……ティト」


 他ならない、彼女たちのリーダー男戦士だった。


 無事に倒すことができたのだから、無粋なことを言うのはよしておこう。

 そう、彼の眼が女エルフに語りかけていた。


 甘いといえば甘い。

 だが、男戦士らしい優しい配慮だ。


 大剣使いもあえて何も言わない。


 戦いの当事者たちが、今の状況に納得している。

 そうであるならば、戦った訳でもない女エルフが何か言うのも無粋だろう。


 しかし、せっかく出て来たというのに格好がつかない。


 ふんと鼻を鳴らした女エルフ。

 少し決まりが悪そうに彼女は頬を膨らませて振り返る。

 そしてそのまま、金髪少女に背中を向けた。


「のじゃぁ。とんでもない奴らと同盟を組んでしまったのじゃ……」


「今更な後悔ですね。けど、頼もしくっていいじゃないですか」


 立ち尽くす金髪少女に声をかける魔性少年。


 もぞり、彼女が内またを擦りながら恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 それをあえて、魔性少年は見てみないフリをしたのだった。


 思いがけず訪れたパーティの危機。

 かくして、それは男戦士たち熟練冒険者の連携で回避されたのであった。


「さぁ、先に進みましょう。また、他の自律人形オートマタが現れるとも限りませんからね」

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