第240話 ど魔性少年と超能力少女
【前回のあらすじ】
超強力エジェクトモンスターにして孔明の罠。
カンウの存在に頭を悩ませる男戦士たち。
その時である、ワンコ教授の灰色の脳細胞が突如としてきらめいた。
彼女は五階フロアを突破するひとつの可能性を導きだしたのだ。
「だぞ。そう言えば、誰だったか――六階まで攻略したって言ってたような」
と、そんなところに。
にょほほほ、と、お嬢笑いで現れるその誰だったか。
そう彼女こそは!!
そのヤンキーでありながら溢れ出る母性により!!
世の疲れた男どもに極上のバブミを与える女!!
ヤンキーマミーであった!!
「って、違うのじゃ!! ヤミなのじゃ!!
「ぽっと出のキャラなのに、あらすじに介入してくるなんて、侮れないわね――」
◇ ◇ ◇ ◇
「にょほほほ!! このダンジョンにカンウが出るのは周知の事実。だというのに、なんの備えもしておらんかったのかえ!!」
「むっ、そうなのか?」
「まぁ一応出るということは知っていましたが……」
「お主ら、それでも本当にバビブの塔の頂上を目指す冒険者なのかのう!!」
「――あんですって!!」
取り巻きたちとのいざこざがあったせいだろうか。
それとも、単純に侮辱されたのが腹立たしかったのだろうか。
金髪少女のあきらかな挑発に乗って女エルフが立ち上がる。
よよと、少し驚いた金髪少女。
しかし部下である黒服たちの手前、すぐに強気の態度に持ち直す。
「準備不足であろう。最上階を目指すのであれば、当然、カンウの対策は考えておくべきである。それを怠ったのは――マヌケとしか言いようがないのう」
「なっ……知らなかったものは知らなかったんだから、しょうがないじゃない!!」
「なんと、子供の理論ではないか!! みんな、聞いたかえ!!」
はっはっはっは、と、金髪少女に合わせて女エルフを笑い飛ばす黒服の男たち。
これに、完全に女エルフがぷつりと来た。
ユカータ姿に、杖もないという状況ではある。
しかしながら魔法を使うはエルフの特技。
彼女はそんな状態でも魔法を無理やり行使しようと呪文を唱え始めた。
そんな彼女の口を急いで、隣に座っていた
「なにしようとしてるんですかモーラさん!! こんなところで魔法なんて使ったら危ないですよ!!」
「止めないでコーネリア!! 私はそこの世間知らずのお嬢ちゃんに、一発きついお灸をすえてやらないと、気が済まない――今、そういう気分なのよ!!」
「気分で人に迷惑かけてたら、モンスターと変わりありませんよ!!」
離せ、離せともみ合う二人。
朝から騒がしい奴らじゃのうと、勝ち誇った表情で金髪少女はそれを眺めていた。
そんな彼女たちの間に割って入るように、魔性少年がその場に立ち上がる。
「コーネリアさんの言うとおりです、モーラさん」
「コーイチくん?」
「怒りは分かりますが、今回の一件はあきらかに僕たちの準備不足による落ち度です。彼女の言葉に言い返すのは、冒険者として恥を上塗りするだけでしょう」
「――けど!!」
「すみません。さっきも言いましたが、カンウの存在は塔に入る前から知っていたんです。それでも、まさかあんな低い階層から、遭遇することになるとは思っていなくって。ティトさんたちパーティの落ち度ではありません。これは、必要な情報を持っていながら、適切に皆さんに提供することのできなかった、僕の落ち度です」
なので、笑うのならどうぞ僕だけを笑ってください。
そう毅然とした態度で、魔性少年はヤミたちに迫った。
背筋をピンと伸ばし、仲間を守らんとして立ちふさがる紅顔の美少年。
その姿に、流石に金髪少女たち一党の笑い声も消沈した。
このような立派な男を、笑い飛ばしていいものか、と、良心が痛んだのだ。
ものものしい朝の食堂に静寂が訪れる。
おほん、と、それに耐えかねたような咳ばらいを入れたのは金髪少女であった。
「なに、すまんかった。
「いえ、事実は事実です。準備不足であったことは否定しようがありませんから。笑われても仕方ありません」
「しかし、準備してカンウはどうにかなるものでもあるまいて」
「いいえ攻略方法について、僕は一応把握しています」
そう言い切って見せた魔性少年。
ほう、と、その言葉に興味深げな視線をなぜか金髪少女は向けた。
どうやら彼も彼女も、攻略方法について、心当たりがあるらしい。
と、ここで思いがけず声を上げたのが女エルフである。
「ちょっと、それならそれで、先に準備しておいてよ!! そしたら、こんな所で高い宿をとらなくってもよかったんじゃない!!」
今度は仲間に噛みつく女エルフ。
いよいよ、ヒステリックが止まらなくなってきた。
彼女を、女修道士に加えて、ワンコ教授、そして男戦士までもが止めにかかる。
すみません、と、また、それに謝って、魔性少年は金髪少女の方を向いた。
その視線に応えるように、堂々と胸を張って構える金髪少女。
一昨日は魔性少年の視線にたじろいでいた彼女であったが。
今回はまったくそんな素振りが見られなかった。
「ヤミさん、貴方は六階までバビブの塔を攻略したんですよね?」
「その通りじゃ。いつぞや、風呂場を出てすぐの広間で、そう言うたであろう」
「つまり、カンウと遭遇しても、強制的にダンジョンから排出されなかった――そういうことですね?」
どういうことだ、と、今まで騒いでいた女エルフの動きが止まる。
男戦士も、女修道士も、そしてなによりワンコ教授が、その言葉に驚いた。
強制的にダンジョンから排出するのがカンウ。
なのに、排出されないとはこれいかに。
女エルフの暴れっぷりなどまったく意に介さないという感じで、魔性少年と金髪少女のやり取りは、いま、まさに大事な局面を迎えていた。
「その通りじゃ、
「――このバビブの塔を攻略するのには、優秀な冒険者と共に、カンウと遭遇した時のために用意しておく人材があると聞いています」
「にょほほほ、ちゃんと勉強しておるのう。偉いのう、賢いのう、聡明だのう」
では、その聡明な脳みそで、主は今何を考えている。
金髪少女の小悪魔的な微笑みが魔性少年へと向けられた。
その微笑みを受け止めて、魔性少年は表情を崩さずに答える。
「ヤミさん、貴方はもしかして、【ソソの一族】の血を引く者ではありませんか?」
「ソソの」
「一族?」
ワンコ教授と女エルフが魔性少年の言葉を反芻するように呟いた。
――そして、その横で。
「粗相の」
「一族!!」
男戦士と女修道士があり得ない聞き間違いをした。
粗相とは、いったいどういう粗相だろうか。
女性の粗相と言えば、悶々と頭の中に浮かんでくる妄想はひとつしかない。
まさか彼女は、そういう恥じらいのある乙女なのか。
と、男戦士たちが目を見開く。
「これは一大事ですよ、ティトさん」
「あぁ、コーネリアさん。粗相の一族だなんて出てこられたら、どエルフとして、モーラさんがきっと黙っていないはず」
「なんでよ」
「おモーラさん、張り合わなくて大丈夫なんですか!!」
「おモーラさん!! 粗相なんてそんなことして大丈夫なんですか、三百歳のエルフがそんな特殊なプレイ!!」
「ソソの一族!! あんたらの聞き間違い方がよっぽど粗相よ!!」
耳の先まで真っ赤にしてツッコむ女エルフ。
まぁ、名前をもじって弄られれば、そうなってしまうのは仕方ないだろう。
「三百歳で粗相だなんて。俺だったら、きっと生きていけないのに」
「私だって、生きていけないですよ」
「流石だなどエルフさん、さすがだ……」
「流石ですどエルフさん、さすがです……」
「だから違うって言ってるでしょうが!! もうっ!!」
いやしかし、三部ともなると、ネタの幅も広がるなァ。
その方面まで手を広げるなんて、流石ですねどエルフさん、さすがです。
「なにがじゃぁい!! 広げさせてんのは
◇ ◇ ◇ ◇
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本作のサブキャラ、ヨシヲとビクターが活躍する番外編「【どエルフさん外伝】俺の名はブルー・ディスティニー・ヨシヲ」の連載を開始しました。
ノベゼロコン参加作品になります。
ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。
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