第228話 どエルフさんと窺うもの
【前回のあらすじ】
男戦士は手を洗わない派。
「どうでもいいわよそんな情報!!」
◇ ◇ ◇ ◇
店の裏手にある水がめで手を洗ってきた男戦士。
あらためて固い握手を魔性少年とかわすと、彼らはバビブの塔攻略について同盟を組むことにしたのであった。
「よろしくな。えっと」
「コウイチです。あまり馴染みのない名前かもしれませんが、我々の一族――その代表者が名乗る名前なのです」
「そうか。きっとその名に込められた、何か深い意味があるのだろう」
「ところで、そっちの大剣使いは
あぁ、僕ですか、と、笑う魔性少年。
昨日お見せした通りですけど、そう言いながら、彼は店内を見渡した。
ふむ、と、その視線が定まったのは、壁にかかっているひときわ大きい斧。
そこに向かって手をかざすと、はぁ、と気合のこもった声を、魔性少年は上げた。
それと同時に、がたがたと、斧が大きく揺れて――。
「うぉっ!?」
「斧が宙に浮いた!?」
「魔法使いって訳なの?」
「――いえ、これは超能力と言って。また魔法とは異なる原理のものです」
そう言って魔性少年が微笑むと、宙に浮いていた斧は元あった場所――壁から出ているひっかけの上にストリと軽い音をたてて落ちたのだった。
超能力、という馴染みのない言葉に、首を傾げる男戦士たち一行。
しかし、魔法にしても何にしても、あの重量の斧を持ち上げるのは、なかなかに神経と熟練のいる作業のはずだ。
魔性少年の力は疑いようはなかった。
「他には何かできるのか?」
興味本位という感じに、男戦士が魔性少年に訪ねた。
えぇ、もちろん、と、彼は答える。
「質量を持った幻を出現させたり、意識を失った敵の体を乗っ取ったり、直接的に頭の中に衝撃を与えて気絶させたりとかですね。あとは戦闘以外では、行ったことのある場所に瞬間的に移動することができたり」
「なにそれ、滅茶苦茶便利じゃないの」
「だぞ!! チートなんだぞ!!」
「まるで神話に出てくる伝説の英雄のような能力です!!」
そんな大したものじゃないですよ、と、はははと笑う魔性少年。
いや、大したことはあるだろう。
男戦士たちは絶句した。
頼り甲斐があるんだか、ないんだか、どうなんだか。
「ミッテルが、
「なんにせよ頼もしい限りだ」
「それを言ったらティトさんだって頼もしいですよ。戦士技能レベル7の冒険者なんて、なかなかいませんからね。ハンスさんだって戦士技能レベル6ですから」
「――え? ちょっと、ティト、そんなにレベル上げてたの?」
魔性少年から突然告げられた男戦士の技能レベルに、一同が驚く。
前にも言ったが、技能レベル7とは世に知られた名人くらいの実力である。
事実、ティト自体が技能レベルに無頓着で、申告や確認こそしていなかった。
だが、所属している冒険者ギルド内では、彼の戦士としての実力は――非常に高く評価されていた。
これで本人がもう少し頭が良くて、そして鬼の呪い持ちでさえなければ。
それこそ、冒険者なんていう職業に甘んじなくてもよいのだろうが――。
「そうか、そんなに上がっていたか。しかしまぁ、素直に驚きだな」
「あんた本当にそういうところ無頓着よね。もっと喜びなさいよ」
まったくこの調子である。
そんなやり取りを笑って魔性少年は続ける。
「モーラさんもですよ。魔法技能レベル6に賢者技能レベル6。まさしく魔法使いのお手本というべき技能配分。心強いです」
「あら、おべっかでも嬉しいわ」
「コーネリアさんは、僧侶技能6ですか。これだと蘇生魔法の成功率が高いですね。いざという時は頼みますよ」
「蘇生魔法は教義的にあまり軽々しく使ってはならないのですが。まぁ、こういう事情ですのでしかたないですね」
次々に、仲間の技能レベルを言い当てていく魔性少年。
これもおそらく、彼の超能力の一部なのだろう。
少し面白くない感じに大剣使いが鼻を鳴らす。
その一方で、きらきらとした目で、ワンコ教授が彼の前に歩み出た。
「だぞ!! ボクは!! ボクはどうなんだぞ!!」
「えっ、あぁ、ケティさんは――そうですねぇ」
明らかに魔性少年の顔色が曇る。
いわんや、彼の感じていることが、なんとなしに男戦士たちには分かった。
彼女の知識については頼りになるが、冒険者としての実力は――。
まぁ、大学教授なのだから仕方ない。
「賢者技能8ですか。すばらしい。流石は大学教授ですね」
「当然なんだぞ!! ふふん!! どうだ、これでボクが本当に賢いってことが、よくわかったんだぞ、ティト、モーラ!!」
そんな技能を褒めそやされて得意気にするワンコ教授。
残りのパーティ三人は生温かい視線で見守るのだった。
「精○技能がモーラさんより上とか。案外、ドスケベなんだ、ケティも」
「よくもまぁそんな初期のネタを引っ張って来たわね。
こつり、と、男戦士の頭を叩く女エルフ。
ふと、その時だ。
どこかから視線を投げかけられているような感覚を、彼女は感じた。
すかさず辺りを見回してみたが、あいにく、ここは道具屋の中である。
ただでさえ人が多いのだ、そりゃ、こんな派手なやりとりをしていれば、見られるか、と、彼女は気にしないことにしたのだった――。
◇ ◇ ◇ ◇
「くふふふっ、いいことを聞いてしまったのじゃ」
道具屋の端の方から女エルフたちを見る者がいた。
手にはなぜか銀色のスプーン。
それは金色の髪をした少女であった。
◇ ◇ ◇ ◇
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本作のサブキャラ、ヨシヲとビクターが活躍する番外編「【どエルフさん外伝】俺の名はブルー・ディスティニー・ヨシヲ」の連載を開始しました。
ノベゼロコン参加作品になります。
ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。
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