第五章 とらぶる・ばーびねす ~あぁん、ヤミさま~

第239話 どエルフさんと攻略法

【前回のあらすじ】


 男戦士は入るとしても美青年枠(謎)であった。


◇ ◇ ◇ ◇


 一晩あけて、明朝の食堂。

 ユカータ姿で一堂に会した男戦士たち。

 彼らは、食事を採りながら五階の攻略法について考えていた。


「やっぱり姿を隠す系の魔法で、カンウの横を抜けるしかないんじゃないかしら」


「いえ、カンウは透過の魔法を見破る、不思議な力を持っているそうです。姿を誤魔化したくらいでは、とてもではありませんが無理ではないでしょうか」


「だぞ!! だったら先制攻撃なんだぞ!! ズバっと、外に飛ばされる前に、こっちが先に倒しちゃうんだぞ!!」


「どうやってですか? 出会っただけで強制排出されちゃうんですよ?」


「二手に分かれて、一方が囮になるというのはどうだろうか?」


「ハンスさん。今の戦力でも心許ないのに、それはできませんよ」


「では、全員でバラバラに逃げるというのは――」


 議論の内容は収集しない。

 それもこれも、カンウのバケモノ染みた能力のせいであった。


 どうして遭遇しただけで、強制的にダンジョンから排出されるのか。

 理不尽な話もあったものである。


 憤りに、女エルフが、エビの蒸し焼きを皮ごと噛み砕いた。

 そんなことしても仕方ありませんよと、冷静に女修道士シスターはツッコみを入れる。だが、それを女エルフはそっけなく無視してみせた。


 男戦士も、もう、案は出尽くしたという感じでその場にうなだれている。

 しかしながらその食は止まらない。


 空になったお茶碗を給仕さんに差し出して、こんもりとライスをよそってもらう。

 おかずも何もないのに、男戦士はそうして三杯ごはんを食べていた。


 睡眠不足が食欲となって出てきているのだ。


 いや、睡眠不足というか、ストレスなのかもしれない。


 誰だって、そうだろう。

 襲われるかもしれない猛獣と、一つ屋根の下。

 そんな状況で寝ることになれば――ストレスマッハというものだろう。


「ティト。なんか、あんた昨日にも増して顔色悪くない?」


「うん、あぁ、大丈夫だ。心配してくれてありがとう、モーラさん」


「睡眠不足は冒険者の敵ですよ」


「だぞ。管理不足なんだぞ」


「集中力を保つためにも、しっかり睡眠をとらないとダメですよ、ティトさん」


「鍛錬が足りないな、ティト」


 誰のせいでこうなったのかとばかりに、女修道士と大剣使いが声をかける。


 ちなみに、この二人は、男戦士と打って変わって、疲れた素振りなど微塵もない。

 昨日も大爆睡、タターミとオフトゥンの恩恵を受け、体力は万全に回復していた。


 こっちの気も知らないで、と、男戦士が四杯目にかかろうとしたその時。


「そう言えば、誰だったか――六階まで攻略したって言ってた気がするんだぞ」


 一人、攻略法について真面目に考えていたワンコ教授が、唐突に呟いた。


 誰だったか、というのは、その名前を思い出せないから。


 そう、それは一昨日のこと。

 この旅館で出会った迷惑な客――金髪少女のことだった。


 ふむと魔性少年が顎先に手を当てる。


「彼女はなんで六階に行くことができたんだぞ? おかしいんだぞ。カンウが居るのなら、彼女だってきっと、ダンジョンから強制排出されてしまうんだぞ」


「――そこに気が付かれるとは、流石はケティさんですね」


 まるで、自分もそれを考えていたとばかりだ。

 魔性少年がワンコ教授の発言を素直に認めた。


 そして、実は……と、魔性少年が話だそうとした時だ。


「にょほほほ!! 聞いたぞえ、五階でカンウごときにいいようにやられて、ダンジョンを追い出されて来たそうじゃのう!! 哀れな奴らじゃ!! 愉快愉快!!」


 朝食の場に、突然、甲高い少女の笑い声が木霊した。


 かと思えば。

 一糸乱れぬ靴の音と共に、黒服を着た一団が、男戦士たちの居る食堂へと現れる。


 子供サイズのユカータをはためかせて、仁王立ちするのは件の少女――。


「お前は!!」


「大法力の!!」


 そこまで言って、男戦士たちパーティの声が止まった。


 つっかえるように。


 困惑したのは金髪少女の方だ。


 まさに彼らの話題に自分が昇るのを待ち、満を持して登場した。

 だというのに、この扱いはなんなのだろうかと、眼をしばたたかせている。


「なんじゃ、どうしたのじゃ。なんでそこで言いよどむのじゃ」


「――いや」


「名前、なんだったかなって、出てこなくって」


「なんでなのじゃ!! 一昨日、あれだけ濃ゆい絡みをしておいて、なんで忘れるのじゃ!! おかしいのじゃ!!」


 ぷんすこ、と、怒る、金髪少女。

 そんな彼女を指さして、ヤ、ヤ、と、男戦士が呟いた。


「そう、ヤ、から始まり、そしてミで終わる」


「ヤ……ミ……ヤ……ミ」


「そうそう!!」


 あと少し。

 もうちょっと。

 というか、ほぼ言ってる。


 という所で――そこは男戦士クオリティ。


「ヤンキーマミー!! ヤンキーマミーさんじゃないか!!」


「そうなのじゃ、わらわこそは、ヤンキーでありながら溢れ出る母性により、世の疲れた男に極上のバブミを与ええるヤンキーマミー……って、コラーッ!!」


 男戦士の安定のボケに、絶妙のノリツッコミを見せる金髪少女。


 そんなやりとりをしながらも、男戦士はまた、ごはんのおかわりをしていた。

 まったく真面目に答える気など、微塵もなかったようだ。


 しびれを切らしたように、金髪少女が地団駄を踏む。


「あぁもう!! ヤミなのじゃ!! 大法力のヤミ!! 忘れるでない!!」


「おぉ、そうだった。確か、そんな名前だったな。ヨミさん」


「それは触れちゃいけない元ネタなのじゃ!!」


 普通の人間相手にボケるのは、久しぶりなんじゃないかなぁ。

 そんなことをぼんやりと思いながら、女エルフは男戦士と金髪少女のやり取りを眺めるのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


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 ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。


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