第237話 どエルフさんと五階の門番

【前回のあらすじ】


 女エルフは触手先生であった。

 植物系触手を極めるべく、千の、いや――マンの植物系触手を自らの手で集め、使い、そして、その使用感をレビューする。


 彼女は語る。植物系触手は、育ててくれた育て主の愛に、確実に応えてくれると。


「言うとらんから!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 その後も、次々と湧き出る毒系モンスター。

 それを、女エルフの植物魔法、また、時には力業で駆除して進む男戦士たち一行。


 ようようなんとか、地図の通りに最短経路を通ると、彼女たちは五階へと続く階段の前へと辿りついたのであった。


「ふぅ、なんとかなるものね」


「まだ一日も立ってないんじゃないか」


「だぞ、順調順調って、奴なんだぞ!!」


「けれどもそろそろ野営でもして英気を養いたいところですね……」


 ただ、この毒虫がいつ沸いて出るか分からない、四階で野営をするという気にはちょっとなれない。

 となると五階に上がるしかなないのだが――。


「五階の地図は――」


「残念ながら、地図があるのはここまでなんだよね。五階以降はモンスターのアイテム収集効率が悪いから誰も入りたがらない――って、これ、前にも説明したよね?」


 そうね、いつぞやの旅館でそんな話もしたわね、と、女エルフ。


 まだお互いのことをよく知らず、たまたま、旅館で顔を会せた時のことを思い出す男戦士と魔性少年たち。


 その時の言葉に偽りはない。

 五階以降のマップは実際に店では売られていなかった。

 それより上がどうなっているのか、彼らにはまったく分からない状況であった。


「ただ、ここから強力な番人が待ち受けていると、話には聞いたことがある」


「強力な番人?」


 あぁ、と、頷いたのは、魔性少年ではなく大剣使いの方だった。


 冒険者仲間に相当なツテがあるらしい大剣使い。

 彼は、男戦士の視線を受けてそっと眼を瞑った。

 まるで誰かから聞いた言葉を、思い出すように――。


「塔の五階から上には、軍神ミッテルの加護を受けた様々な罠。そして、その罠に合わせてコウメイが作った、自律人形オートマタが徘徊しているという」


自律人形オートマタ!!」


「だぞ、自立人形オートマータだなんて、是が非でも手に入れたい魔法遺物オーパーツなんだぞ!! すごいんだぞ!! そんなのが徘徊してるなんて!!」


 一人喜ぶワンコ教授。

 しかし、作ったのがあのコウメイと聞いて、女エルフたちは顔を見合わせた。


 嫌なことにならなければいいのだが――。


「ただ、とにかくここに居ても、毒モンスターの相手を夜な夜なし続けなくてはなりません。ここはひとつ、無理を承知で上がってみましょう。上の階に」


「――そうねぇ」


「もしかすると、意外にたいしたことがないかもしれないしなぁ」


 魔性少年の提案に、しぶしぶ、という感じで頷いた男戦士たち。

 かくして、男戦士たちパーティは、地図のない五階へと向かったのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「――なに、これ」


「――川が、燃えている?」


 夜。


 上がったばかりの、五階フロアは、なぜか闇によって支配されていた。

 夜目が利くワンコ教授の案内に従い、進むこと数分、たどり着いたのはなぜだか、広大な川だった。


 そして、その広大な川がどうして、真っ赤に、真っ赤に、燃えているではないか。


 これはいったいどういう状況なのだろう。


「川が燃えるとはこれいかに。モーラさん、これも幻術か何かなのだろうか?」


「そうだと思うけれども、意図がよく分からないわ」


「さっさと階段を見つけて、六階に行ってしまうというのはどうでしょうか――」


 そんなことを口走った矢先のことである。

 ぱっと、世界が明るくなった。


 かと思うと、いきなり荒涼とした風があたりに吹きすさぶ。

 暗くてよく見えなかった男戦士たちの目の前に、小高い丘が突如現れた。


 うぉう、うぉう、と、聞こえてくる兵士たちの鬨の声。


 これはなんだ。

 いったい何が起こっているんだ。


 男戦士たちが大河を横にして辺りを見回した次の瞬間であった。


「ジャーンジャーンジャーン」


 鳴り響くのは重低音。

 シンバルの音とはまた違う。

 しかし、この荒涼とした大地と、大河――。


 そんなスペクタクルな風景には、絶妙にマッチする効果音であった。


 思わず、顔がシンプルな感じになる女エルフたち。


「これは……」


「銅鑼の音?」


「……まずい!! 皆さん、急いで隠れてください!!」


 え、なに、どういうこと、と、女エルフが叫んだ時だ。

 それは突然に彼女たちの前に姿を現した――。


 長い髭を振り乱し、荘厳な威容を肩から発し、赤い毛色の馬に跨った大男。

 青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを手にした、ナイスダンディ自律人形オートマータは、彼らの手前にあった丘の稜線を越えて突然に現れた。


 知らずとも、その姿を見ればその言葉が口を吐く。


 そういう仕様。


 いや、お約束なのだ。


「「「「「「げぇっ、カンウ!!」」」」」」


 それは男戦士たちがバビブの塔の一階で拝んだ毛髪の神様。

 そして、このミッテルの塔を建立した、ショーク国の建国の勇士、その人を模した自立人形オートマータであった。


 これに出会ってしまったが最後、オチはもう決まっている。


「しまった!! まさか、こんな早い段階から仕掛けられているとは!!」


 そう叫んだ瞬間である。

 ふっと、男戦士パーティ、そして、魔性少年の姿がその場から消えた。


◇ ◇ ◇ ◇


 どしゃり。


 ばしゃり。


 べしゃり。


 音を立てて男戦士たちが落下したのは、過日、世話になった高級旅館『あばれ天堂』の温泉の上。


 その男子風呂に唐突に転移した彼らは、冒険装備の湯船につかったのだった。

 もちろん、まったく意図せずに。


 各々、突然の事ではあったがとくに溺れるということもなく、唖然とした感じで、その場に身を起こすとお互いを見回した。


 空はまだ、夕暮れに染まっている頃。

 かぁかぁと、男戦士たちの帰還を笑うように、カラスが遠くに鳴いている。


「えっ、ちょっと、なにこれ」


「ど、ど、どういうことなんだぞ」


「――あれはコウメイが用意した最強の自律人形オートマータ。カンウ」


「最強の自律人形オートマータ!!」


「カンウ!?」


「そう!! そして、出会うと――ダンジョンから強制排出されます!!」


「「「「強制排出されるぅッ!?」」」」


 排出されてしまってから、そんなことを言われても困る。

 そんな感じの棘を言葉の中に潜ませて、男戦士たちは何やら訳知りの魔性少年を睨んで叫んだ。


◇ ◇ ◇ ◇


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 ノベゼロコン参加作品になります。


 ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884321155

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