第238話 ど戦士さんとまた眠れない夜

【前回のあらすじ】


 ついに地図のない五階へと到達した男戦士たち。

 しかし、そこに待ち受けていたのは、えげつない孔明の罠であった。


「ジャーンジャーンジャーン」


「「「「「「げぇっ、カンウ!!」」」」」」


 孔明が仕掛けた最強の自律人形オートマタにして、ショーク建国の英雄カンウ。

 それに出会うことにより、彼らはダンジョンの外に強制排出――昨晩泊まった宿の露天風呂へと飛ばされてしまうのであった。


 おそるべし、カンウ。


 さぁ、貴方の後ろからも聞こえてきませんか――銅鑼の音が。


「ジャーンジャーンジャーン」


※この作品はお気楽ギャグファンタジー作品です。


◇ ◇ ◇ ◇


 ダンジョンから排出されてしまったのなら仕方ない。

 早々に再攻略を諦めた男戦士たちは、高級旅館『暴れ天堂』の露天風呂から出ると、女将に頼んで着替えを用意して貰った。


 交換条件として、連泊を提示されたが――そこは魔性少年が僕が払いましょうと申し出たことですんなりと解決した。


 何かと金欠気味な男戦士たち。

 道具屋のことに続き、願ってもみない申し出である。


「一族の宿願のため、大金を預かって来ているのですよ。なので、ここでの冒険の費用についてはご心配なく」


「そうか、そう言ってもらえると助かるよ」


「持つべき者は羽振りのいい依頼主よねぇ。悪いけど、全力で甘えさせてもらうわ」


「やったんだぞ!! また、タターミの上で寝られるんだぞ!!」


「とはいえまた登り直しですか。それを考えるとちょっと気が滅入りますね」


 はぁ、と、一同の間に溜息が満ちた。

 そんな中、一人だけ、真面目な顔をして考えているのは――やはり魔性少年だ。


「あるいは、もしかして」


「どうしたコウイチくん。何かカンウを攻略する方法に心当たりでもあるのか?」


「ないないある訳ない。エンカウントで強制排出とか、幾らなんでも反則でしょ。あれを止めることができる方法があるって言うなら、私は裸で熱々のスパゲッティ食べながら、街の中を練り歩くわよ」


「――モーラさん、言いましたね? 女に二言はないですよ?」


 女修道士シスターの確かに聞いたぞというしたり顔が女エルフに向く。

 負けじと女エルフ、えぇ、やってやろうじゃないの、と、それに応戦した。


 裸で熱々のスパゲッティを食べながら街を練り歩くだって。

 と、驚くのがいつもの男戦士。


 だが、今はまだダンジョン探索モード。

 魔性少年の意味ありげな表情の方に、彼は食いついていた。


 しかし――そんな男戦士の視線の甲斐もなく。


「いえ、僕の気のせいだと思います。カンウについては、見つからないように、細心の注意を払って五階を進むしかないでしょう」


 そう言って、いつもの魔性の笑顔がかすんだ。

 それは、彼が珍しく見せた幾ばかりか頼りのない返事であった。


◇ ◇ ◇ ◇


 さて。


 潤沢なダンジョン攻略資金を持っている。

 とは言っても、無尽蔵にそれを使えるわけでもない。


 節約するべき所は節約するというのは、冒険者の心得だ。


「男性と女性で、ちょうど三人ずつですし、ここは部屋を二つとって、女性陣・男性陣で寝るというのはどうでしょうか?」


「賛成よ。せっかくのいい宿なのに、ティトのせいで昨日はくつろげなかったしね」


「そんな言い方はないだろうモーラさん」


「日がな一日青い顔して、ぼうっとされてりゃ、こっちも気分が滅入るわよ」


 と、いう訳で。

 魔性少年の提案により、男戦士は女エルフと別れ、彼らと一緒の部屋で寝ることになったのだった。


 金の心配はしなくてよくなったので憂いはない。

 女性陣――特に女修道士シスター――の目もないということで、余計な心労もない。

 今日は疲れた。せっかくだから目いっぱい休もう、そう、思った男戦士であった。


「すまないな、コウイチくん、それにハンス。悪いがご一緒させてもらう」


「何も謝ることなんてないですよ」


「そうだ。男同士なのだ、気兼ねすることなどないだろう」


 まったくその通りだ。

 優しい雇い主と同僚の言葉に、思わず男戦士がうるりと瞳を滲ませた。


 今はこうして女所帯のパーティだ。

 だが、そのうち男のメンバーも入れたいものだな。


 男戦士はそんなことをしんみりと思うのであった。


「じゃぁ、より親睦を深めるためにも、男同士で裸の付き合いでもするとしますか」


「露天風呂か。そうだな、昨日はなんだかんだで楽しむことができなかったからな」


「いい提案だ、コウイチ」


 さっそく浴衣に着替えると、とんぼ返りに大浴場へと向かう男戦士たち。

 自分たちが排出された露天風呂へとやって来ると、股間を手拭いで隠しながら、三人そろって仲良く湯船に浸かったのだった。


 ふぅ、と、男戦士から気の抜けたため息が出る。


「そういえば、ティトさんは、どうして冒険者をしておられるんですか?」


「えっ? まぁそうだな――話せば長くなるんだが、一言にすれば成り行きかな」


「それなら、俺も成り行きということになる」


 神妙な顔つきで、大剣使いが頭の上に手拭いを載せて言う。


 大きな剣を振るうだけはある。

 その股間にぶら下がっているものも、たいそうに大きい。


 それこそ、大剣の柄くらいはありそうなそれを垣間見た男戦士は、うっ、と、自分のそれのサイズと比べて萎縮してしまった。


 まぁ、それのサイズが戦士技能のレベルに関係する訳ではない。

 何も落ち込むところはないのだが――まぁ、男なのでそこは仕方ないだろう。


「もうちょっと、詳しく聞かせてもらいたいものだが」


「勘弁してくれないか。仲間たちにも、まだ話していないことなんだ」


「そうなんですか」


「あぁ――いろいろとしがらみが多くてな」


「冒険者なんて、そういう奴らばかりさ。真っ当な日向の道を歩けなくなった食いつめもの。分かるぞティト、同じ冒険者として、お前の苦労は」


 そう言ってくれるか、と、男戦士がまたしても大剣使いの言葉に顔を緩ませた。


 同性の仲間というのはいいものだな。

 そう、彼は心の底から感じた。


 ふふっ、と、二人に挟まれた魔性少年が楽し気に笑う。


「ちなみに、ハンスさんはなんで冒険者を?」


「俺か、俺はな――」


 遠い目をする大剣使い。


 頭の手拭いを湯船の中に落とし、それでもかまわず天を見上げる。

 青く映える空に白い雲が優しく揺れていた。


 それを少しの間だけ眺めると、彼は過ぎ去った何かを懐かしむように瞳を閉じた。


 彼にもきっと、深い事情があるのだろう。


 こんなもったいつけた素振りを見せた後ではあるが。

 言えない、と、大剣使いが言い出しても、それは責められないことだ。


 男戦士が同情的にそう思った時だ――。


「ショタエルフ趣味が同僚にバレてな。ホ○野郎の汚名を着せられて、所属していた騎士団を追い出されたんだ」


「へぇ、そうだったんですか」


「俺は言ってやったよ。ホ○とショタは違う。ショタは尊いものであって、愛でるものだと。手を出してはいけない、神聖にして不可侵な存在なのだとさ」


 そう言いながら、ふっと大剣使いが魔性少年の方に視線を向ける。

 彼の眼は、魔性少年の、顔でもなく、肩でもなく、そして股間でもなく――。


 桜色をした乳首を見ていた。


 途端、男戦士の背筋に悪寒が走った。

 これは本当に、男同士の裸の付き合いなのだろうか。


 そして、この自称ショタエルフ好き。

 本当にエルフの少年にしか興味を抱かないのか。


 あるいは目の前の魔性少年の容貌につられて、いまここにいるのではないか。

 もしくはもっと守備範囲が広くて――自分もその守備範囲内ではないのか。


「……すまない、ちょっとのぼせてしまったようだ。先に上がらせてもらう」


「え、まだ、入ったばっかりじゃないですか」


「どうやら、ちょっと疲れが残っているようだ」


 そんなやりとりをする間も、魔性少年の桜色をした乳首を凝視する大剣使い。

 彼にそこはかとないやばさを感じながら、男戦士はその場を後にした。


「大丈夫だ、俺は入るとしても美青年。安心しろ、ティト。少年ではない――」


 そう自分に言い聞かせながら。


 当然、その夜も、男戦士は満足に眠ることができなかった。


◇ ◇ ◇ ◇


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 ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。


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