第231話 どワンコ教授とレッドスライム

【前回のあらすじ】


 この小説は、青少年の健全な育成のため、日夜作者が未来ある若者たちに夢と希望と適度な性知識を与えたいと、病床にありながら書いたものになります。


 げほげほ。


 どうか私の書いたこの話が、これからの未来を創る子供たち、そして、子供の心を忘れずに厳しい現実社会と戦う企業戦士ともたちに、少しでも力になってくれれば、幸いです。


 えほえほ。


写真加工魔法フォト○ョップとは、怖いものですね」


「やめい!!」


「まぁ、ある意味で、バブみは加工前より増したような、そんな感じもしないでもないわけですが」


「だからやめいと言うとろうが!!」


 なので、このティトたちの一連の会話も、そんな切なる願いを込めて――。。


 えほ!!


 げほぐふ!!


 ぐはぁっ!!


 はぁ、はぁはぁ――!!


◇ ◇ ◇ ◇


「へぇ、説明の通り、二階は結構静かな感じね」


「だぞ。けれども迷宮になってるんだぞ」


「下の広さから考えると、なかなか攻略し甲斐のあるダンジョンのようですね」


「よし!! 気合を入れていくぞ、みんな!!」


 おう、と、男戦士たちが張り切る前で、はらり、魔性少年がなにやら紙筒を開く。

 はて、なんだろうかと一斉に彼らが振り向くと――。


「二階の地図です。先ほど道具屋で買っておきました」


「な、なんだって!?」


「四階までは、モンスター素材の収集スポットですからね。自分たちでマッピングするまでもなく、こうして、既にマッピングしたものがあるんですよ」


「それじゃ、四階分の地図も」


「もちろん購入済みですよ」


 ダンジョン攻略の最大の醍醐味であるマッピング。

 それが既に終わっているという事実に、なんだか機先を削がれた男戦士たち。


 先ほど気合を入れたのはなんだったのだろうか。

 そんな感じのどんよりとした空気がさっそく周囲には満ちていた。


 と、そんな彼らを笑い飛ばして魔性少年。


「まぁ、最短ルートが分かっていても、無事に踏破できるかは別問題ですから」


「それは確かに、そうだが」


「やっぱり自分たちで攻略している感って、大事だと」


「それは五階までとっておきましょう――それよりも」


 さっそくお出ましみたいですよ。

 魔性少年が男戦士たちから視線を逸らした。


 見れば、階段を上がってすぐの廊下の先――その突き当りから、うねりうねりとスライムがこちらの様子をうかがっていた。


 レッドスライム。

 いわゆる、肉食系のスライム種だ。


 気のせいだろうか、骨のようなものがその体からは伸びているように見えた。


「スライムですね。ブルースライムならともかく、レッドスライムとなると厄介です。溶かされる前に、魔法でちょいちょいと片付けたいところですが」


「結構狭い通路だから、爆発魔法とかは危険かも」


「ですね」


 人が三人並べるかどうかという通路だ。

 レッドスライムは下級モンスター、魔法一発で蒸発するザコだ。


 だがこう狭い通路に陣取られてはやりにくい。


 しかも、曲がり角から三、四、五と、次々に新手が現れる。

 なかなかの大群である。


 そうこうしている内に、彼らはあと数十メートルという距離まで、男戦士たちに近づいてきた。と、ここで、一同の前に出た影がある。


「ボクに任せるんだぞ」


「ケティ?」


 そう言って前に出たのはワンコ教授だ。


 彼女は、腰のポーチから――羽のついた小さな針、肘くらいの長さがある筒、そして何やら薬品の入った瓶を取り出した。

 そして瓶の中に針をぽとりぽとりとスライムの数だけ落としてみせた。

 

 瓶の中かから一つ針を取り出すと、羽の方から筒の中にそれを入れる。

 針を入れたのとは反対側の筒を口元へと持ってくると。


「――ぷっ!!」


 ワンコ教授が勢いよく息を吹いた。


 筒の中を抜けた彼女の息をを、針についている羽が受け止めて、そのまま筒の先から針がすんと飛んでいく。一瞬にして見えなくなったそれは、どうやら、先頭を来るレッドスライムに命中したらしかった。


 途端、レッドスライムがぶるぶると震えて、その場に制止する。

 それだけではない――。


「あれ、スライムの色が」


「変わっていく――?」


 先ほどまで、真っ赤に染まっていたスライムの体。

 それがみるみる内に緑色に変色していくではないか。

 

 ふふん、と、鼻を鳴らして、ワンコ教授は再び筒の中に針を込めた。


「これはスライム中和剤なんだぞ」


「スライム中和剤?」


「肉食のレッドスライム――その毒性を中和してブルースライムに変えるんだぞ」


「おぉ、そんな便利なものがあるのか」


「へぇ、やりますね。流石は賢者セージ技能レベル8だけはあります」


「戦いは頭脳なんだぞ。剣を振るだけが戦闘じゃないんだぞ」


 そう言いながら、次々に、ワンコ教授は吹矢でスライムを中和していく。


 瞬く間に、男戦士や女エルフが出るまでもなく、レッドスライムはブルースライム変換され、無害化されてしまった。


 すべてのスライムが水色に変わる。

 すると、ふふんと、得意げにワンコ教授が胸を張る。


「流石ですケティさん。見直しましたよ」


「やるじゃない」


「俺たちの特訓のおかげかな」


「だぞ!! ボクだってやるときはやるんだぞ!!」


 おみそれしました、と、頭を下げる男戦士たち。

 そんな彼らに、能天気に魔性少年は拍手を送っていた。


 なんだかなと、しまらない顔をするのは大剣使いだ。


「とりあえず、さっさとここを抜けてしまうんだぞ」


「そうですね」


 急げとばかりに大剣使いを先頭にして、スライムの群れを抜ける男戦士たち。

 ふと、その時、男戦士がスライムを一匹、拾い上げた。


 ちょっと何してるのよ、と、女エルフがすかさず彼にツッコみを入れる。


「いや、スライムって、こんな簡単に無害化できるんだなと思って」


「そりゃまぁ、今までこいつらにはさんざん、苦労かけさせられてきたけれども」


「だろう?」


「けど、今、立ち止まってまで感心すること?」


「じゃぁ、モーラさんは、スライムにやられたことを忘れることができるのか?」


「それは――」


 ダンジョンでスライムに襲われる。

 それは、冒険者が避けては通れない、いわば通過儀礼のようなものである。


 鎧の隙間から入り込まれ、体を毒で浸食されて、じわりじわりと体力を奪われる。


 攻撃しても物理ダメージはあまり通らず、魔法攻撃をしかけないといけない。


 基本無害のブルースライムでも、それは変わらない。


 多くの冒険者が、スライムに悩まされた経験が大なり小なりある。


 もちろん、それはモーラにもあてはまった。

 思い出してしまったのか、新雪のように純白なその顔がにわかに紅潮する。


 よほど恥ずかしい目――いや、ひどい目に合わされたのだろう。


「そりゃ忘れることはできないけど。今はそれ、気にしてる場合じゃないでしょ?」


「そうだ、その通りだ。その通りなんだけれども」


「けれども?」


 なんだというのか。


 男戦士の次の言葉を女エルフが真剣な顔をして待つ。

 そんな彼女の眼差しに応えるように、男戦士は静かに口を開いた。


「やっぱり許せないんだ、なんというかこんな簡単に、あっけなくスライムを退治してしまうなんて、間違ってると思うんだ!!」


「――きっちりと、トドメを刺しておきたい。そういうことね、ティト」


「違う!! ダンジョンで、スライムに出会ったのに、ネチョらない!! それって、冒険ファンタジーとして、どうかと思うんだ!!」


「ネチョるのが前提の冒険ファンタジーの方がどうかしてると思いますけど!?」


 スライムチャレンジ!!


 男戦士はそう叫ぶと頭から、スライムをいきなり頭から被ったのだった。


 ワンコ教授の手によって、無害なブルースライムと化したそれ。


 まるでなんかそういうことに使う液体のようにとろりとろりと、それは男戦士の体を包み込み、そして、鎧の中へと入って行く。


「あぁ、いやぁっ鎧の中にスライムが!! あっ、ダメ、そこは敏感なのぉっ!!」


「男のお前がやるんかぁい!!」


 どこに需要があるんじゃぁい。


 おもわず、地の文でもツッコミを入れてしまった。


 もちろん、その衝撃は当事者たちの大きい。女エルフは容赦なく、そして少しの迷いもなく、最後尾になった男戦士に向かって火炎魔法をお見舞いしたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


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 ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。


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