第233話 どエルフさんとダンジョン砂漠

「――熱い!! なにこれ、どうなってんの!?」


「砂漠!! いきなり、砂漠が現れましたよ!? ダンジョンなのに!?」


 ここはバビブの塔の第三階。


 通称、砂漠と蜃気楼のフロア。


 階段を上がるなり、眩いばかりの太陽光と肌を焼くような熱風が吹き付ける。

 とてもじゃないが対策なしには進めない。すぐさま、二階へと続く階段に戻ると、ふぅと、男戦士達一行は息を吐いた。


「あははは、いやぁ、地図に描かれていた時には、まさかと思いましたけれど」


「ちょっと!! 知ってたならそういうの早く言ってよ!!」


「本当に砂漠になっているなんて思わないでしょう」


「あやうく干からびるところでした」


「だぞ。びっくりなんだぞ」


「スライムを浴びておいたからだろうか、意外と熱は感じなかった。だが、長く居たら大変なことになっていたかもしれないな」


 三階の地図を広げる魔性少年。


 なるほど彼が道具屋で買ったというそれには砂漠の間と書かれていた。


 障害物は何も書かれていない。

 ほぼほぼ、白紙の紙の上に、今自分たちが居る階段と、次の四階へと続いている階段の位置が記されているだけだ。


 これを見て、まさかそんなと信じない方がどうかしている。

 魔性少年が抱いた疑念はそれほどおかしなものではなかった。


「おそらく魔法で造りだした疑似世界のフロアね」


「さらっと言いましたけど、大規模魔法じゃないですか」


「そうよ。しかも、これだけ大掛かりな魔法となると、解除するのは困難だわ」


「では、どうするんですか、モーラさん?」


 女修道士シスターが女エルフに問うた。

 もちろん、答えは決まっている。


 魔法に対抗できるのは、魔法使いしかいない。


「暑さは、私が冷却魔法を使ってなんとかするわ。それで、その地図にある階段まで、一気に向かいましょう」


「――それしか無さそうですね」


「だぞ」


「スライムをみんな頭から被ってネチョっていけば、大丈夫なんじゃないだろうか」


 男戦士は黙っていて、と、女エルフが釘を刺した。

 フルプレートメイルで透けるところのない男戦士。彼だからこそ、それはできたのであって、薄い服を着ている女エルフたちがしたら大参事である。


 いや、サービスシーンになるからやるべきなのだろうけど――。

 まぁ、そこは胸と一緒に女っ気もない女エルフさんだ。


「なんか言ったか?」


 なんでもございません。


 とにかくそんな訳で。

 女エルフの提案により、冷却魔法マシマシで猛ダッシュ――次の階段までガンガン行こうぜ作戦が決行されることになった。


 のだが。


◇ ◇ ◇ ◇


「――お、おかしい」


「どれだけ走っても、全然次の階段に近づけないです」


「だぞ。あんなに近くに見えるのに。どうしてなんだぞ」


「うぉーっ、スライム、もうひとかぶり!! いやぁん、透けちゃうぅうぅ!! フルプレートメイルなのに、スケスケになっちゃうぅうぅ!!」


 男戦士一行は、かれこれ四半刻ほど、四階への階段に向かって駆けていた。


 にも関わらず、一向にそこにたどり着けない、たどり着くことができない。

 どれだけ駆けても駆けても、階段に近づけないのだ。


 遠くに熱気で揺れる階段。

 その姿は、どれだけ駆けても近づくこともなければ、遠ざかることない。


 この妙な違和感。

 作戦を立案した女エルフはただならない責任と焦りを感じていた。


 なんにしても、これ以上、冷却魔法を使い続けるのはまずい。

 これより上の階を攻略するのに支障が出てしまう。


「モーラさん。ここは一旦引き返しましょう」


「僕もそれに賛成ですね。どうもこのフロアには、何か、疑似世界の魔法以外にも、何かがかけられているらしい」


「――そうね、闇雲に突っ込んで、体力を消耗してもしかたないものね」


 女修道士と魔性少年の的確な判断に、女エルフが冷静になる。


 冷却魔法のおかげで、頭は冷えているつもりだった。

 だが、どうやら、随分とヒートアップしてしまっていたらしい。


 はぁ、と、ため息を吐き出して、後ろを振り返る女エルフ。

 するとそこに――。


「えっ? ちょっと、なんで?」


 あり得ないものが目に入る。

 これには、男戦士をはじめとした一同が、すぐにその眼を疑った。


 それは、そう、間違いなく。

 


 それがすぐ傍、振り返ったすぐそこに存在していたのだ。


 四半刻も駆けていたというのに。

 これは、いったいどういうことか。


「どうして? あれだけの時間走っていたというのに」


「私たち、一歩も階段の近くから進めていなかったということですか?」


「これはどういうことでしょう」


 女エルフ、女修道士、そして魔性少年がじっとその階段の入り口を見る。

 夢か幻かこれは現実なのか。


 近くに階段があったのは嬉しいが、謎は深まるばかりである。

 そんな彼女たちをよそに――。


「ひょーい!! まだ暑ーい!! フルプレートメイルだから、排熱性最悪だぜ!! もういっちょ、スライムチャレンジいきまーす!!」


 もはや太陽光と、フルプレートメイルの中で蒸しあげられた熱気によって、知力1まで奪われた男戦士が、また頭からスライムをかぶっていた。


 よくやるわ、と、女エルフ。

 仕方ないにしても男戦士に向かって、彼女は軽蔑の眼差しを向けた。


「むはーっ、世界が歪んで見える。けど、気持ちイィ!! サイコォオ!!」


「世界が、歪んで、見える?」


 はっとその時、女エルフは何かに気がついたようだった。

 それよ、と、彼女が男戦士の方に向かって叫ぶ。


「それだったんだわティト!! ありがとう貴方のおかげよ!!」


「俺のおかげ!? 何だか知らんが、俺が濡れ透けになることで、モーラさんのピンク色の脳細胞が活性化したんなら、よかったってもんだ!!」


「それを言うなら灰色の脳細胞でしょ!!」


「またまた、年中ピンクピンクなことを考えてるくせにぃ!!」


 褒めた手前であれだけど、まったく感謝する気が失せた。


 女エルフが握りこぶしを造り、男戦士に向かって振りかぶる。

 それをすんでのところで、女修道士がまぁまぁと止めた。


◇ ◇ ◇ ◇


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 ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。


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